深淵から来た者
第2話 時は未来、所は宇宙。
西暦 2119年
冥王星のはるか外、太陽系外に重力式エネルギープラントが作られた。
プラントの中心には小型ブラックホールがあり、その周囲には重力エネルギーを取り出すユニットがあった。
そこで取り出されたエネルギーは中継地に送られ、地球や火星、金星、月、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト、タイタン、トリトンの各惑星および衛星に送られている。
プラントの上にある司令部ユニットはドッキングベイに双胴型宇宙船、エネルギー回収ユニット、メンテナンスユニットが引っ付いた形である
中心となる宇宙船には軍と同等品が使われており、多少の武装は装備されている。
俺はその宇宙船で生活していた。
国立科学アカデミーの2年生である俺は夏休みに、友人のイリア・グレイの紹介で1か月の長期アルバイト学生としてこんな辺境に居る。
イリア曰く、“「異常なし。」の日報を地球に送るだけの簡単な仕事”だそうだ。
近くに何もない所を除けば最高の環境である。
余った時間はアカデミーの夏休みのレポートにあてる。
アカデミーは2年になると専攻学科を履修する必要があり、機械工学や分子物理学、情報処理などはレポート多い。
普段使用している居住区画は、キャプテンの部屋いわゆる艦長室である。
他の部屋に比べ、広い作りと堅牢で豪華な内装、部屋はブリッジから直接移動することが出来る。
(ブリッジからしか移動できないとも言う)
エネルギープラントの全ての工程は自動化されているが、法律上ここに最低一人いる必要がある。
プラントを運営する会社は人件費を安く抑えるため、長期アルバイトをそれに充てていた。
ただし、学生の身分としては破格の収入と、いくつかの特典が付く。
アルバイト中に17歳の誕生日を迎えるのは少し寂しいが、彼女もいないことなので問題はないだろう・・・多分。
元々、軍用と同等品の為、全自動クッキングメーカーがあり、食事も作る必要がなく、自由時間も多い悠々自適(じだらく)な生活である。
アルバイトの特典は何にしようかと思案していると、悪友(イリア・グレイ)からメールが入る。
この悪友の実家はアルバイト先の会社の関係者らしい。
家自体もかなりの金持ちなのでオーナーか何かだろう。
ただ、タイミングでメールが入るのは嫌な予感しかしないが、開けて読む。
「拝啓、お元気ですが、僕はとても元気です。」
「この休暇中に彼女が出来ました。とても可愛い、よくできた彼女です」
やはり、彼女自慢か、リア充め!爆発しろ!
「そこで可哀そうな独り身の君のために、別便で彼女の代用品を送ります。」
ソレハイッパンニイウ「セクサ・・・
「尚、費用は君のアルバイトの特典を代用しました。」
「な!なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
俺がカスタマイズしようとした特典のアンドロイド(他にもあるのだが)を使っただとぉおお!!!」
と思わす叫んでしまった。
「特典を使っただけでは面白くないので、わが社で装備できる最高クラスのオプションを選択しました。
モニターとしての役目もある為、がんばってご使用ください。」
むう、しかし選択されたのは悔しいが、最高クラスのオプションか。
しかも、モニターの役目を見ると発売前の特注品か。
だが、奴の趣味はつるぺたゴスロリでオッパイ星人の俺とは一線を画する。
その意味では永遠のライバルであるが・・・。
造形とかの趣味は良いのだけどねぇ。
ん、まだ何か書いている。
「追伸、このメールが着くのと同じぐらいに特典は到着します。」
ポーン!「荷物が到着しました。エアロックから到着次第、中身を確認してください。」
メールを読み終えると同時に荷物の到着を知らせるメッセージが表示された。
エアロックから送られてくる荷物を確認する。
案の定、つるぺたゴスロリ、これを代用品とか何の罰ゲームだ?
俺は、少しため息をついて
「やれやれ、とりあえずこれは後で考えるとして。」
起動は後回しに、その他の荷物を受け取り整理してゆく。
荷物は食料の他、通販で頼んだものだけで特別に変わったものがあるわけではない。
品物をチェックし、内容に不備や欠品がないか確かめる。
通販とはいえ、太陽系外なので到着まで最短で五日はかかる。
不備があっても交換には最低10日はかかるので、返品にして送り返す。
検品している俺の横で
「・・・世界のπ大集合・・・ふむ、ふむ、マスターは情報通りオッパイ星人でしたか。」
ゴスロリ少女が俺当ての荷物を開封して中身を見ている。
白磁のような肌に金髪縦ロール、紅の唇、目はブラウンとブルー・・・ってヘテロクロミアか。
そのゴスロリ少女がこちらを見て
「でも残念ですね、データが壊れて中身が見れないなんて。」
と言ってにっこり笑った。
「油断も隙もない・・・なぜここにいる?起動していないはずだが?」
「初めまして、マスター 私はXX-000 ミルヴィナ よろしくお願いします。」
三つ指ついて挨拶をしてくる。その動きは実に滑らかである。
「あ、よろしく」
思わず反射的に挨拶を返す。
ミルヴィナは挨拶も早々に
「最新型なので梱包の際、表面の開封と同時に自動起動されるように設定されています。」
と説明してくれた。
どうやら悪友が設定したらしい。用意周到だ。
「なお、特注品につき返品は承っておりません。」
ちっ!あの野郎。抜かりない。
「マスター登録はどうしますか?今なら登録すれば優先順位が一番になれますよ。」
挑むような眼でミルヴィナは呟く。
・・・あやしい。
俺の第6感いや第7感がそう言っている。
俺は訝しみながらも聞いてみる。
「そのマスター登録はどうやるんだ?」
「マスターの体液を直接体内取り入れることで登録します。」
「だが、断る!!」
人を宗旨替えさせる、孔明の罠であったか。
早いもので、ミルヴィナが来てから1週間たった。
最新鋭のアンドロイドだけあって、仕事は完璧と言って良い。
こちらの嗜好を理解して欲しいときに欲しいものがすぐに出てくる。
例えば、レポートの途中でのどが渇いた、と思えば、間髪を入れず飲み物が出てくる。
自動調理器ではない、俺に合わせた料理。
行き届いた清掃、洗濯、etc、etc、挙げればきりがない。
時に、俺はやたら課題の多いレポートに閉口していた。
(これは選択ミスかなぁ、レポートの多い学科をとりすぎた。)
夏休みのレポートを上げながらミルヴィナを横目で見る。
(これで容姿が好み(ストライク)ならルパンダイブ(押し倒す)なのだけどねぇ・・・。)
とよからぬ妄想を始める。
(いかん。今はレポートだ。妄想退散!)
妄想を打ち消すべくブリッジから窓の外に目を移しながら、ぼんやり考える。
船から見て、ブラックホールの反対側にある空間が時々煌めく。
吸い込まれてゆく星間物質がプラントに被害を及ぼさない様にフィールドにより弾かれる。
その弾かれた時に様々な色を発光しているのである。
「よく光るな。この頃、デブリが多いような気がするのだが?」
思った疑問をミルヴィナに尋ねてみる。
「確かに5日前と比べて、デブリが増えています。」
ミルヴィナが船の観測データを示す。
「3倍近くにに増えているね。速度から逆算した位置は?」
「ここから約72万メートルの位置ですね。ここには何もないはずです。」
何か、嫌な予感がする。
社会が発達して貧富の差は少なくなったが戦争がなくなったわけではない。
戦争の頻度が極端に少なくなった分、テロリズムが増える傾向にあるらしい。
戦力差が大きすぎるとテロしかできないのであろうか?
「マスター安全のため、通路の全隔壁の閉鎖を進言します。」
「了解、すぐに閉止してくれ。」
俺が生活に使用している艦長室はブリッジからしか移動できないから問題はない。
10分後ミルヴィナが報告してくれる。
「通路の全隔壁閉止確認しました。」
実に仕事が早い。
「このまま何もなければいいのだけどね。」
俺は期待交じりにそう言った。
しかし、期待は裏切られるものなのだ。
しばらくすると、船外無線が入る。
「我々は憂国世界戦線である。」
招かれざる客が来たようである。
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