第17話 グラビティ・クラスター

俺達は荒野を進んで行く。

見渡す限り、土、土、土である。

そんな中、俺は鳳凰が漏らした、「まさか直接消滅」ということを考えていた。


「まさか」という言葉が「直接消滅」に掛かっている。

そこから、正攻法は「間接消滅」だと判る。

ならば、「間接消滅」とは何か?

「直接」というのが、俺達が行うことを指しているのなら、「間接」というのは俺達ではない誰かの力。


「・・・・・・・・・・・・・・」


あれ?ひょっとして、封印の像?

火の部屋の前に像はまだ置いてないけど、木の部屋の前に置いた像は木の部屋のものだから緑の虎。


(・・・・・・・・・まずい、間違えたかも。)


しばらく進むと、今までと同じ様な祭壇の前に出た。

やはり同じように5つの像が並ぶ。

今回は土を表す黄色の像だ。

土に対する陽は金。この場合は虎である。

おれは虎の像を取る。


案の定、麒麟が現れ


「汝、試練を受けし者どもよ。」

「像を取りし者よ、相応の試練を与えん。」


やはり同じセリフを言い、何かを召喚している。

いくつかの土が盛り上がり集まり蠢く木型になってゆく。


「ジャイアントローパーだ。厄介な敵だぞ。」

オーステインによると、彼らは数本の触手を持ち触れたものを麻痺させる。

攻撃範囲も広く、触手の攻撃で全滅になる場合もあるそうだ。


「ふむむ。ローパーとは面妖な。わが刀の錆にしてくれる。」

「何の。俺の二刀の前で敵ではない。」


前衛二人は気合が入っている様だ。

しかし、これは試練のモンスターである。

通常のジャイアントローパーとは違うはずである。

俺はおもむろに持った虎の像をジャイアントローパーにぶつけた。

虎の像をぶつけられたジャイアントローパーはあっという間にかき消えてしまった。


「「・・・・・・・・・・。」」


俺は残りの像とジャイアントローパーにぶつけた像を回収する。

すべて回収した途端、元の部屋に戻った。


(取り方も間違えていたか・・・。)


気を取り直して、次の金の扉をくぐる。

岩石だらけの場所を歩き祭壇の前に出た。

白い像が5つ並んでいる。

今度は躊躇することなく、白虎の像を取る。

その部屋では何も出現せず、すべての像を回収すると元の部屋に戻された。


(やっぱり、失敗か?)

(でもまぁ、最後まで続けてみるか。)


最後の黒の扉を開けると川の流れの中に出現した。

川は比較的浅く、上流に祭壇らしい物が見える。


(固定されてしまった、最初の像は何としても取りたいんだが

どうすればいいのか?)

それを考えながら最後の像、黒い像を取ったのであった。

これで手元には封印の像、緑、赤、黄、白、黒がそろった。


(とりあえず、正解の像は使えない。)

俺は緑の虎と同じ組み合わせ、赤の玄武、黄の竜、白の鳳凰、黒の麒麟をそれぞれ置こうとする。

「フガク、像が固定できない。」とオースティン。

聞いてみると他の人も固定できない。

ためしに俺が置いてみると、ちゃんと固定できた。

俺以外が置けないようになったらしい。


順番に置いてゆくと、5つ目を置いた時に台の中央が光った。

そして台に像が吸い込まれると同時に部屋の真ん中のプレートの前に新たな台が出現し、その上には武器らしいものが載っていた。

そして、プレートには文字が書かれていた。


・ゾモロドネガル

エメラルドがちりばめられた剣。魔族の系列に特攻。魅了など精神系の効果を無効または半減する。

出現した剣は俺にしか取ることが出来なかった。


剣を取り、別の像を台に置こうとしたが置くことが出来なかった。

どうやら一人1回までのようだ。

像は無くなっていないし、台に置けなくなったのは、武器を手に入れた俺だけなのだろう。

結局、残りの像を順番に置いてゆくことで、武具を合計5つ手に入れることが出来た。


・ゾモロドネガル

・アスクレピオスの杖

・フェザーマフラー

・草薙の剣

・ガーンディーヴァ


5つの魔法の武器、しかも極上級のものを手に入れ、俺達は浮かれていた。

家に帰るまでが遠足です!、とはよく言ったものだ。

帰り道ほど油断からの事故が生じやすいのである。


「しかし、いい剣が手に入った。しかもこの剣は兄弟剣が存在するらしい。」

と草薙の剣を手にするのはオースティンである。


「私も補助が強力になる杖が手に入りました。これで若やみなさんにより貢献できるというものです。」

ビンゴの基準はやはり若である。


「うひょひょひょひょ。」

奇声をあげながらヴィヴィがふわふわと飛んでいる。

どうやらフェザーマフラーの効果らしい。

あと、呪文に対するボーナスもあるとか、よくわからないが。


ガーンディーヴァを手に入れたカイルスは

「強力な武具を手に入れたのは良かったが、何かある気がするな。」


そう言いながら通路を進んで行くと、目の前の門から3体の魔族が現れた。

魔族は現れたというより、何かから逃げている様だった。


魔族を見たカイルスはすかさずガーンディヴァの弦を引く。

ガーンディヴァから光球が放たれ、3匹の魔族を貫いてゆく。

命中度、威力申し分ない弓である。


「む、まだ来るぞ!」

カイルスがそう叫ぶと、矢継ぎ早に弦を弾くと更に現れた魔族を貫いてゆく。

オースティンもブリッツ、ビゼンも突撃し、魔族を押し返そうとする。


(そういえば、ゾモロドネガルは魔族特攻だったな。特攻てなんだ?)

ゾモロドネガルはセイバーだかシャムシール・エ・ゾモロドネガルなのだろう。

刀に比べて微妙に曲がってはいるが同じように扱える。

と考えていると、オースティンの脇を抜けた1体がこちらに来た。


この間、上空から襲ってきたバル=ルグラだ。

すかさず剣を振るとまるでバターを切るかのような手ごたえで魔族を両断する。

恐るべき切れ味である。

これが魔族特攻、魔族にとって致命的なダメージを与える武器である。


魔族は門から次々あふれ出してゆく。

このままでは数の力で圧倒されるだろう。

だが、まだ押し込まれたわけではない。


(ブリッツ。このままだと相手に押し込まれて全滅だ。強行突破しよう。)

(どうやら魔力渦動溜の領域が広がったため魔族がこの遺跡に避難しているようです。)

(なお、索敵範囲内の魔族は増加中。)

(1時間以内の戦線の崩壊の可能性100%。)

(現状での強行突破の可能性・・・2%、1%、0%。)

時すでに遅く、全滅は確定的だった。


(現状での改善は不可能と判定。対象者保護のためバスターモードに移行します。)

ブリッツが手に持った剣を収めると、どこからともなく筒状の長い柄の武器を取り出した。


「グラビティ・クラスター発射体勢に移行します。軸線上の者は速やかに退去してください。」

「え!こいつ喋れたの?」

「・・・命令してなかった・・・。」

「それよりオースティンとビゼン軸線上から退避してくれ。」

「軸線上ってどこだ?」

「ブリッツの前後の範囲だ。」

「だが、某が退避すると、敵を防げなくなるぞ。」


「若。爺にお任せを。我らの新たな力を見せましょう。」

ビンゴとヴィヴィがうなずいて呪文を唱える。


「プロテクト・ウォール!」

「フォースシールド!!」

それぞれが異なった呪文を唱え多重結界が形成される。

「流石、爺だ。助かった」

「ふぉふぉふぉ。なんのこれしき。」


ブリッツの状態がやや屈み、足からアンカーが飛び出す。


ガガッガン!


「うひゃ。おっかねえ」

フーの足元にアンカーが突き刺さったのか、ブリッツの裏側に移動しようとする。

「フー!そこは軸線上だ。発射時の衝撃に巻き込まれるぞ。」

「ひぇぇぇぇぇ。」

慌てて逃げる。


ブリッツが構えると、筒状の部分が上下左右の4つに分かれ、唸りをあげていく。

4つに分かれた部分の中心には黒い塊が生成されてゆく。

グラビティ・クラスター、その名の通り「重力の塊」。

いわゆる高重力で周りを吸い込み圧縮しながら進む超兵器であった。


「発射シークエンスに移行。発射の合図は、マスターにお願いします。」


ギョォギョォギョォギョォ!!


「カウントダウン開始おねがいします。」

「了解。カウントダウン開始 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」


「ブラスト・オフ!!!」


ゴフォオオオオオオオオオオ!!!!!!


轟音と共に、黒い塊が魔族を飲み込み突き進んで行く。


後にはグラビティ・クラスターの通り過ぎた跡が丸い道となり残っていた。

「今のうちに、グラビティ・クラスターの跡を通って脱出だ!」


「「「「「おー!」」」」」


全員、駆け足で進んで行く。


魔力渦動溜の範囲が切れ、青空が見えた所で前方から血と肉の焼けるにおいが漂ってきた。

よく見ると、馬車が引き倒され辺りは血の海で染まっていた。

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