第4話付属大学

「どうかね?よどみくん。彼女の容態は」

「はい。経過良好。問題ありません」

「ふむ---」


新設された付属大学。曰く『社会のどこでも通用する人材を』をモットーに掲げたこの大学は数多くの学科が存在していた。

そのうちの一つ、医療カレッジ。敷地内にそびえるビルのような校舎には、医療分野を学ぶ生徒のための施設が揃えられている。

その地下2階。機械のように冷たい女性と、初老の男性が端七刀華を見下ろしていた。


「これなら大丈夫だろう、目が覚めればだ。ところで----」


白衣を纏った男はくるりと振り返る。白髪混じりの髪はオールバックに固められており、細い目と四角いメガネが柔和な雰囲気を醸し出している。しかし、その眼光はあまりに冷たかった。


「福田くん。君は、この責任をどう取るつもりだい?」


一言一言、噛み締めるように、部屋の隅に立つカエルのような風貌の小男、福田に語りかける。


「そ、それは!しかし!私の責任だけという訳にはならんでしょう主任!大体、こんな名前を付けたのは誰なんですか!」


早口でまくし立てる福田に、ゴミを見るような目を主任と呼ばれた男は向けていた。


「えぇ!私だって想定外でしたとも!まさか----」


「澱くん」


福田の言葉が言い終わらないうちに、主任は澱に声をかけた。その瞬間、まるでそれが合図だったかのように腰からグロック17をドロウ。躊躇なく引き金をひく。


「まっ」


額に開けた穴からとめどなく血を流し絶命した福田を一瞥しながら、つまらなさそうに呟いた。


「まるで潰れたヒキガエルだ。」

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夕暮れ時の放課後、稔侍と悠は1組でだべっていた。放課後も部活や委員会で校内には人が多い。何も無い生徒も思い思いの放課後を楽しんでいるようだ。


「なぁ、今日保健室に運ばれたヤツ、病院まで運ばれたんだと」

「えぇ?こわいねー」

「ただ、外で体育してたからわかるけど救急車とかきてねぇんだよな…」


他愛もない話をしているようでその実、錆び付いた歯車が回っているかのようなぎこちなさがあった。否が応でも思い出す、昨日の夜の出来事。まだ奴らは、自分たちのことを狙っているのではないか、と。

いよいよ日も落ちかけて来た時。突如校内放送が流れた。


『1組の矢口、3組の佐世保。至急職員室まで来るように。』


ビクッと、身体が震える。新学期間もないこのタイミングで、自分たちが呼ばれるなど昨日の件に関係しているとしか思えない。


「どうしよ………」

「いや、いくしかねぇだろ…多分、月島のことについて聞かれるか、それか-」


-それか、校内に昨日の犯人がいて、始末するために呼び出したのか。


緊張した面立ちで、稔侍は言った。


「…行こう。」


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--


「おー来たきた。いやね、お前達に提出してもらった健康診断書あるだろ?あれに不備があったもんだからさー」

「…はぁ」


稔侍の担任でもある教師はいや〜まいったといいながら頭を掻いている。稔侍と悠は大きなため息を緊張と共に吐き出した。


「えー、と、それで、書き直してこいって話っすか?それだけ?」

「あぁ、そうだ佐世保。ただ、新学期初日に集めたこれを大学の医療カレッジに送らなきゃなのが今日で、もうあっちにやっちゃったんだよね…だから、1組の矢口と2人で書き直しに行ってほしいわけよ」

「うわマジかよめんどくせー。どこ行きゃいいの?」

「えー医療カレッジの1階だね、先生がいるはずだから」

「わかりましたー。いこうぜ、悠」

「あ、うん。失礼します」


「なんだよ、焦って損したわ」

「ほんとにね…あー緊張した」


二人揃って隣接した新設の大学へ向かう。

本項者の案内図によると、裏手のそびえ立つビルのような校舎が丸々医療分野のカレッジらしい。


「1階のどこいきゃいんだろうな」

「たぶん、先生がまってるんじゃない?」


自動ドアを抜けた先、白い大理石で埋め尽くされた清潔感溢れるロビーの中央に、初老の男性が立っていた。

白髪混じりの頭髪をオールバックに撫で上げた銀縁メガネの男はこちらを見ると、にこやかに歩み寄ってくる。


「やぁ、君たちが佐世保くんと矢口くんか。わざわざすまないね、手間を取らせて」

「いえ、こちらこそ不備があったようで…」

「誰にでも間違いはあるさ。書類はここの地下2階に保管されてるから、すまないが付いて来てくれたまえ」

「あ、はい。わかりました。…?どうしたの稔侍」


なぜかだんまりを決め込んで白衣の教師を睨みつける友人に声のボリュームを落として尋ねる。


「いや…なんか嫌な感じがするだけ」


ボソッと呟き返した2人の会話などいざ知らず、白衣の教師は生徒共用のエレベーターではなく、奥の教職員用へ向かう。


「さ、のりたまえ」


エレベーターのボタンはB4まであったが、ふと悠が疑問を口にする。


「あれ、案内板に地下4階まで書いてありましたっけ」


ほんの少しの間をおいて教師が答えた。


「…まだ地下施設は建造中でね、案内板には書いてないけどとりあえずの物置にしてるんだ」


重苦しい、あるいは不気味な駆動音を立ててエレベーターが停止する。


壁も床も白い廊下にはいくつかの部屋がある。その一番奥にむかって教師は歩き出す。


「さて、中に用意してるから、書いてくれたら帰って大丈夫だよ」

「わかりました。失礼しま---」

「悠!あぶねぇ!」


悠の頭を掴んでぐっと下げる。その頭上を針の付いたワイヤーが通り抜ける。

ワイヤーを辿るとツインテールに白衣の女性が、無機質な目でこちらを見ていた。


「澱くん…キチンと当ててくれないと手間が増えるじゃないか。いや、この場合は反応した佐世保くんを褒めるべきかな?」


「申し訳ありません。主任」


澱とよぼれた白衣の女性と主任と呼ばれた白衣の教師。冷徹と冷酷の声が耳に届く頃には、全身が粟立っていた。嫌な汗と、あの頭痛が止まらない。


「やはりこいつらには甘いやり方ではダメか。澱くん、実銃の使用を許可する」

「わかりました」

「…っ!テイザーの次はグロックかよ!ちーちゃん!にげるぞ!」

「わかっ…あぶねっ」

子気味良い連射音とガツンガツンとスライドが交代する音が同時に聞こえる。

2人は一目散に部屋をでるとエレベーターに向かった。


「追います。」

「いや、いい澱くん。ここは例の実験体に向かわせる」

「よろしいのですか?アレはまだ精神的に不安定で--」

「かまわん。あいつらを殺せればなんでもいい」

主任はスマートフォンを取り出しどこかに連絡を取る。


「私だ。あぁ、ターゲットはエレベーターに向かった。遠隔操作で地下4階に向かわせろ。それと、を使う。あぁ、かまわん。では---」


「Bearを檻から出せ。熊による狩りの始まりだ」

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