第7話 召集の意図、そして従士

「さて、ベガユニットと、クロセスユニットもここに呼ぶとしよう」


 そう言うと、クルツテイルはパネルを操作。彼らを団長室に連れてくるように団員に指示を出す。ベガ達だけをこの部屋に呼び出すとは、どういうことだろうかと首を傾げるアッシュ達。


 しばらくして、ベガ、クロセスとパルマのコンビが到着して団長室に入る。


「よお、お前らも来てたか」


「かはっ~はははははっ! げ~ん~き~にぃ~してたかぁ~ん?」


「クロセスさん、パルマさん、お久しぶりっす」


「お久しぶりでっす!」


 クロセスとパルマ、パワーファイターコンビと再会。2人は軽くお辞儀をして挨拶を交わす。彼らは、2人が本格的にコンビを結成するきっかけを与え、その戦い方や流儀から尊敬の念を抱いているのだ。


「わざわざ俺達コンビにまで声を掛けてくれるとは、感謝するぜ団長さん」


「さ~んきゅ~で~す!」


「なぁに謙遜することはないさ。君達のパワーファイトは、見ているこちらまで興奮を覚えるよ。実力を見込んでのことさ。そして、君達もよくぞ来てくれたベガ君。感謝するよ」


 ベガへと視線を移し、クルツテイルは頭を下げて礼を述べる。


「頼まれたからには、俺は全力で応えるだけさ」


 それに対し、ベガはサムズアップで明るく言葉を返す。そしてアッシュとシューティーに気付くと、爽やかな表情を見せて2人の肩に腕を乗せてフランクな態度を見せる。


「よお、お前らも来たてか」


「おう、久しぶりベガ」


「元気してた~?」


「この通り元気さ。お前らも元気そうで何よりだ」


 同じボード使いということもあってか、ベガは2人のことを何かと気に掛けているのだ。始めて戦いの場に出くわした時も、激を飛ばして鼓舞してくれたのは彼だった。


「持ってんだろアンタも? こっちは情報で知ってんぞ?」


 リラは自分の腕輪をベガに見せて指し示し、返答を求める。それに対しベガは得意そうな笑みを浮かべて腕をかざしてみせる。


「その通り。俺も腕輪の所有者ってわけだ」


 顔の前に右腕をかざして見せるベガ。口から覗く歯がキラリと煌めいたような錯覚を覚えた。限りなく自然態で格好つけられるのが彼の特徴。リラは思わず小声で"うわなにこのイケメン"とツッコミを入れる。


「ベガも腕輪を手に入れたの!?」


「ああ、割と最近な。偶然手に入れたと言うか。クエストクリア後に報酬のクーラーボックスを開けたら入ってたん」


「マジかよ、ってことは、この場に腕輪の所有者が4人もいるじゃん、よお!?」


 リラに続き、まさかのベガも腕輪所有者。流石に驚きを隠せなかったが、SSSランクの超レアアイテムの割りには、いくらなんでも数が多いのではなかろうかと疑問を抱く。


「しかし、俺の弟分達だけじゃなく、かの麗しき副団長様も腕輪の所有者とは、これは何かのお導きってことかな」


「スカした男だな。アタシに気軽に手だしたらぶっ殺すぞ」


「おっと、怖い怖い」


 気軽に接近して甘い言葉を囁くベガに対し、リラは冷淡な笑顔で物騒な言葉を吐いたが、ベガはめげることなく両腕を上げておどけてみせる。


「そう、つまりはそういうことだ。腕輪の所有者とその従士、高い実力を持つ者にこの戦いの先陣を切ってもらいたいのだよ」


 クルツテイルは立ち上がり、今回の召集の意図を厳かに伝え始める。


「要するに、アタシら腕輪の所有者とその従士が先陣を切る事で、団員や他の奴等の士気を高めるんだとさ、そんなことに意味があるのか知らねえけど」


「大事なことだよリラ君。希望を見出し、士気を高めるのは、兵法で最も重要なことだ」


「はいはい。で、今回腕輪を持ってねえおじさま達も呼んだのは、腕輪の従士契約をして戦力を高めようって魂胆だ」


「魂胆だなんて人聞きが悪いな~リラ君」


 意図を噛み砕いて伝えつつ軽く毒を入れるリラに対し、クルツテイルは"そりゃないよ"と嘆きの表情で訴える。


「俺達が呼ばれた理由は理解できたが、リラの嬢ちゃん。その従士契約ってのをすると、どうなるんだ?」

「どんなだどんなだどんな効果だぁ~!?」


 説明を求めるクロセスとパルマに対し、リラの従士であるブルームが説明を始めた。腕輪を装備したプレーヤーに従士として選択されることで、バフ効果を得られて同等の能力が与えられることなど。


「それで、スポーツギアが防具として変形する等のメリットがあるんですよ」


「聞いたか聞いたか、すげえなクロセス?」


「ああ、アッシュとシューティーの戦いで多少見たことはあったが、そんな能力が隠されていたとはな。こりゃあ乗らない手はねえなパルマ?」


「そうだなそうだなうわおうわおわ~お! 俺達も腕輪の従士け~やくと決め込むぜぇ~!!」


 ブルームから説明を受けたクロセスとパルマは、俄然やる気が沸いてきたのか、意気揚々と従士契約をすることを了承する。


「で? 誰が俺達を従士にするんだ?」


 当然の疑問を投げかけるクロセス。


「だ~れだ誰だ~だ~れ様だ~?」


 パルマはアッシュ達を順に指差して誰なのかと催促する。アッシュとシューティーはキョトンとした顔でリラに視線を移す。


「アタシがやる。招集をかけたのはこっちだし、複数選ぶことでどうなるのか確かめたいからな」


「よし、じゃあ決まりだな。早速頼むぜ、リラ嬢ちゃん」


「よ~ろ~し~く~頼むぜぇ~!」


 リラはクロセスとパルマの前に立つと、腕輪を嵌めた右腕を前にかざして、アイテムコマンドを開き、アイテム効果の対象プレーヤーを選択。腕輪の中央結晶から粒子が溢れだし、リラの身体を包み込む。さらに発光する魔法陣が出現し、クロセスとパルマに重なり、腕輪からナビが聞こえ始める。


『従士システムを起動します。対象プレーヤー、クロセス、パルマを従士として選択します』


「我、腕輪に選ばれし勇者。汝等を我が従士として選ばん。汝等は我が従士として力を与えん……」


 まるでファンタジー作品に出て来るような、魔法契約のような構図。リラは腕輪から頭に直接流れ込んで来る情報を受け取り、呪文として唱える。すると、クロセスとパルマの身体も粒子に包まれ、2人は徐に目を瞑る。彼らの頭の中にも、腕輪からの情報が流れ込んだ。


『選択完了。クロセス、パルマを貴方の従士に選びました』


「よし、終わったぞ2人とも」


 意外にもあっさりと終了した。2人とも不思議そうに自分の身体を確かめる。本当に何かしらの力が共有されたのか、まだ実感がわかなかったからだ。

 アッシュとシューティーは、初めて見る従士システムに目を輝かせた。自分達の腕輪もあんな機能があるのだと。そして、既にベガも2人のプレーヤーを従士に選んでいるのだ。自分達もいずれ選ぶ機会が訪れるかもしれない、と、改めて腕輪を繁々と見つめる。


「実際の戦闘でのあれこれは後でアタシとブルームが説明する」


「3人ともありがとう。なんだか厳粛な場に立ち会った気分だよ。さて、ではそろそろ始めるとしようか……」


 クルツテイルは徐に電子パネルを操作して、ある映像を表示させる。


「今回我々が挑もうとしているのは、かつてこの世界が競技だった頃に残された、とある記録保持者のゴースト……とても手強い存在でね」


 映像が拡大されて皆に平等に見えるようになり、直ぐに映像の再生が始まる。


 そこに映し出されていたのは、赤い血管のような筋がいくつも通った黒い体表を持つゴースト。初めはいつも見慣れた姿かと思われたが、直ぐにそれが間違いだと気付く。


 身の丈5メートル以上はある。その巨大過ぎず、かと言って小さすぎない中途半端な大きさが、返って不気味さを醸し出した。


「今まで、このようなゴーストは確認されていない。大きさは我々と同じ等身大の人間サイズだった。何かの仕様なのか、照井作が用意した存在か……どちらにせよ警戒すべき相手だ」


 このゴーストが、今回自分達が挑む敵。アッシュは映像に映し出された巨体のゴーストを眺め、険しい表情を浮かべる。

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