第7話 地下街での戦い

城塞への道中、カイラルの情報以外にもいろいろな情報を仕入れ考える。


帝国の崩壊後、各都市への通行は危険度が極端に増しており、渡り戦士が重宝される様になっている。


しばらく渡り戦士で生活できるみたいだ。



6から8人が1隊として合計20隊が進軍してゆく。


その動きはかなり早い。


「辺境伯は行軍がやけに早いでござるな。前から攻略を計画してたでござるか?」


「いやビゼン、どうやら辺境伯の孫娘が子供たちと一緒に連れ去られた様だ。15歳ぐらいらしい。」


「なんと、オースティン殿。それは一大事でござるな。あの知能の低い子鬼(ゴブリン)どもは女子供を好んで食べるというからな。早くせねば取り返しのつかないことになる。」


ゴブリンの他、オーク、オーガ、トロールといった生物は知能が低く人を襲って食べる習性がある。


「あと、未確認情報だがゴブリンクイーンが出現したという情報もある。」


「ふむふむ。それを打ち取れば御家再興にぐっと近づきますな。若には頑張ってもらわねば。」

ビゼンとビンゴの二人は気合を入れているようだ。



朝出発して、崩壊した城下町に着いたのは昼を少し回ったぐらいになっていた。

作戦会議が行われリーダーの俺が呼ばれる。


といっても、どのような行動をするのかの指針だけだ。


俺の隊は周辺を探索と揺動。


辺境伯爵も知らない隠し通路を見つけた場合は潜入を行いゴブリンを倒せとのことだった。


早速、城下町の周辺の探索に出かける。


前衛はオースティンとビゼン、ブリッツの3人(?)、後衛はカイラルと俺。

中衛にビンゴとヴィヴィという隊列だ。


途中、ゴブリン10匹ばかりの集団と戦闘になる。

オースティンが足を生かし、高速で突っ込んでゴブリンの裏に回る。

かれが二本の剣を振るたびに、ゴブリンが切り散らされる。

その左右からビゼンとブリッツが突撃する。

ビゼンの姿は戦国時代の侍さながらの格好で、ゴブリンを追い詰めてゆく。


5匹ばかりになったゴブリンを3人で囲み、徐々にその輪を狭めてゆく。

その輪を出ようとして一匹が飛び出すが、カイラルの放つ矢がゴブリンを貫きあっけなく死亡する。


ゴブリンを囲む輪が5mぐらいになったところで


「ライトニングバースト」


ヴィヴィの魔法が炸裂し、雷の塊がゴブリンを蹂躙する。

後には黒焦げになったゴブリンが残るのみであった。


倒したゴブリンを調べる。ゴブリンの傷は今回の戦闘のもので他の隊と出会っていない様だ。


他の隊と出会わずに、城下町の周辺で遭遇する可能性は低い。

俺たちはゴブリンとの戦闘があったところを起点として隠し通路を探す。


20分ほど捜索したところで巧妙に隠された階段を発見した。


どうやら、城下町の地下に城塞まで通じる通路があるようだ。


俺たちは慎重に地下通路を降りてゆく。



地下通路は薄暗いが通路幅はオースティンとブリッツが並んで通れるほど広い。


地面には所々にゴブリンの足跡が俺たちが入ってきた方に向かってついていた。


間違いなくここから上がって来たみたいだ。


だが、他の隊の連中はなぜここを調べなかったのだろうか?


捜索する前に城塞周辺の地図を渡されていたが、この場所は×印、調査不要の印がついていた。


流れ者は兎も角、辺境伯の手勢が(まして城塞奪還を行う)者が手を抜くことは考えられない。


「ここには何かありそうだ。注意して進もう。」


と俺はみんなに注意を促す。


10mぐらい降りたところで、更に視界が悪くなってきたのでオイルランタンを点ける。


松明でもいいのだが、このオイルランタンの場合フードがついており、光の調整が可能だ。


ゴブリンに見つけられない様にスポットライトの様に照らすようにする。


更に10mほど降りたところ、大きな入り口がある。


その向こうは吹き抜けとなっている部屋があり、階段はその吹き抜けの周囲を降りて行っているようだ。


注意深く、吹き抜けの底を照らしているが、光が届かない様だ。かなり深い。


(だいたい深さは50mはあります。底へ降りたところから城塞へ向かって通路があるようです。)


ブリッツには赤外線センサーの以外にレーダーや音波探査もある。それでそこまでの深さを測っのだろう。


階段幅も狭くなっており、オースティンやブリッツでは1人が限界である。


戦闘時には突撃を行うオースティンを先頭にした方がい良いのだが、遠くまで地形を確認できるブリッツを先頭に無言で進んで行く。


吹き抜けの底はかなり広く、端まで淡々の灯りが届かず、床は平らな意思でおおわれていた。


ブリッツの言う通り、吹き抜けの底から横に幅の広い通路が伸びている。


通路の天井は20mぐらいの吹き抜けになっており所々に上り階段がありそこから伸びる細い路地が見える。


ここまで来てゴブリンの足跡が見つけられなくなった。


広い底の何処かで見落としたのだろうか?


ブリッツのレーダーでは、我々が通れる通路はなかった。


通路の奥は明かりが差しており、天井から日が当たっているようだ。


わき道を調べ慎重に進む。


通路の先は少し開けており、部屋一面に植物が生い茂っていた。



光源は天井に数か所あり、そこから通路を照らしていた。


光ファイバーの様なもので地上の光を地下に送る仕組みのようだ。


部屋をよく見ると錆びた鎧兜や盾、剣や槍が散乱しているが骨はない。


通路は続いているが、蔦が生い茂っている。


ブリッツがその蔦を刈り取ろうと近づいた瞬間、何本もの蔦がブリッツに巻き付いてきた。


(マスターとてもまずい状況です。蔦の1本1本はそれほど強くはないのですが、こう何本も巻き付かれると身動きが取れません。)


「・・・これはブラディ・ソーンのエルダー種ね。」


ヴィヴィが説明する。妖術師といえど魔法使い系なので博学なのかもしれない。


「主に動物を締め殺し養分をとる植物、エルダー種ともなれば下位のドラゴン種でさえ絞め殺せるほどです。」


「わが刀の冴えを見よ!!」

ビゼンが刀を突きたてるが、硬すぎて断ち切るには至らない様だ。


「私は・・・火炎系の呪文は使えません。せっかく隊に入れてもらえたのに役立たずですみません、すみません。」

ヴィヴィが卑屈に謝ってくる。



ブリッツは大抵のエネルギーは無効化するそうだ。


そこで俺は火炎に弱いならと、オイルランプの予備オイルを投げつける。


それを見たビンゴが包帯の切れ端をカイラルに渡すと、カイラルは矢に巻き即席の火矢を作った。


カイラルは火矢でオイルまみれのブラディ・ソーンを射抜く。


火矢はブリッツの全身を燃やしながら蔦を焼いてゆく。


火に焼かれて拘束が緩んだのかブリッツが蔦を引きはがせた。


流石にエルダー種ともなればオイルの火ぐらいでは焼き尽くせなかった。


「一旦、後退する。」




後退した俺たちは、吹き抜けの底に戻ってきた。


「ブラディ・ソーンを排除しない限り、あそこは安全に通れないな。」


戻って開口一番、オースティンが話す。

セントールにとってブラディ・ソーンは厄介な植物で、見つけ次第駆除しているのだそうだ。

ただ、あそこまで育った物は見たことが無いらしい。


駆除方法を聞いてみると、ブラディ・ソーンは植物なので夜はおとなしくなった時に狩るそうだ。

今は、昼を回ったぐらいなのでまだ日は高く夕方まで時間はかなりある。


このままだと攫われた子供たちの命が危うい。


光を遮るとしても、ファイバーの穴は小さく、無数に空いているようだった。


「・・・妖術で植物にダメージを与えるものはないか?」とヴィヴィに尋ねる。


「うー。知的生物の知性を下げたり、眠らせたりするのが得意だけど植物に知性はないから・・・後、雑菌を繁殖させる呪文とか。」


「地味に嫌な呪文だな。」


「うひゃうひゃうひゃ、ありがと。」

褒めてないんだが。


だが、植物とはいえ生物であり、雑菌が繁殖すれば何らかの影響があるだろう。


「その雑菌はどのぐらいの確率で繁殖するんだ?」


「繁殖はすぐに何万倍になるよ。あと、何分か後でも可能だよ。でも、」


「でも?」

「相手に触っていないとダメなんだ。」


ヴィヴィではブラディ・ソーンに捕まると脱出どころか、数分で死亡するだろう。


対策を思案していると、通路から少し離れた暗がりからゴトゴトと何かを動かす音が聞こえてきた。


咄嗟に明かりを消し、声を潜める。


俺は音の方に目を向け、ヘッドアップユニットを暗視モードに切り替える。

床板の一部が外れそこからゴブリンが2匹出てくる。

後続はいない様だ。連絡要員だろうか?


(ブリッツ、速やかに殲滅をできるか?)


(問題ない。)


ブリッツは無線で伝えると暗がりの中で光の筋が2度見えた。

パタリパタリと叫び声をあげる間もなくゴブリンが絶命する。


ゴブリンが出てきたところを調べると、この城塞から続く排水溝のようだ。

排水溝の入り口は狭く、人間が通れるほどであり、下水特有の悪臭は鼻につく。

オースティンやブリッツでは通ることはできない。

カイラルやビゼン、ビンゴ、ヴィヴィだけでは戦力は半減である。


しかし、俺は排水溝から出てきたゴブリンを見て思いついたことがあった。


「ヴィヴィ、この死んだゴブリンの雑菌を時間差で大繁殖させてくれ。」



雑菌繁殖予定のゴブリンをヴィヴィの魔法でブラディ・ソーンの所まで運ぶ。


「よし、そのままブラディ・ソーンにゴブリンをぶつけるんだ。」


ブラディ・ソーンにぶつかったゴブリンはそのまま蔓に巻き付かれ、その体から体液を吸われてゆく。


数分後、ブラディ・ソーン腐り始めていた。

あれほど強力だった蔓に力はなく、オイルの炎で焼かれていった。


焼かれた元ブラディ・ソーンをかき分けながら通路を進んで行く。

通路の先に金属の扉があり、その前をゴブリンが1匹見張りをしていた。


カイラルの弓が一撃で倒す。いい腕だ。


ギギギギギと金属音を鳴らしながら扉をゆっくりと開ける。

扉の先は広間のテラスになっており、広間の様子が一望できる。

広間ではゴブリンの集団の輪舞が見えた。

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