第8話 ゴブリン神
―――――しばらく時間をさかのぼる―――――
私は富岳様を助けたものの、着地時の衝撃が大きく機能不全に陥っていた。
簡単に言えば、両足関節部および頸椎部位の損傷。人間で言えば両足間接および頸椎の骨折である。
この小型の原住生物は戦利品として私を巣穴に連れ帰るようだ。
富岳様の方を見るとフィールドがまだ生きているらしく現住生物がその周りを囲んでいる。
だが、フィールドを張り続けてもいずれエネルギーが付きる。
そうなると、生命が危ぶまれる。
私の量子回路の優先順位はマスターが最優先でその次に人類、私自身、人間の仲間の生物といった順位がされている。
製作の基本段階から回路に焼き付けられており、改変するのは不可能である。
私を作った博士はアシモフ回路と呼んでいた。
富岳様の救出方法を考えていると、1騎の馬が原住生物を追い散らしてゆく。
その姿は話の中で登場するセントールそのものであった。
富岳様は無事だろう。
私は自分の修復を最優先に実行することにする。
「ゴウバ、ベズ、バイヅ」
「コデゾ、ビナ、グオ」
「バズデ、バズデ」
原住生物が私を囲んで何やら話している。
すると、その中でも大きな個体が私に近づき声を上げた。
「バデ、ゴデ、ビギョ」
「ヴォウォォ」
どうやら修復中の私に対して驚いているようだ。
原住生物は私を囲み平伏している。
「ゴデ、コートー」
「コート―」
私は丁寧に巣穴の奥に運ばれていった。
「コート―、コートー、テダテダ」
「オオゥ、コートー」
「ベテダー、ベデター」
「シオオ、テデ、ベテダ―」
原生生物の言葉は単純な構成でできているようだ、カタコトと身振り手振りで会話しているようです。
(ふむふむ、どうやら私は彼らの神として扱われているようですね。しばらくこのまま情報を集めましょう。)
私は2,3日かけて情報を集めることにしました。
原住生物の中でもひときわ大きい個体が周りのものに命令している。
「我ら、神、手に入れた。」
「王女誕生、一緒、目出度い。」
「宴、行う、食事、集めろ。」
そう命令すると、何匹かの者を残し出て行きました。
原生生物の王女誕生と神?である私を手に入れたことで宴を催すようです。
こうしてみると人類に近い生物である。だが私の量子回路は彼らを人類と同種として扱うのは否定されています。
この原生生物は金属の武器を使っているが手入れされている様子はありません。
皮鎧をつけているが人間用を無理やり着けている様に見えます。
少なくとも知性はあるが製作技術が皆無だと想像できます。
この原生生物は物語の中のゴブリンに酷似している。これは何かの偶然でしょうか?
判断するにはデーターが圧倒的に不足している。以後、この原生生物をゴブリンと呼ぶことにしました。
ゴブリンの中には杖を持ち、何らかの力場を操る個体がいます。
この個体が火炎球を放った個体でこの集団の中でも高い地位にいるようです。
ゴブリンたちの話によると王女も同じ力場を操るがそれは傷の治療などでその能力が使える個体が王女。
そして同じ系統の上位能力の再生が使える私が神となっているようです。
ゴブリンが生活している場所は彼らの技術では作りえない城塞の中でした。
彼らは繁殖力が大きいのか城塞には百匹近くはいるようです。
神である私は地下神殿のような場所に安置されています。
ここはどうやら地下倉庫のようなものだった様で人間サイズの金属鎧が飾られています。
気になるのは頭蓋骨らしいものがあることです。それも大小。
しばらくするとゴブリンたちが忙しなく何かの用意を始めた。宴を始めるようです。
「みんな、集まった。宴、始める。」
「神、いけにえ、捧げる。ここへ。」
そうゴブリン王が宣言すると、ゴブリンが年のころ5,6人の子供たちが連れて来ました。
明らかにゴブリンとは違う別の種族です。
モフモフの毛の生えた人間型(獣人?)や耳の長い者、角の生えた者がいる。
その中でも明らかに人類と思える個体が複数存在しています。
(これは要保護対象ですね。)
私は一計を案じることにしました。
「待て。」私はあえて無機質な音声で答えます。
「その者たちを生かしてこちらへ連れてきなさい。」
「おおお、神、命令、絶対」
ゴブリン王が平伏しています。効果があったようです。
ゴブリンたちは生贄にされそうであった子供たちは私の前に連れてきました。
そして私は宣言します、
「今日よりこの者たちを私の傍仕えとする。」
「神、何故、我々、不満」
「お前たちはあまりにも不器用で彼らに劣る、当然である。」
神に逆らうことは許されません。
こうして私は要保護対象の安全を確保することができました。
人間の子供たちと獣人の子供たちも同じように話しています。
(彼らの言語も覚える必要がありますね。)
その中でも、年は15,6歳ぐらいだろうか、銀髪の少女が目に付きます。
短く切りそろえた髪は金のヘアピンでまとめられ着ているものも明らかに他の子供たちとは違うツギの無い服を着ている。体はほっそりしているが出るとこは出ており、スタイルもいいみたいです。
所作も美しく、身分の高い者を連想させます。
ゴブリンたちの宴は続いてゆく、そんな時に1匹のゴブリンが駆け込んで来ました。
「人、人、いっぱい」
どうやら、銀髪の少女は予想通り身分の高い者だったようです。
「門締める、矢、石、投げる」
「人、諦め、帰る。」
何度も同じことを繰り返しているみたいです。
やはり、さきほどの頭蓋骨も・・・。
このままだと同じ繰り返しのような気がします。
脱出のための通路を探さなくてはいけません。その為にはゴブリンの数を減らす必要があります。
「王よ。この城塞の他の入り口はないのか?例えばあの扉の先は?」
すぐ上の扉を指さし
「あそこ、出口、でも使えない」
「大きい、草、われわれ、捕まる。」
何かしらの障害物がいるようです。
「われわれ、下、行く、他いない」
ゴブリン以外いない(行けない)通路があるみたいです。その通路を使って、ゴブリンの数を減らすことにします。
「その通路を使い何匹かで攻撃せよ。挟み撃ちになれば人間もすぐ帰るだろう。」
「神、素晴らし、試す、早速」
ゴブリン王がそう言うと12匹ばかり地下の通路から出てゆくようである。
これで攻撃側に隠し通路の存在を知らせることが出来るでしょう。
何匹か出た後も警備を緩めるように追加の指示を出します。
案の定、出て行ったゴブリンは帰ってきませんでした。
流石にゴブリンも数が減っているので気付くかと思いましたが、3つ以上の数を数えられない為、気づかないようです。
「ギギギギギ」と扉を開ける音がしました。
ですが、この辺りにいるゴブリンは宴に夢中で何も気づいていないようです。
呑気に輪になって踊っています。
そんな時に無線に通信が入ってきました。
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