第8話 煌技戦隊 キラレンジャー!!
血技選手団による大型ゴースト討伐作戦が開始された。ソロやチーム、ユニットなど、大勢のプレーヤーが参加している。
これは単純なクエストではない。
大型ゴーストはゴーストが巨大化しているのだが、普段のゴーストはスポーツエリアに記録として滞在している状態。そしてプレーヤーが現れると始めてエンカウントとなり、オジャマテキを率いて襲い掛かって来る。しかし、今回の大型ゴーストは自らプレーヤーに接近して攻撃を仕掛けてくるのだ。
攻撃パターンも他のゴーストとは異なり、普通のゴーストがスポーツビークル・ギアを駆使して戦いを挑んで来るのに対し、大型ゴーストはその身一つで肉弾戦を挑んでくることが邂逅したプレーヤー達の報告で判明している。そして最も厄介なのが、この大型ゴーストはパルクール記録から発生した存在なのだ。
あの巨体で素早く移動し、障害物や建物を掻い潜り、巨碗を叩きつけて来るのは脅威だ。
「諸君。今回の敵はパルクールを備えた軽快かつ俊敏な動きをする上にあの巨体だ。目測を誤れば一瞬で命を落とす。決して油断せず連携プレーを心掛けて挑んでほしい。まずは私と副団長、そして……」
クルツテイルが団員とプレーヤー達に今回の討伐作戦の内容を説明し始める。
皆、表情を引き締めており、今回の相手が強敵なのは重々承知しているようだ。これだけの人数で挑んだとしても、何が起こるかは保証できない。万全の準備と対策を怠ってはならないのだ。それを損なえば、この世界で命はあっと言う間に煌めきを失い死するであろう。
「アッシュ、いよいよだな、おい……!」
「ああ、なんだか緊張する。戦場に向かうみたいだ……」
「なにしろ俺らは団長さん達と切り込み組だからな。気を引き締めていかねえと……」
「お前素に戻ってるなシューティー……」
緊迫した状態からか、シューティーはいつもの陽気なラップ口調ではなく、普通の口調に戻っているのをアッシュは軽めにツッコミを入れる。少しでもほぐしておかないと戦闘でヘマをやらかすかもしれない。
「大丈夫だよ、シュティっち。あたしも付いてるからがんばろ、ね?」
「お、おうそうだな、ブルームちゃん……!」
気を利かせたブルームがシューティーに明るく声を掛けて励ます。彼女の存在に緊張がほぐれたのか、シューティーの表情に多少余裕が戻る。安堵したアッシュが軽く微笑むと改まった様子のリラが話しかけて来る。
「少年。君にはアタシに跨ってもらうからな?」
「え? また俺が乗るんですか?」
まさかまた彼女に搭乗することを要求されるとは思わず、アッシュは多少顔を赤らめて慌てふためく。
「あの形態はアタシ一人じゃ馬力が出ねえんだよ。ドライバーがいて初めて力が発揮できるんだよ。ブルームはあくまでBMXが得意だから無理は出来ない」
「団員さんに頼めばいいんじゃないですか、団長さんとか……」
ブルームが上手く乗れないなら、同じ組織の団員に頼めばいい。自分は一回乗って操縦したに過ぎないのだから、団長のクルツテイルなら軽口を叩きあう程なのだから。
しかし、アッシュの提案を聞くなり、リラの表情は急激に淡白に変わり……。
「嫌です」
「なんで?」
「男は跨らせたくないです」
「……俺男ですが……?」
「いっちょまえに男振るなガキンチョ」
「痛い!?」
怖い笑みを浮かべ、強化ギプス側の左腕で頭を強く掴まれるアッシュ。
「君はまだケツの青い子供だ。別に跨らせても問題無いし、初めて私を操縦した時は中々のテクニックだったからな」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、俺はそんなに子供じゃありません! っていうかそっちも俺より少し上なだけでしょう?」
「馬鹿、高校生と中学生くらい差があるわ。わかったらさっさと準備しろ」
子ども扱いされることに反発して反論を述べたが、軽くリラに制される。なんだが良い様におちょくられている気がしてならない。
そして、いよいよ大型ゴーストがいるゲスポーツフィールドへと向かう。
大群でゲートの前に集う様は中々圧巻の光景だが、これだけの大人数を移動させると、途中で過負荷が掛かってラグが発生しないかと、多少の不安が過る。
辿り着いた場所は、険しい岩山や凸凹とした道筋、木々や人工物が立ち並ぶ、自然と近代的町並みが融合したかのようなフィールド。ここが、パルクール用のスポーツフィールドだと理解できる装いだった。
スポーツエリアに到着してまず警戒すべきことは、自分達の行動を邪魔する為に現れるオジャマテキの存在。彼らは名前通りの存在なのだ。こちらが何かを達成しよう、勝ちに行こうとする行動パターンを予想して妨害しに来るのだから。何処からともなく発生しては襲い掛かって来る。
「来たぞ! 奴だ!」
先陣に立っていたクルツテイルが何かに気付き、全員に聞こえるように大声で伝える。彼が示した方向には、モニターで見たのと同じ大型ゴースト。こちらの様子に気付いて、接近して来た。団員達は直ぐに戦闘態勢に入る。
それと同時に、大量のオジャマテキがそこら中に出現した。何の予備動作も予告も無しにだ。瞬く間に大量のオジャマテキに囲まれてしまったが、戦闘態勢に入っていたことが幸いして、対応できた。
しかし、オジャマテキを相手にしている内に、大型ゴーストが物凄い速さでこちらに接近。その速さは尋常ではなく、明らかに大きさと合っていない。パルクール属性だからと言えばそれまでだが、その妖しく光る双眸は、団員達を完璧にターゲットとして捉えていた。
「……!? テメら四方八方に散って避けろ! 死ぬぞ!」
突如、リラが大声で叫ぶ。何事かと思ったが、大型ゴーストが跳躍しているのが目に入り愕然とする。跳躍して着地する場所は、自分達がいるこの場所だ。奴はジャンプ攻撃を仕掛けて来たのだ。
しかし、クルツテイルが軽く跳躍。己の身体一つでジャンプ攻撃を見事にガード。同時に彼は奇妙なポーズを取ると、その独特な構えから拳を突き出し、大型ゴーストにクリーンヒットさせた。
その先制攻撃が功を成し、ゴーストのジャンプ攻撃妨害に成功。そのまま落下して地面へ仰向けに倒れる。衝撃波と風が一斉に吹き荒れるが、怯んでる暇はない。
「さすが団長様だ。じゃあ少年、相棒君、代電装だ」
「おう、おっしゃあ、煌めくぜ!」
「オーライ!!」
「ブルーム、クロセス、パルマ! アンタらもできる筈だ、やってみな!」
「おっけ~ねーちゃん!」
「よっしゃやったるか!」
「う~りうりうり来たぁ~!!」
腕輪をかざすリラに催促され、アッシュとシューティーも腕輪を掲げる。リラが腕輪のコマンドを発動させたので、従士であるブルーム達にも同等の能力が付与。3人の右腕にクリアカラーの疑似腕輪が装着される。
「ベガ、アンタも一緒にやってもらうよ?」
「了解したよ副団長さん」
リラの促しにベガも腕輪を掲げ、皆で横並びとなる。そして、一斉にあのキラメキポーズを取る。
「「キラメキ!」」
『バフルアップ!』『疑似バフルアップ!』
腕輪からのメロディに合わせ、それぞれ歌って踊る。リラの腕輪から粒子が供給され、ブルーム達はリズムに合わせて踊る。一連の動作が完了すると、身体が発光して上位防具が全身に装備され、リラはバイク形態となり、腕輪装着者と従士の代電装化が完了。アッシュは直ぐにリラへと乗り込み、ハンドルグリップを握って彼女のエンジンを鳴らす。
「ガンボードプレーヤーシューティー、キラメキレッド!」
「サイクリングプレーヤーブルーム、キラメキブルー」
「エッジボードプレーヤーベガ、キラメキグリーン!」
「エアレースプレーヤークロセス、キラメキブラック!」
「モトクロスプレーヤーリラ、キラメキホワイト!」
「ドラッグレースプレーヤーパルマ、キラメキヴァイオレット!」
「ソードボードプレーヤーアッシュ、キラメキグレー!」
「「煌技戦隊! キラレンジャー!!」」
『ムチャクチャキラメキィィ超イケてるぅぅぅ~!!』
それは突然の事だった。何故かそれぞれ名乗りを上げ出し、戦隊と言う言葉を一斉に口に出した。
口上が終わると共に背後で煌びやかなエフェクトと色鮮やかな爆煙が吹き荒れる。大量のキラメキポイントが加算された。
が、アッシュがふと我に返ると……。
「いやなんで俺達今戦隊の名乗り上げたんだよっ!?」
アッシュの正当な訴えに皆の反応は……。
「いや、何か身体が勝手に動いた、よお」
「頭の中に何か入ってきたから自然とやっちゃった~」
「その方が士気が上がりそうな気がした」
と、各々の回答を述べる。ちなみに、他の参加者は着いて行けずに呆然となっており、オジャマテキとゴーストすら動きを止めてこちらを眺めている。
要するに敵も味方も含めた冷たい視線がアッシュ達に突き刺さっているのである。中には理解を示す者達もおり、興奮気味にはしゃいでいるのが唯一の救いと言えば救い。
「まあいいじゃん、よおアッシュ! んじゃいっちょ過激に~?」
「え? ああ、煌めくぜ!」
シューティーの掛け声に、アッシュはいつもの調子に戻って口癖を発し、腕輪の装着者と従士達は一斉に大型ゴーストとオジャマテキに攻撃を仕掛けた。
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