第4話『面接先は山の上』
コンビニから帰ってから1時間、翔(かける)は昔使っていた部屋のベッドに持たれて求人誌を見ていた。
先程の出来事を思い出しながら読んでいるせいで、内容が頭にひとつも入ってこず、ただ見つめているだけの状態にあった。
あの場所にいたお嬢様グループの1人に繭先美玲(まゆさきみれい)、彼女が居た事は本当だった、チームで副総長として翔の右腕役を務めていた。
彼女を単車の後ろに乗せて走っていた時期も少なからずあるが、悪い方向へ走るような女の子では無かった、集会が夜20時に行われる時は必ず何処かへ電話をしたり、深夜を迎えそうになると毎回慌てて帰っていく事もあった、集会をしている時に学校の宿題を持ってきて勉強をしている所も見ていた。
その頃の翔は『真面目な奴』だと頭で思っていただけで、兄貴分として見守っていた、そこからしばらくして翔は美玲に対して『集会が遅くなる場合は出なくていい』と告げ、それ以降は美玲も深夜の集会には現れなくなる。
そして最後のチーム脱退の集会日に、2人は抜けた。
それまでの行動を見ると、どうして暴走族何て悪いヤツらのグループに入ったのか理由が知りたくなる翔。
今日見たお嬢様グループを見るだけで、美玲の居場所はちゃんとある様に翔は感じたからだ。
「アイツ、いい所のお嬢様だったのか」
歳は妹と変わらない、そして同じ制服だと言う事は知っている可能性もある訳だ、しかしこれ以上美玲に近づけば余り良くない事が起こると翔は考え、探りを入れるのをやめることにした。
「気を取り直して、仕事仕事!」
寝転がった状態から起き上がり、再び求人誌のページをペラペラ捲る、頭はあまり良くないのは自分でも理解しているのか、体力方面の仕事を探す翔。
1冊、2冊と次々に求人誌を手に取り最後の1冊となった、ページに書かれた内容を軽く流しながら見ていくと、気になる応募ページを見つけた。
「月給20万、室内清掃や雑用等、住み込み可能だと?」
他にも気になる仕事はあったが、住み込み可能とは書かれておらず、しかも場所が遠かったりとやる気を萎えさせる内容ばかりだったが、このページは違った。
住み込み可能で手取り20万前後、場所は実家から単車で行けば10分弱と面接場所まで近い、ただ気になったのは、
「面接場所が現地なのはわかるんだが、なんだこれ、山の上じゃないか?」
一葉山山頂、面接場所案内欄に書き記されたその名前は、県内にある山の1つで標高は290メートル、それの山頂にあるらしいが単車で上がればさらに10分掛かるか掛からないかだ。
翔は過去に何回か上がったことがあるが、山頂にそんなビルが建っているのを見たことは無かった、ただ1つだけ考えられるのが、
「1箇所だけ立ち入り禁止の道があったんだよな」
山頂に上がりきる手前の脇道に、豪華にあしらわれた大きな門がそこにはある、開いているところを余り見たことは無い。
もしかすると、その先にその仕事場があるのかもしれない。
そんな場所にあるなら、高級ホテルだったりするかもしれないと、ちょっと苦い顔をする。
「俺みたいなのが高級ホテルか、想像つかねぇわ」
改めて応募欄を見ると会社名は書いておらず、名前だけが書いてあった、その名前は、
「七宝グループ?」
ニュースやテレビを見ない翔にはピンと来ない名前、とにかく何かの会社だと言う事だけわかれば、後は電話をして面接を受けに行くだけだ、頭をポジティブに切り替えて早速電話を掛けてみる。
呼び出し音が1回目を告げ切る前に、繋がった。
『はい、七宝でございます』
耳に押し当てたスピーカーからは、年老いた年配の男性ボイスが聞こえてきた、事務員かもしれないと考えながら。
「求人誌を見たんですが」
『左様でございますか、明日面接場所まで来てください』
「え、そんだけっすか」
『はい、服装も特に指定はございませんので、ありのままの貴方でいらしてください』
「あ、はい、わかりました」
通話時間20秒、履歴書とか写真とか重要な事は何も言われず、こちらから電話を切った。
求人誌に挟まれたまっさらな履歴書を取り出して、書き込む準備をしていた翔はポカーンとしてしまう、とりあえず履歴書は書いていく事にして、言われなければ出さずに持ち帰ると決めた。
写真は使わずに置いていた物があり、日にちもそんなに経っていない、その写真を切り取り履歴書に貼り付けた。
「後は面接だけっと! ふぅ、まぁホテルマンな俺も中々イイんじゃないか?」
全身鏡に映る自分を見る、身長は179センチ、顔は普通で髪はセットをしない主義、ボサッとした金髪は素の自分を表すのにふさわしい。
そんなアホな事を考えながらポーズを決めたりしていると、いきなり部屋の扉が開かれる。
「……なにやってんの」
「…………」
妹の結萌(ゆめ)が制服エプロン姿で、アホのポーズ気取りの兄を見ながら漏らした言葉がそれだった。
翔はゆっくりとポーズをやめて結萌の居る場所へ振り向く、自分でも何アホな事をしているんだろう、心で呟きながら考えていたが、妹の目は『生ゴミ』を見るような視線で兄を見つめている。
「な、なんだよ」
「晩御飯、できたから呼びに来たけど忙しい見たいだから、捨てとくね」
「待て待て、今行くから捨てるなっ!!」
先に部屋を後にした妹の背中を追う哀れな兄、2階から降りる時にご飯の匂いが鼻を刺激、今日の晩御飯はハヤシライスだった。
翌日、単車で走る事20分前後。
山を駆け抜けて辿り着いた脇道にある門は、見たものを吸い込むとばかりにデカデカと左右に開かれていた、そのままエンジンを付けて走り抜けてもよかったが、雰囲気に飲まれてしまいわざわざ車体を押しながら、中へと進む。
しばらく進むと、まず見えたのが真ん中に巨大な噴水、その中央には何かの石像、それらをまじまじと見つめながら抜けると駐車場が現れる、そこに単車を駐車しそびえ立つそれを見て、翔は声を漏らす。
「な、なんじゃこりゃ……」
そこにあったのはビルでもなく、ホテルでもない、山と言っているが敷地面積は一体どれだけあるのかわからない、そんな場所に鎮座している建物とは、
「や、屋敷?」
そこにあったのは洋風のお屋敷、それも三階建てで白い壁が太陽を反射し煌めきを放っている、翔は唖然とする、こんな場所でしかも屋敷でもし働く事になればどうなるのか、思考が加速して答えを探しているが見つからず、結果、木のようにただ立っている状態になってしまった。
思わず帰りたくなる、もしかしたら場所を間違えたのかも。
そう考えずには居られなくなる、改めて仕事探しをし直そう、思い立ったら即行動、それを実行しようとしたが、
「面接希望者の方ですか?」
「へ?」
振り向けば竹箒を持ったメイド服を着たコスプレイヤー、それを見ただけで別の世界に来たんじゃないか? と混乱し始める。
よく周りを見てみると、チラホラと草抜きをするコスプレ集団、いや、これはコスプレでは無い、
「ほ、ホンモノ……」
「はい?」
理解が追いつかなくなり結局お屋敷に入るまでずっと、油の切れたロボットの様な動きをして、ガチゴチになる翔だった。
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