第6話 私メリー

 プルルル!! プルルル!! プルルル!!


 受話器を取るとその向こうから、舌ったらずな幼い声が聞こえる。


「私メリー。今駅にいるの」


「私メリー。今あなたのおうちに向かっているわ」


「私メリー。今あなたのおうちの前にいるの」



 コンコン。


 玄関を叩く音が響いた。いよいよだ。ドアを開けると、金髪碧眼の西洋人形が私を見上げていた。


「よく来たね。お上がり」


 人形を居間に招き入れる。何を隠そう、私はドール収集家だ。この有名な人形がぜひ欲しかったので、わざわざ呪って貰ったのだ。


「私メリー。あなたを殺しに来たの」

「そうかい。ご苦労様。じゃあ、紅茶入れてあげるからね」

「いらないわ。今すぐ死んで!!」


 可愛い両手を広げ、私の首元を目掛けて飛び掛かるメリーちゃん。まん丸に見開いた大きな二つの碧眼が私の目前に迫る。


 しかしその時、メリーちゃんに別の何かがぶつかり、くんずほずれつしながら床の上を転げまわった。


「何すんのよこのジャンク!!」

「私がジャンクですって? あんたなんか五体引き千切って燃やしてやるわ!!」

「こっちのセリフよガラクタの癖に!!」

「言ったわねぇ!!」



 私を慕うドールの一体が、メリーさんと激闘を繰り広げているのだ。

「あああ、もう、やめなさい……」

 

 やれやれ。だが、同時に私は思うのだ。喧嘩は必ずしも悪いものではない。ぶつかり合った者同士が、掛け替えのない絆を育むこともある。


 そう、私と妻のように……。


「な、あの子たち、仲良くなるといいね」

 

 うっかり殺してしまった妻の遺骨で作製した等身大人形が、ギギギ、と首を回し、私に微笑を返した。

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