第19話 月に吼える。
魔力渦動溜のトンネルを抜けると、何台かの馬車が引き倒され、所々血だまりが出来ていた。
目の前の馬車の周りには何匹かの豚の様な顔をした生き物がこちらを見ている。
この連中がオークだろう。
背丈は人間ぐらいで、ゴブリンよりましな武装をしている。
だが、糞尿の様な嫌なにおいを発散させて、牙をむきこちらを威嚇しているようだ。
馬車から少し離れたところでは体の大きな生き物がこちらに背を向け何かを食っている様だ。
ガリ、ゴリ、クチャクチャクチャ。
「しなないよーに、てあしからたべて。やはり、いけづくりはさいこおだぁ~。」
「!」
奴め。人を喰っているのか?
あいつが、食人鬼(オーガ)だな。
「カイルス!」
「判っている。」
とカイルスが言うと、ガーンディーヴァを引き絞る。
この弓には充填(チャージ)能力があり、貯めれば貯めるほど威力が上がる。
そしてこの弓は矢がいらない。
引き絞ると光の矢が現れるのだ。
「てあしおくったら、つぎはあたまから~。ぼげラゥ」
十二分に充填(チャージ)された弓から放たれた光の矢は、ほどなく、オーガの頭を粉砕する。
死んだオーガに近づく。
そこには、手足を喰われた商人の娘がいた。
「ビンゴ。治癒呪文を。」
「いや、もう手遅れですじゃ。私の技量ではこの傷は治療できませぬ。
そして、血が流れすぎていまする。後は痛みを和らげてやるしか方法はございませぬ。」
治癒呪文が使えるからと言って万能ではない。
呪文の使い手の技量によるところが大きい。
「わかった。せめて痛みの無いように。」
「ごほっ、ごほっ、い、いもうとは・・・・。」
それを聞いてオースティンとヴィヴィに目を向けると、首を振る。
「大丈夫だ、ちゃんと保護して・・・」
「ぎゃははっはは。何言ってやがる。てめーの妹はオーク共にこんがり焼かれて真っ黒こげさっ!」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・・。」
「黙れ!下種野郎が!!」
剣を抜き打ち切りかかろうとする。
「切るのか?この俺を。武器も何にも持ってない。無抵抗なこの俺を?」
「ぐ。」
「ひひひひひひ。だからあの商人一家はみんな死んだんだよ。全部お前のせいでなぁぁあ。」
「ひゃひゃひゃひゃ。あの姉ちゃん健気だったぜぇ。
妹に聞かせない様に声を殺して、いい声で泣いてよぉ。
おれが犯れなかったのは残念だったがな。ひゃひゃひゃひゃ」
「いつまでも、妹を心配してなぁ。」
「あ、でも妹はとうにおっちんだってばらしちまったか」
「ぎゃははっはははははははははっはあははは。」
ザシュッ!
「うぎゃああああああああ。俺の腕がぁあ!!」
ザシュッ!
「いでぇいでっぇいでぇ。おい!オーク共こいつらを何とかしろ!」
俺の手は止まらない。
ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!
後には盗賊だった者の塊が残されていた。
「こやつ人間のくせに、魔族とつるんでいたのか。汚らわしい。」
カイルスが吐き捨てるように言う。
「ブリッツ、オースティン、ビゼン」
「「「おう!」」」
「カイルス、ヴィヴィ、ビンゴ」
「「「はい!」」」
「オーク共を殲滅する。一匹も残すな!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
ブリッツとオースティンが突撃し、オーク達を攪拌する。
集団から逃れたオークをカイルスとヴィヴィが打倒してゆく。
ビゼン、ビンゴはその間を行き来しつつ、オークを倒す。
俺はオーガの一体と対峙していた。
ゾモロドネガルの剣は魔族特攻を持つ。
その力は魔族と対峙したときに発揮される。
その力は筋力、敏捷力、耐久力を倍加させ攻撃時のダメージを飛躍的に上昇させる。
また、対峙する魔族には防御低減を与える。
その結果、オークに比べ数段強いオーガの皮膚を容易く切り裂くことが出来るようになる。
オーガを簡単に切り捨てた俺はオークの集団に飛び込んだ。
剣は対峙する魔族が増えれば増えるほど、その力を増す。
「はぁあああああああああああ。」
斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!
前後左右、縦横無尽に動きながらオークを斬る。
剣により倍加した速度で動くためオークに的を絞らせない。
気付くと辺りは薄暗くなり、俺は殲滅したオークの山の上で一人叫んでいた。
「ちくしょうー!!!!!」
俺は誰も助けることが出来なかったのだ。
そんな俺を月は静かに見ているようだった。
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