第12話 親方、棺から腐女子が!!

(注)あくまでネタとしてお楽しみください。



「この前さ、ひどい目に遭ったよ」


 大学のサークルOBの飲み会で、葬儀屋に努める小林が愚痴をこぼしつつビールを煽る。


「何があったん?」


 ここに集まって一時間ばかり、皆すでに酔いも回り、赤らんだ顔をしている。


「この前、女子大生が亡くなったのよ」


「ふん、それで?」


「肺炎だったらしいんだが、友人が少なかったらしくてね、発見が遅れたんだよ。この真夏日和だろ? 腐りかけた遺体に防腐処置して、棺に入れてさ、お通夜でしょ、葬儀でしょ」


「うんうん」


「んでご親族が集まって、お坊さんがやってきて、読経が始まるわけよ」


ここまでは普通だ。


「それで?」


 みんな興味を引かれた様子で顔を寄せる。


「一同神妙な顔してお経を聞いていたらさ、突然ドコッ!! って、何かを叩く音がするわけ」


 空になったグラスにビールを注ぎ、小林は続ける。


「当然、みんな何だ? って顔するじゃん?」


「うんうん、それで?」


「するとさ、またドコッドコッ!! って大きな音が連続で響いてくるのよ。坊さんも読経を中断しちゃってさ。普通ないよ、こんなこと。で、次に何が起こったと思う?」


「…………」


「分かんない。何が起こったの?」


 小林はみんなの顔をゆっくり見まわして、声を潜めて言った。


「突然棺の蓋が弾け飛んで、死んだはずのその子が起き上がってね……」


「えぇ…………」


「こう言ったんだ…………『BL、最っ高っ!!』」


「はあああ!?」


「うっそだ~~!!」


「はいはいネタ乙」


 一斉に顔をゆがめて突っ込みを入れるみんなに、小林は必死になって言い張る。


「本当だって!! あの後死体は逃げ出すし、みんな唖然としてたわ。ご遺族は今その子を探し回ってるよ」


「えええええ」


「まじかよww それ完全に悪戯だろ」


「かなあ? まあ誤診だったんじゃないかって、ご遺族と医者が揉めてるらしいよ」


「それってもう遺族じゃないだろ」


 流石に酔ってはいても、小林の話を真に受けるほどみんなウブではなかった。そりゃ、そうだよね。こんな話誰も信じない。まあ酒の席の余興としてはまあまあだったかな。


 その時不意に、窓の向こうにべたっ!! と何かがへばりついた。


 そしてがらり、とそれが窓を開けて店内に乗り込んでくる。


 振り乱した髪、腐乱して崩れかけた青白い顔────。


 皆呆然として声一つ発することもできないでいた。顔を引き攣らせる小林の胸倉を掴んだそれが、地獄の底から響くような、野太い大音声で叫んだ。


「BL、読ませろおおおおおお!!!!」


 そのぽっかり開いた口から、物凄い臭気と共に大量の蛆がぼろぼろと零れ落ちていく。


──これが、本当の腐女子……


 最後にしょうもない感想を抱きつつ、余りの腐臭と衝撃に俺は意識を失っていった。

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