子鬼達(ゴブリン)の輪舞
第6話 渡り戦士
翌朝起きると村が騒がしい。
聞こえてくる話によると、水を汲みに出かけた子供たちが帰ってこないと騒いでいる。
どうやらゴブリンに攫われたらしい。
ゴブリンは雑食で何でも食べる。特に子供を狙うという。
水汲み場はゴブリンが占拠している城塞から遠く、ゴブリンを見かけたことがない。
それが油断になったのだろうか?
(ん?会話がよくわかる。それに割としゃべれるようになっている。)
(マスターの睡眠中に言語学習をさせていただきました。言語の速やかな相通は必要事項だと考えたので、事後承諾になりますが。)
(いや、助かる。)
(ついては、もう一つ提案が。)
ブリッツが説明するには、俺の持つヘッドアップユニットは機能が低いため改造したいとのことだった。
基本の機能や通信規格(プロトコル)はいじらずに、新たな機能と制御装置、小型化などを提案してきた。
どうやら大規模バージョンアップで機能強化するらしい。
二つ返事で許可を出すと、半日もかからずに改造を終えていた。
(私のナノマシンの機能を活用すればこのぐらいは容易いのです。)
ミルヴィナが居なくてどうなるかと思ったが、更に頼りになるものができてよかったと安堵する。
(それと、マスター、マスター登録はどうしましょうか?今は仮登録の状態なので。)
何か嫌な予感がする。こんな時の予感は当たりやすい。
(そのマスター登録はどうやるんだ?)
(マスターの体液を体内取り入れることで登録します。)
ブルータスお前もか!!
当然、お断りしました。
ブリッツのおかげでいろいろ機能がアップした。
が、問題がないわけではなかった。携帯用フィールドが完全に壊れていたのだ。
(完全に壊れていますね。無理な使い方をしたのも原因の一つでしょう。)
(壊れていても直せるんじゃ・・・?)
(流石に材料がないと作り出すことは不可能です。)
(難しいのか?)
(不安定な同位元素が必要で大型装置で安定させながら他の同位元素と合成してゆくことでフィールド発生用の素子を作り出すのです。)
どうやら、俺の持っている携帯フィールドは素子が飛んでしまい使い物にならないらしい。
(今のところ予備バッテリーとしてしか使えません。)
腹が減ったので食事をしようと部屋から出ると宿の親父が声をかけてきた。
「おい、あんたいい所に。実は緊急の仕事があるんだ、受けてくれないか?」
俺は朝食を食べながら、話を聞くことにした。
朝食は黒パン(ライ麦パン?)と豆のスープ。黒パンは酸味のある味がして腹持ちがよい。
少し硬くなっているが、スープにつけ柔らかくして食べる。
「実はゴブリンを退治するために渡り戦士を集めている。」
渡り戦士というのはいわゆる傭兵みたいなもので、町から町へ、腕を生業として旅する者のことだそうだ。
「しかし、渡り戦士だけだと統率に問題が出てくる。」
金だけ貰っていなくなるということもあるらしい。
「そこでだ。ゴーレムを操れるぐらいなんだから、渡り戦士も操れるんじゃないかと。
なに、操れなくても、ゴーレムに単独で勝てる渡り戦士はまずいない。
アンタが目を光らせてくれたら脱落者も少ないだろうって寸法さ。」
たしかに、ブリッツが居れば何とかなるような気がする。(虎の威を借る狐)
それに自動操縦で降下した船の場所を知るのはミルヴィナであり、その手がかりを知るためにはゴブリンを調べる必要がある。
「親父さん。俺が金だけ貰っていなくなることは考えないのか?」
「お前さんのような奴はまずそんなことはしない。」
信用されたものである。悪い気はしない。
自分の理由も相俟ってその仕事を受けることにする。
前金で金貨10枚、後金で20枚、発見したお宝は発見者のものだそうだ。
「門のところにいる衛兵に仕事できたと言えば案内してくれる。気をつけてな。」
俺はブリッツを伴って宿を出る。
言われた様に、門のところにいる衛兵に伝えると、今回組む流れ戦士の所に案内してくれた。どうやら指揮官(リーダー)は俺らしい。
「ふむ、そなたが我々のリーダーであるか。私は犀燐族ののビゼン。見ての通りリザードマンだ。」
「流石です坊ちゃま。立派な挨拶です。私は坊ちゃまに使える執事のビンゴよろしくお願いします。」
目が点になる。坊ちゃまと執事のリザードマンか。
「よお、また会ったな。」
とセントールのオースティンが声をかけてくる。
「まさかアンタがゴーレムマスターとは、そこの所はあいおい聞くとして。よろしくな。」
オースティンはそれほど気にしていないようだ。
「貴公がわが隊のリーダーか。まぁ、そこの有角人よりましだな。」
翼のある金髪イケメンが声をかけてくる。有翼人てやつだ。
「ふむ、ゴーレムを操るのだから並ではないのだろう。私の名はカイルス・ラ・ソーン、カイルスと呼んでくれたまえ。」
ちょっと高慢な感じがする、イケメンだからか?
「・・・あたしはヴィヴィ。見ての通り妖術使い、よ。」
びくびくしながら黒髪の有角人が答える。
スタイルは良いようだが、いかんせん暗くて卑屈な感じがする。
他の隊はどうなっているかと見渡すと、普通に人間同士、エルフ(耳の長い人)、ドワーフ(体が小さく頑丈)など人間多めのバランスで組まれている。
どうやら、一癖も二癖もある連中を押し付けられたようだ。
全員を見渡し、一言。
「見知ったものもいるが、俺はこの隊のリーダーを任されたシノノメ フガク。フガクと呼んでくれ。」
ゴブリン退治はウルリッヒ・レンボルト辺境伯の主導で行われている。
全ての費用は辺境伯が出しているのである。
ゴブリンはここから半日ほど行った所にある城塞を根城にしている。
俺が不時着した所の近くだと、オースティンが教えてくれる。
しかし、ここで疑問が残る。
「何故、ゴブリンが城塞に居るのか?」
「辺境伯は村に何故滞在しているのか?」
そのことはカイラルが詳しく話してくれた。
「辺境伯は村に滞在してもう15年になる。私の父も辺境伯と同じくマルガ帝国に使えていたのだが、15年前のあの日、皇帝ディルク・マルガという愚か者が国を挙げての武器の放棄を命令したのだ。」
青天の霹靂である。古今東西、近所に自分たちを虎視眈々と狙う盗賊(ゴブリン)がいるにもかかわらず防ぐ手立てを放棄する。鴨葱よりも質が悪い。
「ただ辺境伯は別荘があったオーシムの村に武器を移動させた。だが、武器を持つ兵が居なくなった隙にゴブリンが城塞を占拠しのだ。」
「城塞の傍らには城下町もあったのだが、住民のほとんどはゴブリンに殺されてしまった。
私の父も母も住民を助けるために懸命に戦い命を落とした。」
「つらいことを聞いてしまったな。」
「いや、問題はない。貴族が外敵の矢面に立つのは当たり前だ。死ぬことがあっても義務を果たしたに過ぎないのだから。」
「貴族の義務か。だが、なぜ皇帝は武器の廃棄を命令したんだ?」
「噂によると、皇帝の居城の地下部は遺跡になっていて、そこで見つけた経典に書かれていたそうだ。だが、皇帝が行方不明では真相はわかない。」
「死体は見つからなかったらしいし、どこかに逃げ延びたといううわさもあるが不明だ。
ただ、帝国の首都の方がここより悲惨だったと聞く。」
「?」
「首都、アルベルタはオークとオーガの混戦部隊に占拠されたのだよ。」
「その為、帝国は崩壊したとも言える。」
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