第15話 古代遺跡へ
魔力渦動溜かあるという方角を目指すにつれ、空の色が虹色に歪み始めていた。
ヴィヴィやビンゴ、カイルスの呪文が使える連中によると、呪文の威力が高くと精神消費(マナ消費)が低くなっているらしい。
魔法の使えない俺にとってさっぱりわからない感覚である。
夕方着いたその場所は虹色に空が歪み所々渦を巻いている奇妙な場所だった。
ここまで近づくと、呪文の威力はほぼ最大、精神消費はほとんどない状態なんだそうな。
流石に今からでは夜中になる為、渦のすこし前で野営することになった。
夜間を魔族が襲ってくるかもしれない為、三交代で野営する。
俺はブリッツと明け方を担当した。
「ところで、ブリッツ。戦闘時の反応が悪い気がするんだが。」
「それですか。それはマスターの剣の腕が上達したことによるものです。」
「上達・・・」
「はい。マスターとのやり取りは脳波の伝達によって行われていますが、現状どうしても遅延(ラグ)が発生します。
以前はその差は問題がなかったのですが、マスターの技術の上昇によってその差が表面化したのです。」
「うーん。そうか。」
夜は更けてゆく。
簡単に朝食を済ませ、俺達はその渦の間を通って奥へ進むことにした。
(マスター、虹色の歪みには注意してください。それは空間の歪みが可視化したものです。歪みに振れた場合、どの様な事象が発生するか判別不可能です。)
(要は触れなければいいんだね)
歪みの渦が複雑に絡み、細い道を作り出している。
ブリッツによると確かに何らかの構造物の反応があるそうだ。
センサーに引っかかるところから判断すると、古代遺跡だろう。
俺達はブリッツの案内で細い道を進んで行く。
(右上方、変異増大!何か来ます。)
ブリッツの警告を受け、
「上から何か来る。戦闘用意!」
それと同時に空間が更に歪み3体の異形の者が飛びかかってきた。
歪んだ猿のような顔には大きな牙が生え、全身に毛が生えており手の先から長く鋭い3ん本の鉤爪が生えていた。
「FuVhoooooooooooooooo。」
甲高い異音と共に異形の者が襲い掛かってくる、これはバル=ルグラという上位魔族の様だ。
性格は極めて残忍。生物を切り刻む時に発する悲鳴を好む。
そのバル=ルグラの爪がブリッツを切り裂こうと閃く。だが!
「キーギャギギギギギギギー!!!」
余りにも固いアダマス合金の装甲に阻まれ傷を負わせることが出来ない。
オースティンも一方の剣を使い巧みにその攻撃を逸らしている。
ビゼンは盾を構えてその攻撃を受けるが落下による追加効果が大きくダメージを減少しきれていない様だ。
皮膚が裂け鮮血が飛ぶが、すかさずビンゴの回復呪文が詠唱される。
事前に警告を発したおかげで不意は撃たれていない。
ヴィヴィとカイルスはそれぞれ加速の呪文と防御壁の呪文を唱える。
加速の呪文により攻撃速度の上がったオースティンの連続攻撃。
剣が振るわれるたびバル=ルグラの腕が、牙が、体が傷を負ってゆく。
負けじと、ブリッツの攻撃。
残念ながら、ゴーレムには呪文の効果が及ばない為支援呪文は使えないが、それ以上に地力が高い。
最高硬度を誇るアダマス合金製の剣によるすべての攻撃が必殺である。
ビゼンは地味ながらも着実に相手を追い込みダメージを与えてゆく。
動きに無駄がなく洗練された剣捌きである。
その合間を縫って、ヴィヴィのミスティック・レイの呪文が飛ぶ。
熟練度が上がったのか、レベルが上がったのか3本の光線が撃てるようになっている。
カイルスは周りを警戒しつつ、弓矢での攻撃。
フーはなんとビゼンの陰に隠れ相手の死角からの攻撃でバル=ルグラに致命的なダメージを負わせていた。
上位魔族とはいえに2、3匹なら問題なく対処できるようだ。
俺達はバル=ルグラを倒し遺跡を目指すのだった。
細く曲がりくねった道を抜けると少し広い所に出る。
そこには灰色の遺跡があった。
たどり着くまでに、魔獣や魔族との戦闘があったが、俺達の敵ではなく、難なく排除していった。
遺跡には鉄の大きな扉がついており、ブリッツやオースティンが並んで通れるほどの大きさだった。
扉の向こうは、幅広い廊下が続いており、俺達が入ると横の壁にある燭台に明かりが順番に灯ってゆく。
「向こうに進めと言っている様だな。」
ビゼンが刀を抜き周囲を警戒しながら言った。
(周囲に生体反応はなし。この建築物自体は4千年ぐらいのものです。)
「慎重に進んで行こう。」と俺が言うと
「その前にそろそろお昼の時間です。」と言うとミルヴィナはバックパックから調理道具と調味料を取り出し始めた。
「ふむ、確かに言われるように食事の時間で有るな。」今度はカイルスが簡易テーブルを出す。
我々の食料や水の大半と、簡易の椅子やテーブルはブリッツのバックパックや移動キャリアーに収められている他、各自が何日か分を持っている。
調理道具、調味料はミルヴィナの担当である。
彼らは食料を必要としない為、その分余分に運べるのだ。
廊下の真ん中で食事を始める。と同時に会議だ。
「この遺跡に入ってマナの自動充填は無くなりました。」とヴィヴィが報告する。
「たしかに、何かまとわりつく様な感じは無くなったな。」
この廊下の先に遺跡が影響を受けない理由があるのだろうか?
「見たところ、帝都の地下遺跡に似てますね。」とカイルス。
「帝都に地下遺跡があるのか?」
「ええ、かなり古いもので古代文明の残滓を色濃く残しており、今でも稼働可能な部分があるという話です。
ただそこは王族しか入れない地点にありますが。」
「と言うことは、この遺跡もその類であると?」
「おそらく。」
この世界の古代文明は俺から見ても恐ろしいほど高度な文明である。
遺跡の周りの魔力渦動溜でさえ、古代文明の何らかの兵器であることが俺の読んだレポートで示唆されている。
辺境伯領地での1か月の勉強は無駄ではない様だ。
食事を終えた俺たちは、廊下を警戒しながら進み、大きな部屋に出た。
そこは円形の部屋で中央に幅1m、高さ2mほどのプレートがあり何やら書かれている。
入ってきた入り口の他に扉が五つあり、それぞれ緑、赤、黄、白、黒の扉があった。
扉にはそれぞれ、立木、炎、発芽、鉱物、流水の図案が記されていた。
「これは5行?」
この世界の呪文体系は地水火風の4属性とされている。
呪文体系とは違う理なのであろうか?
中央のプレートは銀色の金属で出来ていた部屋と一体になっている。
プレートの表面には何やら書かれている。
この部屋のルールらしい。
陽の通り、陰の封印
正しき扉の封印を集めし者のみ
我を手にする。
「封印を集めると何かが手に入るものということか。」
「若、爺もそう思いますが、我々が探している物やもしれませぬ。」
ビゼンとビンゴはプレートの前で何やら話している。
「多分、封印は各扉の向こうに複数あるということだな。度の扉から始めるか?」
腕組みをしながらカイルスは皆に尋ねた。
「炎や流水は何やら危なそうだな。」
オースティンは炎と流水以外なら何でもいいみたいだ。
「私も炎と流水は賛成できないかな。鉱石もキラキラしてて私なんかが・・・。」
「爺と私は炎以外なら何でもよい。」
「隊長はどうする?」カイルスは俺に尋ねてくる。
「そうだな、ここは無難に立木の扉かな。まずいことが起こっても対処しやすいかもしれない。」
特に反対もなかったので、立木の扉を開けた。
開けると同時に、6つの扉すべてが消えて無くなり、森の中の広い場所に出た。
部屋の扉を開けると同時に部屋の中にいたもの全員を移動させたらしい。
「すごい技術だな。いつ移動したのか判らなかった。」
物体が移動する時に慣性が働く。
だが、今の移動はその慣性が全く感じられなかった。
瞬間移動の場合は問題ないと考えられがちだが、この惑星は自転しているのである。
スタート地点におけるベクトルが出現地点のベクトルと同じ方向ではない。
瞬間で位置が変わったのであるから、ベクトルが違い、それが慣性として感じられるはずなのである。
例をあげると、星の正反対に慣性を制御せずに瞬間移動すると3000km/hで吹き飛ばされることになる。
「慣性の制御も完全に行える文明か。」
森の奥には1本の道が続いていた。
だが、ここは通常の森ではない。
動物の声が一切しないのだ。
「まだ遺跡の中で間違いないと思います。魔力も回復しません。注意して進みましょう。」
カイルスはそう注意を促す。
俺達は慎重に森を探索するのだった。
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