第16話 ボイルシャルル
一本道を進んで行くと大きな木の前に出た。
その前に祭壇があり、その祭壇には緑色をした5つの像が並んだあった。
「んんん、マジこれ見たことなつーか。これっていわゆる封印の像やつじゃね?」
そう言うと、フーが像の一つを取り上げる。
「!うかつに触るな!!」
と言った時には遅かった。
手にした像が輝き光りで辺りを覆う。
「麒麟?」
光が消えた後には全高5mほどの巨大な麒麟がいた。
麒麟は形は鹿に似て竜の様な顔しており2本の角が生えている。
身体には鱗があり馬の様な蹄を持ち、黄色の鬣が生えていた。
「汝、試練を受けし者どもよ。」
「誤るにあたり、相応の試練を与えん。」
間違えたから、ペナルティがあるらしい。
白虎が吼えると周りの木々から、3mぐらいの人型の木人が2体現れた。
「ルァッキ-ッす。ゴーレムなら操れんじゃね?」
「あれはゴーレムではないな。ウッドエレメンタルかな?」
「えー。超バッドじゃん。そりゃないっすよ。」
するとウッドエレメンタルは木の葉を飛ばして威嚇してきた。
戦闘は避けられない様だ。
「ヴィヴィとカイルスは加速呪文と防御呪文を頼む。
左はオースティンとビゼン、右はブリッツと俺。フーは奴らの裏に回って攻撃。
ビンゴは様子を見て回復。いくぞ!!」
「「「「「「おー!!!!!!」」」」」」
3mぐらいの大型エレメンタルとはいえ相手にならない。
オースティンとビゼンは相変わらずの連携でウッドエレメンタルを抑え込んで行く。
俺とブリッツもそれなりの連携で抑え込む。
やはり、腕が上がったためかブリッツとの連携が少しズレ気味に感じる。
あっという間にウッドエレメンタルをダウン寸前にまで追い込んで行く。
再度、白虎が吼えると1体がミルヴィナのすぐ近く木からあらわれた。
「何ぃ!!!!!」
ブォン
ウッドエレメンタルの巨大な腕がミルヴィナを襲う。
ガシッ、ポイ。
「当て身投げ!!!」
「当然、護身術ぐらいはできますわよ。」
護身術のレベルじゃない気がするのですが・・・・・。
気を取り直して、ミルヴィナによって投げ飛ばされたウッドエレメンタルにとどめを刺す。
それと同時に虎は消えて、その場には緑の虎の像が残った。
「さて、この場合、次にどの像を取るかだが・・・。」
5つの像は麒麟の像を除いてそれぞれ、鳳凰、竜、玄武、虎の像だ。
陽の通り、陰の封印とあるのは順番と必要とする封印を示しているのだろう。
像を取る順番はこの部屋が木の部屋なので
「鳳凰」、「麒麟」、「虎」、「玄武」、「竜」なのだろう。
ただ、「麒麟」をすでに取ってしまったので次は「虎」だ。
仲間に合図し、思い切って「虎」を取る。
ガゴッ。
・・・・・・・・・・・・・・。
問題ない良い様だ。続いて順番に「玄武」、「竜」、「鳳凰」を取ってゆく。
全て取り終えると再び最初の部屋に戻されていた。
手には5つの緑の像がある。
戻ってきた部屋の立木の扉の前には像を乗せるぐらいの小さな台が新たに置かれていた。
「どうやらここに封印の像を置くらしいな。」
立木、つまり木に対する陰、相克なのは金。
金を表すのは白虎なので虎だろう。
虎の像を置くと「ガッゴン」と音がして動かせなくなった。
何も出てこないのでたぶん正解だろう。
「次の扉は、木に対する陽は火。だから火の扉だ。」
火の扉を開けるとそこは炎渦巻く火の森だった。
「毎度ながらすごい技術だな古代文明。しかし熱いな。」
「防御魔法を唱えます。ローワー・ヒート。」
カイルスが呪文を唱えると3mぐらいの範囲が青く光る。
温度が下がって涼しくなった。
火の森を抜けるとやはり祭壇があり今度は赤い5つの像が飾られていた。
火の陽つまり相性は土。
土を表す像は麒麟、俺は鹿の体に竜の顔をした像を手にとる。
祭壇に炎が渦巻き、そこから1羽の火の鳥のが生み出される。
「鳳凰(フェニックス)だ。」
鳳凰は燃えさかる木に止まると話しかけてくる。
「汝、試練を受けし者どもよ。」
「像を取りし者よ、相応の試練を与えん。」
間違えなくても試練があるようです。
目の前に炎が渦巻くとそこには1匹の火炎竜、サラマンダーがいた。
「全員防御態勢!」
「カイルスは火炎防御呪文を。ヴィヴィは加速呪文を。後は、呪文を待って攻撃。」
カイルスとヴィヴィがそれぞれ呪文を唱え、それを受けて各自が攻撃を仕掛ける。
いつもの様にオースティンが突撃するが、サラマンダーの体と突き抜けてしまう。
「なんて熱いんだ!呪文がなきゃ黒焦げだったな。」
「でも、何も手ごたえがない。不味いんじゃないか。」
「うむ、この刀では有効打を与えている気がせぬ。」
(この剣では火のエネルギー体を切ってもあまり効果が出ていません。)
前衛に効果的な攻撃ができる手段がない様だ。
「カイルスの弓矢はどうだ?」
「残念ながら。届く前に燃え尽きています。軸が木なので。」
「ヴィヴィ?」
「すみません。水系は覚えてないんです。雷系もエネルギー系も効果が低いんです。すみません、すみません。」
「・・・・・これ、まじヤバくね?つんでね?」
火系に有効な攻撃手段がないとは思いもよらなかった。
防御にも限界はあるし、威力の低い攻撃で倒すには防御呪文の回数が足りない。
「他に使える呪文は何がある?」
「私は防御系の呪文と加速、精密操作だ。」
「私は減速、呪文解除です。」
持てる呪文で効果的な方法は無いか思案する。
「減速の対象と減速量は?」
「半径5mの空間すべてです。減少量は最初の20秒間ほぼ速度が0、以降徐々に元に戻ります。」
「精密操作の対象と移動速度は?」
「対象は1m角の空間にあるもの全て。移動速度は馬の速度ぐらいです。」
「二人とも呪文の空間制御は出来たよな?」
「はい、問題ないです。」「当然だ、問題ないな。」
「なら、手はある。」
俺は彼ら二人に指示を出した。
空間制御。
呪文をただ使用するだけでなく、その形状を変えることで呪文の効果範囲を変える技術である。
効果範囲の変形はその時々に応じて可能である。
「前衛はサラマンダーをその場所から動かさないよう三方から囲め!」
「ヴィヴィはサラマンダーの上空6mの位置を中心に半径5mの空間を減速。
空間制御で内部半径3mは対象から外せ。」
ヴィヴィの呪文により、空間が減速固定される。
ただし、内部は固定されていないので空気のボールのような状態だと言える。
「カイルスは精密操作でサラマンダー上空7mの位置を中心に半径1mの空間のすべてを上方向に移動。」
続くカイルスの呪文で内部の空気が上方向に移動され、ヴィヴィの呪文の効果により固定される。
結果、内部の空気が減ることになり、空気のボールの中身がほぼ真空になってゆく。
「何かだんだん魔力消費が多くなっていきますよぉ~。」
内部が真空になるということは、内側に向く力が大きくなる。
この方法はこれっきりだと言うことか。
「あと何分維持が可能か?」
「せいぜい30秒ですねぇ。このまま増大し続けるとぉ。」
20秒後、更に指示を出す。
「ヴィヴィ、減速空間をサラマンダーの近くに移動し解除。」
ヴィヴィは巧みに減速空間を移動させ解除する。
ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオ
解除した瞬間、真空になった3mの球状の空間に猛烈な勢いで空気が入り込む。
「く、拙者も吸い込まれそうだ。」
ビゼンもオースティンも地面に伏せて吸い込まれないようにしている。
真空の空気のボールに空気が入り込んだ分、その供給元のサラマンダーの周りの空気は急激になくなる。
その結果、サラマンダーの周りの空気は極端に減ることとなる。
圧力×体積=温度である。
圧力が下がると体積が変わらない場合、温度が下がる。
ボイル・シャルルの法則である。
「ギャオォォォォォッォオォォォ。」
サラマンダーの周りの温度が急激に下がりサラマンダーは氷漬けになった。
「全員突撃!」
氷漬けのサラマンダーはブリッツとオースティンの突撃に砕かれた。
「うむ、直接消滅させるとは・・・。だが、見事なり。」
鳳凰はそう言うと炎の渦に消えていった。
俺達は残る像を回収し、次の扉を開ける。
次の扉は土、この場合は発芽の扉だろう。土には発芽する様子が元となっている。
俺は扉を開けるとそこは、見渡す限りの荒野だった。
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