第12話 寂れた旅籠
戦闘で疲れた体を引きずりしばらく進む。
鬱蒼とした森中に少し開けた場所に出た。
近くに小川が流れ見通しが良い。
日も暮れてきたことなので、今日はここで野営となった。
ある者はテントの準備を、ある者は食事の用意を、中には薬の調合(ヴィヴィ)を行ったり、結界(ビンゴ)を張ったりしている。
俺は見張りに立ち、辺りを警戒する。
見張りをしていると、食事を持って年の頃は18才ぐらい5才ぐらいの姉妹がやってくる。
出発前に話しかけてきた商人の家族だそうだ。
「今日は助かりました。ありがとうございました。」
「おーちゃん。ありあーとー。」
商人曰く、魔獣(バーゲスト)に囲まれたときは絶対に助からないと思ったそうだ。
魔獣に囲まれた場合、一目散に逃げるしかない。
追いつかれたものは食い殺される。その間に残りのものが逃げるのだ。
そんな魔獣が10頭も現れることは聞いたことが無いそうだ。
「俺たちが子供に自分はこの森はこんな森じゃなかったんだよ。」
一緒に見張りに立っている護衛の男が教えてくれた。
帝国が崩壊して城塞がゴブリンに占拠され、しばらくするとこの森に魔獣が現れるようになった。
ゴブリンなどの魔族と魔獣はともに行動することが多く、その一部がこの森にすみ着いた。
普通の動物では魔獣に勝てるはずがなく、徐々にその住処を奪われていったのだ。
また、魔獣はある程度マナに影響を与えることで呪文を使用し周りに影響をあたえる。
それは住処についても言えることで、魔獣が住み着くとその者にとって好ましい環境に周りを変化させてる。
魔獣は新たな魔獣を呼び寄せ、僅か20年で森は様変わりし、今の様になった。
魔獣は違う個体の魔獣を倒し、その血肉を得ることで爆発的に強くなる。
そうやって強くなった個体が上位個体であり、今回のブラッド・バーゲストがバーゲストの上位個体となる。
ただこの森はバーゲストしか確認されておらず、ブラッド・バーゲストは出現していなかった。
だから、バーゲストが現れても単体もしくは2,3頭で逃げ切ることが可能であった。
ここで、城塞の地下に居た、エルダー・ブラディ・ソーンを思い出す。
ブラディ・ソーンの上位種がエルダー・ブラディ・ソーンである。
あの植物はゴブリンを捕食していた。
ブラディ・ソーンがゴブリンを捕食することでエルダー種になったと考えてよいだろう。
ブラッド・バーゲストの出現はバーゲストがゴブリンを捕食したことだとすると、まだ数頭のブラッド・バーゲストが出現する可能性がある。
食事を手早く終わらせ、考えを巡らせているとヴィヴィがやって来た。
「とりあえず、調合できたので渡しておきますよ。」
何やら香のようなものを渡される。
「バーゲストの角から調合した、マナの動きを乱す香よ。」
何でもバーゲストの体をブレさせる能力は角に由来するらしく、調合によってマナ自体を干渉し能力の発動を阻害する香だそうだ。
簡易調合なので効果時間が短く、ブレを完全に止めることが出来ないが、多少見づらくなるだけで、普通に攻撃できるようになるそうだ。
そうやって、話していると遠吠えが聞こえてきた。
恐怖の叫び声だ。
だが、前もって張った結界によって恐怖を覚えてパニックになるものはいない。
準備万端である。
夜が明けるころには9頭のブラッド・バーケストと87頭のバーゲストを倒していた。
香によってブレが抑えられたのと、開けた土地が幸いし、オースティンとブリッツが縦横無尽に突撃できたおかげである。
この森のほとんどのバーゲストは倒したのではないかという量である。
使える素材だけでもひと財産だ。
俺たちは上位種を生み出さないよう、残ったバーゲストを灰にし、地面に埋めた。
2時間の睡眠後、森を抜けるべく移動する。
途中、バーゲストに狙われることは無く、森を抜けたのであった。
森を抜けると街道は草原の真ん中をまっすぐ伸びているのが見える。
ここまでくれば、町までは近い。
俺たちは今日中に町へ入るべく急ぐのであった。
「町が見えてきました。ようやくつきましたわね。」
森を抜けてから俺は馬車に馬を並べティオさまと話していた。
「それで、ティオさま。明日は何時に出発しますか?」
「・・・ティオです。」
「ティオさま?」
「テ・ィ・オ です。」
「えー。あー。テ、ティオ、明日は何時に出発しますか?」
「・・・ふぅ。強行軍で少し疲れていますので、2,3日逗留します。」
アブサム。その町はすっかり寂れていた。
城塞都市ウォ―ドと地方都市との街道筋にある町で多くの旅人が立ち寄るところである。
しかし、20年前の帝国の崩壊で魔獣やゴブリンやオーク、オーガは言うに及ばずトロールの様な危険極まりない大型の魔族が出没するようになっていた。
安全な旅は無くなり、旅は危険な物になってしまった。
そうなると宿場町は人が寄らず寂れるのは必然であった。
「寂しい街ですねぇ、ぐふふふふふ。私にとって過ごしやすい町だねえ。」
うーん、寂れた町が過ごしやすいのは何か問題があるような。
妖術師とはこういう職業だろうか?
俺たちは空き家となった1軒を借り受けそこを宿とすることにした。
ティオは辺境伯の娘なので護衛と一緒に村長の家に逗留することになった。
同行している商人たちも同じような空き家に宿泊している。
「さて、アブサムでやっと三分の一といったところだが、この後はネタナム渓谷か。」
今後の予定を立てる。流石に森での様な戦闘はやりたくない。
「うぃーす。じゃ、オレが偵察行ってくるわ。」
斥候役のフーが偵察役を申し出る。
何でも人間サイズなら何でも似せられるらしい。
オークでさえ可能だそうだ。
彼に斥候を頼むことにする。1日あれば渓谷の入り口まで行って帰ってこられる。
ヴィヴィはバーゲストの素材を加工したいらしい。
しかし、痛んだベッドしかないのに部屋に案内すると、
「寒々とした部屋なうえにこんな無残なベッドを私に!
ご褒美です!ありがとうございます。ありがとうございます。」
何だろうあれは、深く考えない様にしよう。
次の日、ビゼンとビンゴ、カイラルは草原でゴブリン狩りである。
逃げたバーゲストが存在してもビゼンとビンゴが居れば遅れは取らないだろう。
俺とオースティン、ブリッツは森の再調査である。
他のものならばバーゲストと戦った地点まで1日はかかる。
だが、俺たちの移動速度なら1日で往復可能だ。
昼頃には戦闘地点にたどり着いていた。
バーゲストを埋めた場所を調べてみるが、掘り返した跡は無い。
(ブリッツ、この周囲に魔獣の反応はあるか?)
(ありません。多少の獣の反応があるだけです。)
どうやら魔獣は駆逐できたらしい。寂れた町にも活気が戻るかもしれない。
(ところでブリッツ、バーゲストに関して何か知っていることは?)
(それに関して、公開条件を満たしていません。)
(公開条件?理由は?)
(それも公開できません。条件や理由から推察される可能性があります)
(わかった)
ブリッツから情報は得られない様だ。
そうして、夕暮れには宿に戻った。
宿ではミルヴィナが夕食を用意して待っていた。
「まもなく、他の方々も戻ってこられます。」
全員がそろったところで夕食兼報告だ。
まずオースティンが報告する。
「森に魔獣の気配はない。森からこちら側ぐらいにしか魔族もいないみたいだ。」
「この近辺の魔族は結構少なかったみたいだな。住居も1,2か所しか見当たらなかった。」
「まぁ、もう住居跡だがな。」
カイラルは両親のこともあるのか魔族は徹底的の排除するつもりらしい。
「あ、魔物除けは2日分は出来た。目玉の乾燥はもう1日かかる。見る?」
見せなくていいです。
「渓谷の偵察は入り口だけで飛竜(ワイバーン)を見たっす。」
「飛竜か、厄介だな。」
「渓谷に出入りしているのは5頭。内部にはその倍はじゃね?」
馬車や商人ではワイバーンに襲われると足手まといになる。
やはり、先行して殲滅?
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