第13話 渓谷の罠

ワイバーン

一般に飛竜と言われ、竜の一種であるとされているが、知能は低く性格は狂暴。

知能は低いが感覚が鋭く、数km先の獲物の匂いを嗅ぎつけるほどである。

牛や馬などの家畜を襲い食料とすることが多く時には人間も襲われることもある。

牙や尾の針に毒を持つ。だが肉は食用として上級のものであり、その皮は防具の素材としても優秀である。


うーん。おびき寄せるには牛や馬か。


1頭を捕まえるために牛や馬を用意するのもなぁ。



「ワイバーンなら牛の血の匂いで寄って来ますよ。」


カイルスが言うには知能が低いため牛の絵と血の匂いだけで寄ってくるそうだ。


「問題がないわけではないが、このメンバーなら問題はないだろう。」

「問題?」

「たぶん渓谷中のワイバーンが集まってくるだろう。およそ20頭だと思う。」

「20!でその根拠は?」

「巣があって番でいると仮定し、それらのテリトリーの大きさと渓谷の長さを比べた場合の予測最大値だ。」

カイルスが言うからそのぐらい居るんだろう。



麻袋から牛の血をしみこませた布を取り出すと早速空に影が現れる。

「数は3つ。奴らが地上に降りたところを一気にかたずける。羽を狙え!」


「「「了解」」」



ワイバーンが地上のエサ(牛の血)を狙いおりてきたところをオースティン、ビゼン、ブリッツで攻撃する。

3頭なのでそれぞれ1頭を受け持つ。


最初の3頭は若い個体だったらしく、数分で倒すことが出来た。


だが、数が増えてだんだん手数が足りなってきた。

空に飛んで逃げたのはカイルスの弓とヴィヴィの呪文で攻撃する。

だが、接近戦ほど攻撃力がないため、うち逃すものも増えてきている。


結局カイルスの言う通り、20頭近く(正確には19頭)のワイバーンが飛来した。

その半分の10頭を倒した。残り半分も手傷を負っているため再度襲い掛かって来ても問題にならないだろう。


「しかし、この量の飛竜はどうする?」


飛竜の死骸をどう処理するのか考えていなかった。


「干し肉にするには手間がかかるし、時間がない。」

「村に持って帰るのにこの量じゃ2日はかかるな。」

「燃やすのはもったいないしなぁ。」

「全部食いきれないぞ」


皆、大量の飛竜を目の前にどうすることもできないでいた。



(マスター、何か悩み事ですか?)


(ああ、この量の飛竜の肉をどうしようか考えていたんだ。)


(この量ぐらいなら、私の予備の保管庫を使えばいいでしょう。)


「予備の保管庫?」


「ん?どうした?」

オースティンが独り言を聞きつけて訊ねてきた。


「いや、ブリッツに予備の保管庫があるみたいで。」


「いや、保管庫と言ってもその大きさじゃ入らないっしょ。」


「ブリッツ、保管庫を出してくれ。」


ヴォン


一瞬で目の前に大型(8t)の移動キャリアーが出現する。


「これだと温度管理ができるから、ほぼ腐らせずに運べる。」

俺はブリッツから聞いた通りに説明する。


移動キャリアーは亜空間に収納しているのだそうだが時間の流れが無いわけではない。

温度管理を怠るとひどい目に合うそうだ。




渓谷を進んでいる間は何時ワイバーンが襲ってくるかと緊張の連続だった。


前もって掃討しておいたおかげか飛竜と出会わず渓谷を進んでいた。


だが、渓谷を抜けようかという時にそれは起きた。


「そろそろ渓谷を抜けるぞ」


護衛の一人の声にみんなの気が緩んだ時だった。

その護衛の頭に矢が刺さり落馬する。即死である。


ほどなく崖の上と前方から人影が現れる。

崖の上には全部で10人ぐらいの弓を構えた連中が、前方から5人、皮鎧を着た男たちが出てくる。


盗賊だ。


「おっと、動くなよ。いつでも矢が狙ってるぜ。身ぐるみ置いてってもらおうか。」

「くへへへへ、兄貴ィ。いい女がいますぜ。」

「そうだな、そこの女と馬車の女も置いてけ。命が惜しかったらな。」

盗賊たちはティオと商人の娘さんも要求する。

「貴様ら。このお方をどなたと心得る!!」

「知るかよ」

盗賊が合図すると、再び矢が飛来し今怒鳴った男の胸に突き刺さる。


ワイバーンの巣の近くなのによく盗賊をやっている。いや、ワイバーンの巣の近くだからか。

ワイバーンを逃れた旅人を襲っているのだろう。

しかし、大人数の盗賊に見せかけているが、上のほとんどはハリボテ。

その中の一人だけが本物のようだ。

彼らの誤算はヘッドアップユニットを装備した俺が居たことだ。

ヘッドアップユニットは視界が悪くても補助で助けてくれる。

そして、強力なレーダーを装備したブリッツとリンクしている。


俺はカイルスとヴィヴィに崖の上の敵の位置をこっそり教える。


「さぁ、さぁ、早く返事をしてもらおうかぁ。でないと誰かの頭に矢がぶすーっと。」


「馬鹿め!その答えはこれだ!!」


合図を送るとカイルスとヴィヴィはその位置に攻撃を行った。

盗賊の一人が弓矢と呪文の攻撃を食らい落ちる。


オースティンがひときわ体格のいいのを切り伏せる。

ブリッツはシールドのチャージから2人を跳ね飛ばす。

ビゼン、ビンゴの二人は逃げようとした盗賊を追撃する。


俺は盗賊の首領らしい奴と対峙していた。

首領はスティレットを構えこちらを威嚇している。

だがロングソード(買い換えた)とスティレットではリーチが違い相手にならない。

まして、ゴブリン退治をすることで以前とは違って剣の扱いに慣れている。

あっという間に盗賊の首領を追い込んだ。


「たのむ!命だけは助けてくれ。」

盗賊がスティレットを地面に置き命乞いをする。


「盗賊など秩序を乱し犯罪を犯す連中に過ぎない。殺すべきだ。」とカイルス。


しかし、そう簡単に人間を殺してよい物だろうか?


俺は盗賊を捕縛し次の町で役人に引き渡そうと考えていた。

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