親友

けものフレンズ大好き

親友

「アタシ隠してることがあるんだ」

 手洗いで手を洗っているとき、ミラが不意にそんなことを言った。

 ミラとは小さい頃からの大親友だ。いつも辛いとき、泣きたいときはミラに支えて貰っていた。そんなミラが渡しに隠しことをしてるなんて、正直ちょっとショックだった。

「へえ、そうなんだ」でも私は何気ない風を装ってそう切り返す。

 だって秘密を持ってるなんて当たり前だから。

 私にだってミラに秘密にしてることはあるし。

「あれ、なんかちょっと反応悪くない? アタシ的にはもう少し驚いても良いかなって思うんだけど」

「べ、別に秘密なんて誰でも持ってるし。私だってミラに秘密にしてることあるよ」

「ハルコが秘密? ないわー。だってすぐに顔にでるじゃん。今だって無理してるのバレバレ」

「そ、そんなことないわよ!」

 さすがの私もこれには怒った。

 そんな私を、ミラは顔を真っ赤にして笑っている。

「ごめんごめん、いやあ秘密ねえ……」

「ていうか、そう言ったのはミラの方じゃん。それで、いちいち言ったってことは、その秘密について話す気なんでしょ」

「うーん、どうしよっかなー」

「あ、その態度マジむかつくんだけど」

 こういう風に何でももったいぶって話すのがミラノ悪い癖だ。この気の長いところと、打たれ強いところは関係しているのかもしれない。

「はいはいごめんごめん。うん、それじゃあ言ったげる。実はさ――」

「実は?」


「……アタシ二重人格者かもしれないの!」


「……は?」

 アタシは思わずそう言った。

 ミラが二重人格?

 ないない、100%ありえない。

 今までずっと一緒にいたが、そんな素振り見たことただの一度もなかった。普通そういうのは、本人じゃなくて他人が気付くもの……だと思う。

「いや、マジないでしょ。ミラって365日いつものミラじゃん」

「え、それって褒めてる?」

「今は馬鹿にしてるかな」

「テメエ……」

 ミラはジト目で私を睨んだ。

 冗談と分かっていても、ミラに睨まれると少し怖い。ああ見えて、結構暴力的なところもあるから。これは早く話を元に戻した方が良さそうだ。

 どうせこっちもどうでもいい話だろうけど。

「そ、そんなことよりなんでそう思ったの? ぜんっぜん理由が分からないんだけど」

「そう、その話よ! そもそもハルコに確認して欲しいからわざわざ話したんだから!」

「確認?」

「うん。その、ハルコとアタシってまあ腐れ縁じゃん」

「本当に碌な思い出ないけどね」

「う……。と、とにかくそのハルコに確認すればアタシの思い過ごしか事実か判別出来るでしょ」

「思い過ごしだよ」

 私は断言した。

「何か言う前から言うない! とにかく話を聞いて」

「はいはい。それで具体的に何があったの?」

「うん。なんかね、自分の家に別の人が住んでるみたいなの。アタシってほらピンク系大好きじゃん」

「ピンク、というか赤っぽいよね」

「まあそこは重要じゃないからいいでしょ。だから基本それ系のモン集めてるのに、最近部屋の中に黒いものが目立つようになったのよ。すんげー趣味悪いの」

「いつもの衝動買いしたこと忘れてたんじゃないの?」

 私は正直呆れた。

 忘れっぽいのはミラの生まれ持った特徴だ。まあ私自身、人のこと言えるほどいいわけでもないけど。

「でもなあ……。あの黒いTシャツとか絶対アタシの趣味じゃないし。本当に別人が住んでるならさすがにお母さんが気付くはずだし。二人暮らしなわけだから」

「そりゃまあね」

 ミラの家はお父さんとうまくいっていない。それは私の家も同じで、そういう点でミラとはお互い通じるものがあった。

「それでさ。ハルコはアタシがそういう買い物してるの今まで見たことない?」

「無意識にしてたかどうかってことね。うーん、そうだなあ……」

 私は今までミラと一緒に買い物したときのことを思いだす。

 ミラとの買い物は暗黙のルールで、どちらか一人だけ買い物をするというものだった。二人一緒には買わない。なんでそんなことをしているかというと、二人で買い物をすると妙に張り合って、際限がなくなってしまうのだ。

「……ないね。そう言われるとちょっと怖いかも」

「だよね! それとさこれはハルコ以外の人に当てはまるんだけど、最近アタシを見る目がどうも気になるの」

「ミラって私の前だと引っ込み思案じゃん。自意識過剰なだけじゃないの?」

「ちーがーう!」

 ミラは全力で否定した。

「そりゃアタシは話し下手だしあまり積極的に表に出るタイプじゃないけど……ていうかそれ言ったらハルコだって同じじゃん」

「う、そう言われると返す言葉も無い」

「……はあ。とにかく最近アタシを見る目がおかしいのよ。なるべく他人と接しないようにしてるのに、なんかすごく胡散臭いような目で見られるの。だから逆に思い切ってめっちゃ化粧して気合い入れたんだけど、もっと変な目で見られたわ」

「ひどい……」

 私はミラに同情した。

 がんばって女の子が綺麗に見られようとおしゃれしたのに、それをそんな風に見るなんてあり得ない。友達としても同じ女としても許せない。そんな目で見た奴らは●したくなって来る。

「そういう馬鹿は無視すれば良いんだよ!」

「うん、そうなんだけどでも言われたんだ。「なんでそんな格好してるんだ、いつもは絶対にそんな格好しないのに」って。これおかしくない? アタシって普段はだいたいあんな感じだよね?」

「それは……うん」

 ミラは普段結構派手な服を着ている。

 そんなミラの姿を周囲の人間がまったく知らないというのはまあ確かに釈然としない。

「だからこれは二重人格なんじゃないかなって……」

「うーん……」

「もう病院行った方がいいのかも」

「それは絶対駄目」

 私は即答した。

 病院なんて行ったら実験動物みたいに扱われて、廃人になるに決まっている。どうせあること無いこと言われて無理矢理病院にたたき込まれて、囚人のような生活をさせられる。そんな環境で心が良くなるわけがない。

「そ、そうかな……」

「そうだよ! あんなところにいる奴らなんて異常者ばっかりだし、医者もキ●ガイの集まりだしゴミだめのような所だよ! あんな所ゴキブリやウジ虫が住むところだから!」

「ま、まあハルコがそこまで言うなら……」

「でもまあミラが本当に不安だって言うのは分かったよ。私達だけでどうにかしないとね」

「うーん、どうしたら良いんだろう?」

「・・・・・・」

 私達は腕を組んで考えた。

「……気にしない、とか?」

「いや、だからそれじゃあ何も解決しないでしょ」

「……分かった!」

 私の頭に素晴らしいアイディアが思いついた。いや、気付いたと言うべきか。

「どうしたの?」

「だったらさ、そういう訳分からないこと言う奴を黙らせれば良いじゃん!」

「黙らせる……?」

「うん。逆にそういうこと考えてる奴らが頭おかしいんだよ。そう言う奴は病院にぶち込んだ方が良いんだよ。●すのが一番手っ取り早い」

「え、でも、それはやり過ぎじゃ……」

「全然。だって前にお父さんだってそうしたじゃん! それが正解。はい決まり!」

「え、あ、ちょ……」

 ミラが言葉に詰まる。

 こう言う肝心なところでミラは押しが弱い。あの時も最終的には全部私がやった。

 まあでも仕方ないよね、親友だし。

 困ってるときはお互い様。

 そうやって今まで生きてきたんだから。

「それじゃ帰ったら準備しよ。道具は色々あるよ」

「……うん」

 最終的にミラは頷いた。

 これでいい。

 これで全部うまくいく。

 あの時みたいに。


 しばらくするとトイレに人が入ってきた。

 確か同級生の男子だったと思う。

 私はあんまり話さないのでよく分からない。

 私は彼を無視してミラとこれからの計画について話しあう。

 

 やがて彼はトイレから出て行くのだが、その際私達にこう言った。


「おい春樹、お前なんでさっきから一人でずっと鏡に向かって話してるんだ?」

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親友 けものフレンズ大好き @zvonimir1968

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