第11話 魔獣の森

ゴブリンから城塞を開放したが、街道筋が安全になったわけではない。

街道は森や谷を抜ける難所があり魔獣や盗賊といった類が出没する。


長旅をする以上、渡り戦士に護衛を頼むのは必須であった。


町の門の前で白髪の老人が銀髪の少女に挨拶をしている。

老人は身長は170cmぐらい細身の姿でロイドメガネをかけ学者然といった容貌である。

薄手のマントを羽織り、手には装飾のついた杖を携えている。

領主の

「ティオよ、本来ならば私が行くべきなのだが、この街の復興もある。護衛の数も守りがある故、それほど出せるわけではない。」

「だが、帝都開放の為の会議にはそれなりの地位のものを派遣せねばならぬ。

少ない護衛だが、どうか判ってくれ。」

「いいえ、お爺さま。富岳さまは頼りになるお方です。」

「このティオ・レンボルト、お爺様の名代としてお役目をしっかり果たしてまいります。」

「うむ。実に頼もしいことだ。富岳殿、ティオのことよろしく頼みましたぞ。」

領主が俺の手を握り頼んでくる。

「はっ。身命を賭して。」

そう答えた。その時は本当に身命を賭すことになるとは思わなかったのである。




目的地の城塞都市ウォードまで馬車で10日ほどの旅である。

旅には俺たちだけでなく、巡回商人や巡礼者も加わり大団体になっていた。

実際、少人数での旅行より大人数での旅行の方が魔獣や盗賊に襲われにくい。


小規模の商人や一人旅の者は何人か集まって渡り戦士を折半で雇ったり。

今回の様に渡り戦士に集団を雇える商人や領主と行動を共にするのである。


「あっしらはウォードの町の先のアダーカまで行くんです。そこで特産品を仕入れアデオムまで戻ってくるんです。」

年のころは45,6歳であろう商人が話しかけてくる。

18歳ぐらいと5歳ぐらいの娘と共に旅を続けているのだそうだ。

「ウォードの町からアダーカへ行く途中に魔力渦動溜がありますが、今月は渦動が弱まる月なので通ることが出来るのです。」


魔力渦動溜、それはマナ渦巻き不安定になって場所のことせある。

その渦に巻き込まれた場合、どんな事になるのかは不明。

体を引き裂かれてバラバラになったり、とんでもない僻地に飛ばされたり、起こる現象は無差別に起こる。




商隊は田園風景を抜け森に差し掛かる。

まだ森の浅い所であるが、その先から魔獣の気配がするようになる。

商隊から遅れたものを狙うように、ゆっくりとその包囲を狭めてきている。

俺たちは迎撃のため、商隊を止め臨戦態勢に移る。

そして、馬車を中心に円陣を組む。


ヘッドアップユニットにはブリッツを通しての情報が映し出される。

数は10体、大きさは体高80cmぐらいの大型犬といったところだが、その後ろに体高1mもある超大型犬がいる。


何の前触れもなしに、5頭の大型犬が飛び込んできた。

その姿は漆黒の狼であり、鉤爪の様な赤い目とねじ曲がった角を持つ魔獣、バーゲストだった。


5頭のバーゲストはその体をブレさせながら襲い掛かってきた。

何らかの魔法の効果で姿をずらして認識させることが出来るようだ。

カイラルの矢が1体に命中するが、ブレている分狙いが定まらず、致命傷になっていない。

ビゼンの刀もブリッツの剣もブレた姿でその軌道をずらされている。

ひときわ大きな、ブラッド・バーゲストは残りの5頭をその前に布陣させ、そこから指揮を執っているようだ。

その指揮をかく乱させようと、オースティンが突撃しようとするが、前の5頭と森に阻まれその長所を生かせないでいる。

ヴィヴィの魔法も射線を遮られている。

俺たち以外の護衛もいるのだが盾を構えて防戦一方である。


「ゴォオオオオオオォ!!!」


ブラッド・バーゲストが吼える。

商隊は異常な雰囲気に飲み込まれる、ブラッド・バーゲストの精神攻撃である。


「冗談じゃねえぇ!このまま喰われてたまるか!!!」


その攻撃に耐えられず、絶望の表情を浮かべた男は囲みを飛び出しその場から離れようとする。

そんな逸れた者を逃すほど甘くない。

2頭のバーゲストが男に襲い掛かり、1頭は足に、もう1頭は首に噛みつく。


ゴキ、バギ、グシャ、ゴキ、ゴキ、ゴキ・・・。


男は単なる肉の塊に代わり咀嚼される。

残りの3頭がさらなる犠牲者を求め威嚇する。


「若、ここはこの爺にお任せください。」

ビンゴがそう言うと呪文を唱え始める、神聖呪文だ。


「我が親愛なる竜の神よ。真実の目を我が主に授けたまえ。ブレイクスルー!!」


ビンゴの呪文を受けビゼンの目が青く輝く。

その目はバーゲストの呪文効果に阻害されず、本体を見分ける。

ビゼンの刀がバーゲストを捕らえ、断末魔の悲鳴を上げさせる。


更に1頭とビゼンの刀がバーゲストを捕らる。これで後8頭。

だが油断はできない。

バーゲストは自分の姿を余分に映し出す能力の他にもう一つの能力をもつ。

そのもう一つの能力が使われていなかった。


俺はヴィヴィに範囲呪文の指示を出す。



素早く2頭を倒したことで、少し防御陣にゆるみが見られた。

その時、ブラッド・バーゲストが再び吼え再び精神攻撃を行ってきた。

精神攻撃を再び受けた何人かは一瞬硬直する。

その隙にバーゲストはもう一つの能力、浮遊で接敵する。

森の木々を生かして、上方向からの攻撃である。




「ライトニングバースト!」

広範囲の電光がバーゲスト映し出しを攻撃する。

頭上から襲おうとした2頭はその電光を受け墜落すが致命傷ではない。

電光ではバーゲストの毛皮を少し焦がした程度だった。


ビンゴの呪文も万能ではない。

本来なら、数秒で終わる呪文を数分効果があるように変化させている。

その代償として汎用性が下がっている。

ビンゴの「ブレイクスルー」の呪文は同族にしか使用することが出来ないのだ。



範囲呪文を唱えている間に、ブラッド・バーケストが動いた。

残りの5頭と共に上下左右からの攻撃を行いブリッツやオースティン、カイルスの狙いを絞らせない。


徐々に防御側を疲弊させ、一人一人剥がそうと一撃を与えては去るといった戦法をとる。

地面を見るとバーゲストの影が舞っている様だ。



・・・影が舞う?



俺は思いついたことを確かめるために尋ねる。

「ヴィヴィ!持続時間の長い電光は出せるか?」


その言葉を受けてヴィヴィが呪文を唱える。

「シャイニング・ライト」


薄暗い森をまばゆいばかりの電光が辺りを照らし出す。


「思った通りだ。影の上を狙え!それが本体だ!」


それを聞き、ブリッツがオースティンがカイルスが反撃に転じる。

いままでの鬱憤を晴らすかのようにバーゲストに攻撃する。

今まで薄暗いためはっきりと判らなかったバーゲストの影がはっきり見えるようになる。


本体の位置さえ掴めれば、通常のバーゲストは彼らの敵ではなかった。

しかし、ブラッド・バーゲストはそう簡単には倒れない。


その体躯を倍に膨れがらせ突撃を行う。

間違いなくこの攻撃により、防御陣は弾き飛ばされ残ったバーゲストにより犠牲者が増えるだろう。


「させるわけにはいかない!」


俺はブリッツに指示を出す。


「シールドを展開。ブラッド・バーゲストに対抗。弾き返せ!」


ブリッツに指示を出す場合、声に出す必要はない。

だが、声に出すことにより仲間に戦法を伝え、次の一手に対応させるのだ。



ガゥオオオオーン


アダマス合金の盾と魔獣がぶつかり合う。

双方の計り知れない威力の突撃が辺りに衝撃波を生む。


しばらくその力は拮抗していたがブラッド・バーゲストは弾き飛ばされ大木にぶつかる。

ぶつかってその動きが止まったところに、オースティンの突撃が炸裂する。


双剣の輝きと共に、ブラッド・バーゲストが切り刻まれ、ついには絶命する。


群れのリーダーの敗北を知ったバーゲストたちは一目散に逃げてゆく。


俺たちはなんとか勝てた。



犠牲になった者を道の脇に埋め祈りをささげる。

放置するとアンデットになって甦ることがあるらしい。


また、倒したバーゲストからは毛皮と鉤爪、ねじ曲がった角をとることが出来た。

またブラッド・バーゲストからは上記の他に眼球を採取する。

バーゲストは魔獣故、体の各部はマナの影響を大きく受けている。

使えない部分(肉は食べれた代物ではない)以外は防具や薬等の材料になるのだ。



残った部分を火で焼き、旅を続けるのであった。

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