第7話 真夜中の茶会
何人かの同僚と夕食を一緒に取った時のことだ。向かいの席に座った友人のA君が少し疲れ気味の顔でぽろりと打ち明けた。最近妙な夢を見るのだそうだ。
気が付くと、彼は夢の中でどこかの薔薇の庭園にいる。正確な時刻は分からないが、ともかく空には星が瞬いている。
彼はそこで、洒落たティーテーブルの席に着いている。向かいの席には蝶ネクタイの紳士が座っていて、紅茶を啜りながら彼に尋ねる。
「どうでしょう? こちら側に来てみませんか?」
「…………」
その紳士にはどこかで会った気がするのだが、もう少しの所で誰だったかを思い出せない。名前を聞き出せばいいのに、夢の中では何故かそれを忘れてしまうのだという。
そして朝が来て目が覚める。それがここ一月繰り返されている。銀縁の眼鏡の奥で、少し大きめの目を細めてA君は笑う。
「いい加減飽きてきたよ。もし今夜同じ夢を見たら、『じゃあ行きます』って言ってみようと思うんだ。なに、夢にも変化がなきゃ面白くないだろう?」
§
翌日から、A君は会社を無断欠勤した。三日後、連絡がつかないことを不審に思った恋人が訪ねると、彼はベッドの上で息を引き取っていたらしい。彼女の話によると、彼の顔は何か途轍もなく恐ろしいものを見たような恐怖の表情に歪んでいたのだそうだ。
§
最近、僕は奇妙な夢を見る。
気が付くと、どこかの薔薇の庭園にいる。正確な時刻は分からないが、ともかく空には星が瞬いている。だから夜なのだろう。そして僕は、洒落たティーテーブルの席に着いている。
目の前には蝶ネクタイ姿の男が、銀縁の眼鏡の奥で少し大きめの目を細めて微笑んでいる。どこかで会った筈の男なのだが、どうしても思い出せない。彼は紅茶を啜りながら僕にこう尋ねるのだ。
「どうでしょう? こちら側に来てみませんか?」
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