第3話 夏祭りの夜

『今年もお盆の季節がやってきた。今日は夏祭りだ。会場の中央に組まれた櫓上からは、和太鼓や三味線、胡弓や囃子の調べが響き渡り、その周囲を浴衣姿の人々が踊り歩いている。


 暗闇に浮かぶその情景の幽玄美に酔いしれて、俺はただうっとりしていた。


「いい祭りだなあ……」


 その時、誰かが俺に声をかけてきた。


「あれ? Sじゃないか?」


 声がした方を振り向くと、地元の友人のTの姿があった。


「おお、久しぶり」


 暫くの間、互いの近況などの雑談を交わした。ふとTが何かを思い出したように、


「つうかさ、お前……そう言えば……」


 恐ろしいものを見る様な目を俺に向けた。


「去年、叔父さんと一緒に事故で死んだよな……」


 そうだ。俺はもう死んでいる。


「なんだT、知ってたのか」


「お前……」


 Tは強張った顔をして俺から離れ、ばっ、と背を向けて走り去った。


「馬鹿だな」


 盆踊りに視線を戻し、俺は呟いた。


「ここにいるってことは、T、お前も死んだんだよ」』


§


 僕は震える手で、死んだ兄の日記を閉じた。死後も延々と書き続けられる日記を──。


 Tさんは昨日、亡くなったばかりだった。

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