第23話 厄災の棘
清涼とした湖畔に別れを告げた。
俺達はアーカス湖からターメイ川沿い上り再びウォグナム渓谷にやって来た。
渓谷はターメイ川沿いに細い道があり、旅人はその道を使い渓谷を抜けるのだ。
前回は渓谷の出口で盗賊に待ち伏せされたが、今回盗賊はいない。
ターメイ川の両側にはアッアート山とエソーネ山と言う比較的高い山がある。
その山々には所々古代遺跡があり、そこに魔獣や魔族が住み着いている。
その為、旅人が渓谷を抜けるのを難しいものにしている。
ターメイ川は上流の方で2つに別れ、一方が本流、一方が支流のワーグ川となっている。
俺達はその支流のワーグ川沿いの細い道を通りアデオムに戻る。
合流付近のワーグ川は濁っており、底を見通すことが出来ない。
ブリッツによると、何かが潜んでいる可能性は無いそうだ。
ただ、ワーグ川対岸にいくつかの魔獣の反応がある。
その中でも最も大きい物は河川の合流地点の付近の対岸におり、距離が離れているためさほど心配はなさそうだ。
曲がりくねった細い道を進んで行く、ワーグ川はだんだん水量が少なく無くなっていくようで底が見え始める。
「妙だな?拙者たちが通った時はここまで水量は少なくなかったはずでござるが?」
ビゼンがそう呟く。
たしかに妙である。
よく見ると苔むした岩はもっと上の方にあり、川が流れている近くは苔の生えていない石が多い。
もっとよく観察しようと川に降りようとすると、ブリッツが警告を出す。
「先ほど対岸に居た大型の魔獣が後方よりゆっくり近づいてきます。
同時に遺跡より数体の魔獣、ワイバーンらしい個体も接近中です。」
この細い道で挟撃するつもりだろうか?
後方の魔獣が何かは判らないが、ワイバーンではブリッツ、オースティンやビゼンは止められないだろう。
後方からやってくる大型の魔獣も気になるが、先に進むことにした。
そして、曲がりくねった道を進んで行くとそこに信じられないものが目に入ってきた。
――――――――――――――――――――――――――――――
ワイバーンと言われたそれは自らの住処であった遺跡を破壊していた。
破壊したそれを材料とし、かつ遺跡に住むワイバーンを手下とする。
手下となったワイバーンに材料をある場所に運ばで着々と準備を整えていた。
そしてその準備が整ったころ、奴ら、金ピカがやって来た。
だが、焦って飛び出すことはしない。
じっくりと自らが作った罠に金ピカが向へば良いのだ。
金ピカはしばらく辺りを窺っていた。
こちらは向こう岸から遠く離れており、金ピカはおろか自分も射程範囲外であった。
その後、金ピカ連中が川を上って行ったのを見てゆっくりと自らも河川を上りだした。
――――――――――――――――――――――――――――――
谷全体が岩でふさがれ通行できなくなっていた。
川がせき止められ、そこには小さいながら湖ができつつあった。
「これは川の石を何とかしないと通れない様だな。
簡易の堰になっている為、ちょっとしたことでそこから崩れる危険がある。」
上空から様子を窺ったカイルスはそう報告する。
「大型魔獣急速接近!!上空からも接近してくる魔獣多数!!」
ブリッツの警告と共に、後ろより咆哮が聞こえた。
見るとそこには、にやにや笑うような凶悪な姿をした四つ足の獣。
体高は5mもあるマンティコアがいた。
マンティコアはその尻尾をこちらへ向けると巨大な針を撃ってきた。
寸前の所で、その針をよける。
が、それは俺達を狙ったものではなく後ろの堰を狙ったものだった。
針により堰の一部が崩れそこから勢いよく水が噴き出した。
「!!」
噴き出した濁流は俺達やティオの乗る馬車ごと下流へ押し流す。
ブリッツやオースティンはなんとか耐えて流されずに済んでいる様だが、空からワイバーンの集団が襲い掛かり、その迎撃を行っていた。
馬車は何度が岩にぶつかったあと川岸に乗り上げ止まっていた。
ティオは川岸に乗り上げた衝撃で外に投げ出されていた。
だがそこはマンティコアのすぐ近くであった。
「まずい!」
俺は咄嗟に駆け出していた。
マンティコアはその凶悪な尻尾をティオの方へ向けていた。
マンティコアは思った。
奴らは集団で来るから、我が負けたのだ、1対1なら負けるはずが無いと。
ならば、それを分断し各個撃破すればよい。
その為の堰である。
丁度目の前にその一匹倒れており、もう一匹が近づいてくる。
マンティコアの針は一本の巨大な針の他、小型の複数の針、「厄災の針」を撃つことが出来る。
その奴らに向けて「厄災の針」を打ち込んだ。
「間に合え!」
俺は剣を抜くと、飛んでくる針を打ち落とす。
危機感からアドレナリンが上昇し急速に集中力を高めてゆく。
「一つ、二つ、三つ!」
「うぉおおおおおおおおおお!」
飛んでくる針を剣で撃ち落とし、払い、逸らす。
全ての針を防いだ後は息も絶え絶えになっていた。
だが、マンティコアの攻撃はそれで終わりではなかった。
一飛で間合いを詰め、強靭な鉤爪を持つその腕を振るった。
ザッパーッ!!
鉤爪は左肩から袈裟懸けに振るわれ、その一瞬で切り裂かれた。
傷口から大量の血が噴き出す。
「グボォッ!」
口から血を噴出した、傷は肺に達したらしい。
剣を片手に何とか踏ん張るが足に力が入らず転倒する。
俺は急速に血が失われつつ、有体に言えば死につつあった。
「フガク殿!爺、手当てを!」
「ぬう、いかん。生命を維持するだけで精一杯じゃ。このままでは・・・。」
「ブリッツ!早く来て!このままでは富岳さまが!!」
「ああ、死んではいけません。せっかく、せっかく」
「わたし、私を、一人にしないで!!」
何か聞こえる。誰の声だろう。
泣いている?
ティオは無事だろうか?
敵はどうなったのだろう?
戦うにも手足に力が入らない。
ふと見ると、目の前に「承認」と「拒否」が赤く点滅している。
何だろう?
(戦いたければ承認せよ。)
そう言われた気がした。
そうだ、まだ敵は倒していない。
ティオを守らなくてはならない。
意識が遠くなる前に見えたものは、青く点滅する「承認」文字だった。
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