第11話 お前今日からアタシの専属ドライバーな

 血技選手団本部へと帰還を果たした攻略チーム一行。

 多少、イリーガルな存在に襲われるトラブルにも舞われたが、それでも犠牲者を一人も出すことなく生還することが出来た。


「一体何だったんだ、よおアイツは!?」

「ホント怖かったね~、無事に帰って来れて良かったよ」


 シューティーとブルームが疲れ切ったように座り込み、そのまま一息ついて寛ぐ。それはメンバーも同じであり、誰しも安堵の息を漏らしながら互いの無事を湛え合う。


「あれは新手の敵キャラクターだったのか……? どう思うクロセス、パルマ?」


「どうだろうな……敵キャラにしては妙に生々しいような気がしたが。執拗に団長さんを追い回してたのも引っかかる」


「ノ~イ~ズがザザザザザアッだったな~おい? 普通じゃねぇぇなぁ?」


「そうだな。しかも俺達をスルーしてたよな。わけわかんねえ奴だ」


 ベガがクロセスとパルマに疑問を投げかけ、2人も思い思いの見解を述べる。不気味な外見を持つ敵キャラクターにしては、妙に意図の掴めない行動パターンを取る相手だった。


「アイツも照井作の用意した新キャラじゃねーの? そうに決まってるぜ~!」


「壊れた機械みたいな怖い外見だったよね~? 変身しちゃう前は継ぎ接ぎさんだったし」


「はあ……お前らは呑気なこって……」


 邂逅した感想を呑気に述べて結論付けるシューティーとブルームに対し、ベガは半笑いで呆れ、思わず言葉を零す。


「今回の討伐により、我々はこの世界から、また一つ大きな脅威を消し去ることに成功しました。先の戦闘での皆の健闘。誠に感謝します」


 暫し休息した後、クルツテイルから団員へ、今回の参加者へ、感謝の意と訓示が述べられる。


「今回はあのイリーガルな存在……仮にアンチートとでも呼びましょうか、奴によるトラブルはあったが、我々はこうして無事に帰還することが出来た。そして、一番の貢献者である腕輪の装備者達とその従士達にも、多大なる感謝の意を述べます。ありがとう、皆」


 腕輪の装備者であるアッシュ達と、その従士であるブルーム達に対し、クルツテイルは感謝と拍手を送り、人々も称賛の言葉と歓声をあげながら同じく拍手。このような状況にはあまり馴れておらず、アッシュは多少照れ臭かったのに対し、シューティーは思い切り喜びながらブルームと手を取り合い、はしゃいでいる。本当に仲が良くなったな~と、心の中でツッコミを入れる。


「これからも、この繋がりを切らすことなく、いつか現実世界への帰還を信じ、戦い抜いていきましょう。この場にいる人々が力を合わせれば希望は叶うと、私は確信しています」


 その言葉に、人々は惜しみない拍手を送る。彼の語りは、この世界に捕らわれた人々に確かな希望を与えているのだ。その堂々たる姿勢は、なによりも煌めいて見えた。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……


「じゃあアッシュ、俺ブルーちゃんとこ行くから、よお! また後でな~」


「シュティっち借りるね~アッシュ、じゃあね~」


「お~う、ごゆっくり~……」


 日も暮れ始めたので夕方の合図となり、参加者は皆解散し、それぞれのアジトに戻る。

 シューティーは血技選手団のジムに泊めてもらう約束をしたらしく、ブルームと一緒に嬉しそうにはしゃぐ。そんな2人の様子を見えなくなるまで見送った。


 噴水広場に腰かけ一息つくアッシュ。彼は、未だあの怪物の言葉の真意がわからず、一人夕日を眺めながら考えに耽る。


「いったいどういう意味だったんだ……? それとも、大した意味は無いのか?」


 "お前ら違う、仲間"。


 文字化けはしていたものの、それは会話ウインドウに表示されたテキストがそうなっているただけであり、発している言葉自体は、その部分だけはっきりと聞き取れた。リラも一緒に聞いていたので、間違ってはいない筈。だが、ならばあの怪物は自分達と同じ捕らわれた被害者なのか? それとも照井作が用意しておいたデータか何かなのか。


「やっぱまだ気になるか少年?」


 リラから声を掛けられる。両手にスポドリを握っており、片方を差し出して飲めと促された。アッシュは軽く礼を述べると受け取り、その透明な飲料水を口に流し込む。


「アイツ……アンチートは俺達と同じだと思う? それともやっぱり、オジャマテキやゴーストと同じように敵キャラクター……」


「敵キャラなら、あのゴーストを倒すか? バグって攻撃したとしても異常だろアレは?」


「確かに……それにあのゴーストの変貌。あんな黒い泡みたいなのが噴き出るなんて仕様、今まで聞いたことが無いな……」


「あれはバグだろうな。思いっきりノイズ走ってたじゃねえか。ああいうのは大概バグってるだろ? それとも、もしかしてウイルスだったりしてな……?」


「ウイルス!? それってかなりヤバイじゃん!?」


「例えばの話だよ。まあ、あの壊れた機械野郎がアタシ・・・を攻撃しなかったのは、確かにおかしい」


リラの指摘に、アッシュは強く頷く。アンチートは、自分達腕輪の装備者と従士、そして他のプレーヤーは狙わずに、何故かクルツテイルだけを執拗に狙っていた。もし奴が照井作の送り出した刺客ならば、この世界の強者を潰して希望を砕こうとする魂胆も理解できる。しかし、それだけで判断するのは安直すぎるし、何か違和感を感じた。


「あ、そういえばリラさん、さっき戦闘後にクルツテイルに何か言おうとしてなかった?」

「あん? ああ覚えてたのか少年?」


 彼女が大型ゴースト討伐後、団長に対し何か言おうとして中断されていた場面を思い出し、何気なく気になったアッシュは尋ねてみる。しかし、彼女の表情は思ったより暗い。と言うよりは、何か疑念を抱えている様子だ。


「あ、聞いたらマズかった?」


「いや……アイツ、こっちから大声を出さなきゃ大型ゴーストがジャンプ攻撃繰り出さなかったのに、それなのにわざわざ私達に聞こえるようにでっけえ声出して気付かせやがったから、蹴とばしてやろうと思っただけだよ」


「え? ああそういえば……もしかしてあの人けっこう抜けてる?」


「アホなところはあるな」


 何気ない会話かと思われたが、どうにもリラの言葉と表情が合っていない気がした。本心では何か別の事を思っている気がしてならない。


「何か隠してます?」

「あんま勘ぐるもんじゃねえよ」


 少し気を遣いそれとなく尋ねてみたが、軽く小突かれる。


「あ、そう言えば相棒くんがさっきブルームと……」


「ブルームの部屋でお茶するって……言ってました」


「ああ……通りで顔赤くして嬉しそうにしてやがると思ったら……大したもんだよあのは……」


 悔し気な苦笑い気味の表情を浮かべながら、呆れたように頭を抱えるリラ。アッシュも、いつの間にか進展している友に対し、多少の呆れと称賛の敬意を心の中で送る。


「じゃあ、俺は先に帰ります。シューティーをよろ」

「ああ、待て少年」


 先に帰ろうと立ち上がったが、服の首裾を強引に引っ張られて止められた。彼女に視線を向けて何事かと尋ねる。


「アタシの会員アドレスだ。もらっとけ」

「え? ああ……」


 会員アドレスを渡され、アドレス欄に彼女のアドレスが追加される。アッシュはキョトンとした表情を浮かべて呆ける。


「君は中々アタシを乗りこなしてくれたからな。気に入ったよ。アタシのドライバーとして正式に認めてやるから、お前今日からアタシの専属ドライバーな? そんで個人的にパーティ組まないかい?」


「ええっ!? そんな勝手に専属ドライバーだなんて、っていうか副団長さんが個人的に他の奴と組んでいいんっすか!?」


「別にアタシの知ったこっちゃねえし。拒否権はねえぞ」


「ええそんなっ!?」


「アタシの方が強いから色々リードしてやるって言ってんだよ。損はさせないから安心しろ」


 そんな強引な話しに持ち込まれ、結局アッシュは副団長であるリラの専属ドライバーに認定されてしまった。認められること自体は嫌ではなく、少し嬉しかったのでそこまで強く反対できなかったアッシュ君なのであった……。

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キラメキスポーツ・オンライン 大福介山 @newdeno

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