始まりのマキナ ー超兵器と行く世界紀行ー

士口 十介

プロローグ

第1話 プロローグ

(考えが、甘かった。)

そう後悔しても、後の祭りである。

“東雲 富岳”は焦っていた。


目の前には小型の魔族、ゴブリンが2匹槍を構えている。


「デモド、ダズ。」

「グボド、グボド。」


自分の身長の半分、90cmぐらいの高さから槍が突き出され黒髪を揺らす。

単独(ソロ)で探索中にゴブリン2体と遭遇してしまったのだ。


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「今、探索パーティの募集はないが、初心者が手っ取り早く稼ぎたかったら遺跡でゴブリン狩りだな。魔族でも最弱で倒しやすいからな。」


俺が今いる村、オーシムは村という割には比較的人口が多いが、冒険者ギルドなどの便利な組織はない。

第一、冒険者という職業自体がなく、近い職業では傭兵か渡り戦士と呼ばれるものが該当する。

傭兵や渡り戦士の仕事の斡旋は、宿屋の主人や村長がやっているのだ。


「でなければ2、3日おとなしく待っているかだな。その頃には探索の募集があるだろう。」

宿のオヤジがそうアドバイスしてくれる。


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しかし俺はおとなしく待つことなく1時間後、宿の主人の情報を元に遺跡にやってきた。

途中の道は、所々崩れており雑草の生えた石畳だった。

昔は立派な石畳だったらしい。


遺跡と言っても、半分土に埋もれた大昔の建物らしく、外からの光が入るおかげか、内部は比較的明るい。

通路は奥にまっすぐ伸び所々に枝道が見える。

俺は多少腕に覚えがあり明るい道であったのと、この遺跡に出るのが最弱クラスの魔族のゴブリンなので一人でも問題ないと思っていた。

途中の枝道、薄暗い路地を無視しどんどん奥へ進んで行く。


しばらく進むと辺りが少し薄暗くなり、前方の路地から槍を持ったゴブリンが飛び出してきた。

槍はうっすらと錆が浮いており、一見して質の良い物には見えなかった。

しかし、悪くても槍である、多少の稼ぎにはなるはずである。


(見たところ、1匹のようだ。所詮ゴブリン、剣術三段の腕なら楽勝だな。)


俺は大きく振りかぶりゴブリンを攻撃する。


ブゥゥゥ~ン。


実戦剣術三段というのもよくなかった。

俺のいた世界ではほとんどの人が個人用携帯フィールド持っている。

その剣術はこの世界での剣術とは別物である。


フィールドは装着者に対して向かって来る一定以上のエネルギーを弾く様に出来ている。

ビーム等のエネルギー兵器、銃弾等の質量兵器だけでなく、剣などの格闘武器にも対応している。

(格闘武器の攻撃も質量兵器によるエネルギーなのだ。)

フィールド装着者が無敵かと言うと、そうでもない。

毒ガスなどに弱い他、一定未満のエネルギーは素通りする。

従って、剣でフィールド突破するためには一定の速度よりも遅く動かし、鋭い剣先をゆっくりと押し込むといった方法が有効になる。


フィールド装置が使えるのなら、まだ安全だったが、この星に降りてくる時の事故でエネルギーが無くなっていた。

剣を力任せに振るっても、剣や防具の重さも手伝いゴブリンに命中させることができない。


(なんで当たらない・・・それに思い通りに振れない!?)

何度も攻撃するが、命中させることが出来ない。

実際、攻撃は大振りな上、単調である。


ブォウウウウウウン


大振りな攻撃で体が流れ、大きな隙を見せる。

その隙はゴブリンにとって好機となる。


ザッ!


ゴブリンの槍が頬をかすめる。


ツー


頬から血が一滴流れる。

その瞬間、自分が死ぬ様子を想像してしまった。


 生死の係る戦いでの恐怖


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


俺は死の恐怖から思わず叫びだし逃げ出してしまった。


「早く外へ逃げなくては!!」


入ってきた道をまっすぐ戻ろうとする。

しかし、途中の路地からもう一匹のゴブリンが飛び出す。

挟み撃ちである。

ゴブリンは低いとはいえ知恵のある魔族である。


「くそ!!こんなところで死ねるか!!」


焦った俺はすぐ傍にある部屋に飛び込んだ。

それは現状考えられる限りの悪手だった。


部屋の奥には石像が置かれており他に出口は無い、つまり袋小路であった。

2匹のゴブリンは出口を塞ぎ、槍を構えゆっくり迫ってくる。

その圧力に押され俺は奥に追いやられる。


ドン


背中に石像らしきものが当たる。

これ以上は下がることが出来ない。


ふと足元の床を見ると黒いシミのようなものが浮かんでいる。

俺はゴブリンにこの部屋へ誘い込まれたらしい。


(ここで死ぬかもしれない)


ゴブリンの槍はそんな考えに同意するかのように目の前に迫ってくる。


「く、くるな!!」

俺はそう叫ぶと滅多矢鱈と剣を振り回す・・・

が、腰の引けた体勢では槍にさえ当たらない。

まして、ゴブリンとはいえ考えもなしに間合いに入るほど愚かではない。


ブン、ブーン

ザクッ!


ゴブリンは大振りをした隙を狙って槍の間合いで刺す。

それだけで俺は満身創痍、何時か急所を突かれ死ぬか出血多量で死ぬのかは時間の問題である。

大振りした剣の勢いが余って足を滑らせてしまう。


ガッ!!


足を滑らせ尻餅をついたはずみに剣を落としてしまった。

そこを狙ってゴブリンは槍を繰り出す。


俺は咄嗟に転がる。

そのおかげで命中寸前の所でなんとか回避する。

別の出口は無いかとあたりを見まわす。

が、そんな都合の良いものがあるわけがない。


石像を背に俺は思わず、

「誰か、助けてくれ!!」

と祈るようにつぶやいてしまった。


が、誰も答えるはずはなかった・・・だが


(心得た。)


ピシッ!

ピシッ!

ピシッ!

パシーン!!!


頭に響く声とともに部屋の奥の石像が砕け、中から緋色に輝くボディのロボットが現れる。


ヴォン!!


その音と同時に眼前のゴブリン2体に一筋の線が走る。


「グギャ!!」

「ホガガ!!」


ドサッ、ドサッ

断末魔の叫び声と共に上半身が2つ地面に落ちる。


「助かった・・・のか?」


振り返ると、緋色のロボットが話しかけてくる。

(・・・保護規定により、敵を排除しました。)

(私は TYPE:SK-007 機動強化兵器 ブリッツ 以後、よろしくお願いします。)


ブリッツに対し俺は

「・・・・・以後?」

尋ね返す。


(はい、保護規定及び指揮命令規定より有資格者[マスター]と認定しました。)

「えーと、つまり?」

(この辺りを索敵した結果、探索はマスターの生命を脅かすことが予想されます。よって、安全が確認されるまで、護衛モードで同行いたします。)


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ブリッツは実に頼りになった。

帰り道、ゴブリンが数体出てきてもブリッツが一刀の元にすべて切り伏せる。

明らかにオーバーキルである。


途中、ブリッツが

(富岳殿、丁度はぐれゴブリンがいるようです。戦ってみますか?)

と提案してくる。


護衛がついている分、先ほどきほどの恐怖はあまり感じられなかった。

ブリッツのアドバイスもあり何とかゴブリンを倒す。


(富岳殿もだいぶ戦闘に慣れてきたようですね。)

「まあ、生命の危機が無いから安心して行動できるのが大きいのだけどね。」

俺達はゴブリンを倒しつつ、早々とオーシムの村に戻るのであった。



外から見るとオーシムの村は全体が木壁で囲われ一定距離で見張り台がある。

これは村というより、要塞に近い。

鉄での補強が入った分厚い木製の門の前に重武装の門番が二人立って辺りを警戒している。

村の門に着くなり一方の門番に呼び止められる。


「あんた、ゴーレムマスターだったのか。」


どうやら、自動で動くロボットを操る人をゴーレムマスターと言うらしい。

ブリッツの説明が難しそうなのでゴーレムマスターで通すことにする。

なんでもゴーレムマスター自体、あまり見たことの無い、珍しい職業だそうだ


歩きながら、ブリッツに質問して歩く。

村には人以外の種族、ファンタジー物でよくあるエルフやドワーフだけでなくリザードマン、セントール、有角人、有翼人、なども見かける。

そんな中でもやはり珍しいのか、目立つのか通りすがる人々がこちらを見ている気がする。


俺がこの村に着くまで着ていた服は、資金調達のために高値で売り飛ばし、よくある旅人の服や持ち物に変えている。


俺は歩きながらブリッツに尋ねる。


「ところで安全が確保された後は?」


(新たな任務が発生しない限り、同行いたします。)


(次の任務までか、前回は何時?)


(前回の任務は約5000年前ですので今しばらくは同行することになります。)


(戦闘中の何らかのトラブルであそこに居たのだろうか?)


(いいえ、前回の任務は待機任務です。)


俺は少し考えてみる。

(5000年か、よくエネルギーが持つな。劣化もないようだし・・・。)

大した兵器である。


(動力としては、リアクター内蔵しており、燃料源は空気中から採取可能です。)

(又、フレームは分子フレーム、装甲と武装はアダマス合金となっており対腐食は完璧です。)

(さらに、内部はナノマシンが内蔵されており、自動修理が可能です。)


「え?しゃべってないよね?」


(私の音声は、マスターの持つユニットを通して直接伝えられています。

ですから、今のマスターはゴーレムに話しかける変な人に見えます。)

とブリッツから驚愕の事実が伝えられる。


「おい。」


(考えるだけで、伝わりますよ。)


・・・見られていた変な人は俺でした。


武装の能力は高く、ほぼ無限に動けて自動修理、ブリッツは超兵器だな。




「ほう、あんたはゴーレムマスターだったのか」

と宿の親父が言う。

今日で何度目だろうか?

妙に人が多くなった宿屋内でも何人かに言われていた。


「あんたは奇妙な耳当てをしているから何かあるのじゃないかと睨んでいたが、そうかそうか。」

宿の親父は一人納得している。


奇妙な耳当て・・・ヘッドアップユニットは通信から分析まで様々なことに使われる機器だがこの世界の人には奇妙な物に見えるらしい。


「そうだ、ゴーレムは装備品扱いだからら宿代に変わりにないぞ。」

宿代が高くなることも覚悟したが問題はないようだ。


ここまで話すと宿の親父は突然真剣な顔で話しかけてくる。

「前は村で買った剣を差した初心者だったから話さなかったが・・・。」

どうやら、ゴーレムマスターなら、と言うよりぜひ受けてほしい仕事があるようだ。


「辺境伯は近く、ゴブリンやホブゴブリンに占拠された城塞の攻略作戦を行う。

流れの戦士や村のものも参加予定だそうだ。

報酬は金貨で1枚、あんたはゴーレムマスターだから金貨50枚は出すだろう。」


なかなか良い話なので受けることにする。金貨はあるに越したことはない。


「集合は5日後の朝だ、よろしく頼むよ。」


そう聞くと、俺はブリッツと共に部屋に入る。

ブリッツはロボだから結構重いと思ったが、本人曰く重力制御だそうだ。

俺がいた世界も重力制御は民間の宇宙船に搭載されている様な技術であるが、人型の装置に乗せる場合とは技術格差はかなりあるようだ。


部屋に入るとブリッツが尋ねてくる。

(マスターはこの辺りの村とは技術レベルが違うところからやって来たようですが、いったい何処からやって来たのでしょうか?)


「それは必要か?」


(私の所属する組織と敵対関係であった場合、問題になる可能性がある為です。)


たしかに、ブリッツの言う通りである。

敵対組織と認定されるとどうなるか判らないが、戦闘の途中で敵対組織と判明して何かが起こるよりましかもしれない。


俺は覚悟を決めて、話すことにする。


「俺が居たのは…。」

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