第9話 アンチ・オブ・ザ・チート

「そ~れサイクリ~ング!」


 従士として代電装したブルーム。自分のマウンテインバイク「クイックダッシュ」に乗り込み、軽快にペダルを漕ぎまくる。加速しそのままオジャマテキの軍勢に突っ込み、前輪を振り回しては蹴散らす。


「そ~れ、クイッククイック!」

『超回る~!! スピン化!!』


 「回転」のフィールドアイテムを取り、高速回転。自転車マウンテンバイクを上下に動かし、旋回しながら前輪と後輪をぶつける。岩肌に乗り上げるとそのまま一回転して踏みつぶす。 


「じゃあ、装備しちゃお~」


 疑似腕輪の結晶に触れると、軽く前にかざす。


『キラメキィギアインストォォォリングゥ!』

「サイクリングサイクリング、ラララ~ラララ~、シャカシャカコギコギ、B・M・X! ライド!」


 ブルームが明るく歌いだすと、マウンテンバイクが光りに包まれ、宙に浮かぶと分離して彼女の身体に被さる。フレームと2つの車輪が追加装甲のように装備されている。


「うわお!? ホントに自転車が防具になった、ぜえ!?」


 近くで戦っていたシューティーは、その奇妙な武装具合に驚く。


「ブルーちゃん、自転車でどうやって戦うんだ、よお?」

「えへへ~、見ててねシュティっち~、そ~れ!」


 ブルームが見せた新たな自転車戦法。

 前輪と後輪を回転させると、前と背後からの敵の攻撃をガード。さらに車輪を取り外して相手に投げつける投鄭攻撃。チェーンを手に取り、振り回して一網打尽にする鉄鞭攻撃等、意外と多彩な方法を繰り出す。


「とどめは力づくだ!」

『必殺! キラメキィバァァァスト!!』


 疑似腕輪からナビが流れると、自転車が元の形へと戻る。ブルームは自転車を掴みあげると、力任せにぶん回しながら敵を蹴散らし、そのまま大型ゴーストへぶつけていく。もはや自転車そのものを武器として使っている。見た目は凄く喧嘩殺法のように見えるし、なによりも凄く痛そうである。


「アッハ~ン!? すげえぜ!」

「うわあ、マジで凄いな自転車……」


 思わず歓声をあげるアッシュとシューティー。


「よっしゃあ、俺達も行くかパルマ!?」

「う~りうりうりいくぜいくぜぇ~!!」

『キラメキィビィィィクルユニオォン!!』


 クロセスとパルマの疑似腕輪が発光し、彼らのビークル、「スカイウインド」と「ランドターボ」が変形合体。2人は飛び上がると機体に乗り込んだ。


「「完成! フライトクロッサー!!」」


 セスナ機とレースカーが合体したスーパービークル。これで陸と空を制する。腕輪にはスポーツビークルを変形させる効果もあるようだ。


 上空から一気に降下してオジャマテキをプロペラとウイングで切り裂き、旋回しながら巻き込んでいく。さらに4つのタイヤで華麗にドリフト回転。敵を蹴散らしていく。その豪快かつパワフルなビークル戦法。大型ゴーストにも攻撃を当てていく。空も飛べる分非常に有利だ。


『必殺! ダブルキラメキィバァァァストォ!!』

「「パワードブレイカァァァァ!!」」


 フライトクロッサーが光りに包まれ、両翼にエネルギー刃が出現。機体が激しく発光すると、そのまま高速回転しながら大型ゴーストに直撃して大爆発を起こす。たまらず大型ゴーストは倒れた。


「やるなぁあいつら。でもま、お前らばかりカッコつけさせねえぜ!」


 ベガはボードを加速させて、大型ゴーストへと接近。そのままボードを蹴たぐり、背面のグリップを握ると必殺バーストを発動。腕輪が発光し粒子が全体を覆う。


『キラメキィバァァァスト!!』

「狙い突くぜ! スピニングボォォォドォ!!」


 旋回するエネルギー波がベガを包み込み、強力な回転攻撃となり、なんとか起き上がった大型ゴーストの巨体を貫く。3度の必殺技を受けた大型ゴーストのライフは、大幅に削られる。


「おっと、俺もやる、よお!」

『必殺! キラメキィバァァァストォ!!』

「ボードレーザービーム!」


 追い打ちをかけるように、シューティーも必殺バーストを発動。ボードの先端から超圧縮レーザービームが放たれ、防御しようとした巨碗を貫いて頭部に命中し爆発炎上。シューティーの攻撃で頭部がウィークポイントだと判明した。


「アタシらも負けてられん。飛ばすぞ少年!」

「了解! 行くぜ~!」


 アッシュはハンドルを握り加速。リラの速度を上昇させて大型ゴーストへ畳みかける。巨碗が2人に襲い掛かるも、リラを上手く操縦しながら避けつつ、旋回してはウィーリー。リラの車体を利用した体当たり攻撃とソードでの切り付けで確実にダメージを与えていく。


「いいぞ少年。大分アタシを乗りこなせてきたじゃないか」

「誤解されるような言い方は勘弁リラ」


 攻撃を避けつつ、皆と連携して確実に大型ゴーストを追い詰めていく。そろそろオジャマテキの数も減り、ゴーストのライフも強力な一撃を叩きこめば倒せる見込みとなった。


「少年、あそこの並んだアイテムを全部取って、そのまま上を狙え! 」

「オッケーリラ!」


 リラの指示通り、延長線上にある4つのフィールドアイテムへ向けて加速。ゲットに成功するとそのまま大型ゴーストの頭部へ向けて加速し……。


『超跳躍~! 超速え~! 超硬え~! 高跳躍化! 跳躍化! メタル化! キラメキィトリプルコンボォ!』


 メタル化した状態で、超加速となり高くジャンプ。一気に大型ゴーストの頭部へと接近。


『必殺! ダブルキラメキィバァァァストォ!!』

「「モトクロスラッシャー!!」」


 アッシュはソードを構え、リラと共に大型ゴーストの頭部へと必殺バーストを直撃させる。エネルギーを纏ったリラの超絶体当たりと、アッシュの斬撃がトドメとなり、大型ゴーストは倒れた。他のメンバーが必死に攻撃を繰り出しライフを減らしていてくれたおかげだ。


『オオオオウッ! キラメキィゲェェェムゥクリアァァァァ!! コングラッチレェェェション!!』


 ゲームクリアを知らせる盛大なファンファーレが鳴り響く。その場にいる全プレーヤーに煌めきポイントが加算され、リザルトが発生して経験値や報酬が割り振られていき、あちこちでレベルアップのナビが聞こえる。


「バトルファインだな、少年」

「おう、リラもサンキューな!」


 リラの激励に、アッシュは彼女の車体を軽く叩いて礼を述べる。気分が高揚している為か、いつの間にか敬語が外れて気軽に彼女の名前を呼んでいる。


「見事だな2人とも」


 笑みを浮かべたクルツテイルが、2人に勝算の言葉を送る。彼のHPゲージは、多少削れているだけで余裕のグリーンを維持している。それどころか、この戦闘中大して回復アイテムを使っていなかった。


「アッシュ君。きみとリラは相性がいいようだな。ここまで彼女を乗りこなすドライバーは、今まで見たことが無い」


「へへっ! 聞いたかリラ? 俺達ナイスドライバーコンビみたいだぜ?」


「ああそうだな……」


 まだ戦闘の高揚感が抜けないアッシュは調子良くリラに話しかけるが、リラの方はなにやら腑に落ちない様子を見せていた。気付いたアッシュは気遣う。


「どうしたんだリラ?」

「戦闘が始まる前、まだ敵はこちらに気付いてなかった」


 リラは車体をクルツテイルに向ける。少し不穏な空気が流れた。


「団長、アンタさっき……」


 しかし、勝利に酔いしれる者達を突如不可解な現象が襲い掛かる。

 周りの景色にノイズが走り、全体が揺らぎ始めたのだ。ゲームはクリアした筈。プレーヤー達に動揺が走る。まさか何かの隠し演出でも発動したのかと。


 その予感は的中した。なんと、倒して消滅したはずの大型ゴーストが、全身から大量の黒い靄を吹きだしながら蘇ったのだ。まさかの事態に、全員が半ばパニックになりかけた。


「なっ!? どうして!? さっき確実に倒したのに!?」

「エ、エクストラステージでも始まんのか、よお!?」


 大型ゴーストの姿はよりグロテスクなものへと変貌していた。全身から不意出す黒い泡状の靄は、分裂増殖するかの如く、まるで生物のように蠢いている。ゴーストの光る双眸はより凶悪さを増しており、赤い血管は以前にも増して肥大化しており、まるで暴走しているかのようだ。さらに、絶えず身体の彼方此方にノイズが走りまくっているという奇妙な現象が起こっている。


「な、なんだアレ? まさか大人数で攻撃し過ぎたせいでラグが発生して、バグったのか?」


 この世界が通常のゲームと同じように動いているのならば、想定以上を上回る過負荷によりラグが発生し、システムデータが一時的にバグることは充分ありえた。が、ここはデスゲーム状態の世界なのだ。バグ等に巻き込まれては命がどうなるかわからない。


 皆が恐怖を乗り越えて戦闘態勢に入った瞬間、奇妙な電子音が、一つだけ鳴り響いた。


 たった一つだけの短い音だが、その瞬間、世界が変貌する。


 フィールド全体が暗闇に包まれ、紫色の濃霧が辺りに立ち込める。そして、大型ゴーストの背後の空間が歪み、激しいノイズ音と共に裂けた。


「あ˝あ˝あ˝あ˝……」


 砕けた空間の孔から這いずり出るように出現したのは、異形の存在。

 それは確かに人の姿をしていた。だが、身体の彼方此方が継ぎ接ぎのようになっており、その動きはおぼつかずよろめいているようにも見える。呻き声の様な声を発し、瞳は虚ろで生気が宿っていない。例えるなら、まるでフランケンシュタインの怪物のようだ。奴は全身から紫色の炎を吹きだし、その不気味さにより拍車を掛けている。


 アイツはなんだ?

 その場にいる誰もが困惑した。あのクルツテイルさえも眉を潜ませて睨み付けている。明らかに普通のオジャマテキやゴースト共も違う、見るからに異質な存在。


「miつぅkeだ@@@@……」


「な、なんだアイツ、会話ウインドが上手く表示されない……文字化けしてるぞ!?」


「音声がぶっ壊れてんのか……?」


 普段は直接言葉を交わし合うシステムが働いているので、会話ウインドウが表示されることはないが、文字を打ち込んだり、会話が聞き取れない時は補助的に表示される仕組みになっている。だが、目の前の存在が発した言葉は上手くシステムが働いていないのか、会話ウインドウは完全に文字化けしている。


「あれは……まさか、腕輪!?」


 右腕には、アッシュ達と同じく腕輪を嵌めていた。しかし、同型モデルと言うわけではなく、透明で淡く発光しており、所々結晶が生えているような、不気味な形状となっている。


「オ˝レ……Baぐ修正3lu,チート許Sa91……VIRUS、駆逐suru……!!」


 まるで何と言ってるかわからない。辛うじて会話らしきものは表示されているが、やはり文字化けしているために解読できない。

 ただ、あの存在の標的が、大型ゴーストであることは理解できた。奴はゴーストに狙いを定めると、虚ろな目を見開き、口を開けて牙を剥き出しにした!


「オ˝レ˝! お˝MAE˝、◯kaじりぃ!!」


 叫び声をあげると、奴は右拳を左の手の平に押し当てた、武器から壊れたような低音ボイスのナビが鳴り始める。


ANTIアンチ UPアップ!』

「チートヲ許スナァ! バグハ修正、ウイルスハ駆逐セヨ! 我レコソハアンチプログラムソフトォ!! アンチィィィトォォ!!」


 絶叫と紫色の電とエネルギーが包み込み、壊れたようなギターサウンドをバックに奴は変貌を遂げる。

 まるで無理矢理改造修理されたような二足歩行型ロボット。装甲が中途半端に設置され、中の基盤や配線が剥き出しになったような不完全な使用。彼方此方にパイプが露出しており、蒸気と排熱を撒き散らしている。頭部には複眼レンズがあり、そこが奴の目に該当するのは理解できた。


「あ˝あ˝あ˝あ˝……!! ヂィィドバ殺ズゥゥゥッ!!」


 まるで壊れた音声機を搭載したロボットのよう。アンチートと名乗るソレは、紫色の炎を大量に噴出しながら、大型ゴーストへ襲い掛かった。

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