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『窓! このまま開けておいてね!』

 私の年下の友達。少し前に知り合った三つ年下の男の子が、帰り際に言った言葉。

 私はその言葉に従って病室の窓を開けっぱなしにしていた。

「これ、いつになったら閉めてもいいんだろう?」

 中学二年生なのに物知りで、それなのに少し子供っぽくて、謝るのが癖になってしまっている可愛い子。中庭で転んでいた所に声を掛けたのがきっかけだ。

 窓の外ではまだ色づいていない青いイチョウの木が見える。このイチョウはとても立派で綺麗な黄色い葉を沢山つける。それに銀杏もたっぷりと落とすのだ。次に銀杏が取れるときは彼と一緒に拾うことにしよう。きっと驚くに違いないから。

「ふふっ」

 彼が目を丸くして驚く姿を想像する。あぁ、今から楽しみだ。

その時、ふわっ、とカーテンが揺れた。うっすらと汗の滲んだ身体に心地よい涼しさだ。

私は導かれるようにして窓際に立った。窓の外はオレンジと紫のグラデーション。一番星が煌めき、夜の訪れがもうすぐそこまで迫っている。

「わ!」

 すると突然目の前に影が過ぎった。私は咄嗟にそれに手を伸ばす。驚きで胸がドクンドクンと跳ねている。手にしていたのは一つの紙飛行機だった。

「かみ、ひこうき?」

 一体どこから・・・。

 そう思って飛ばし主を探す様に下を見ると、ブンブンと手を振っている人影が見えた。彼だ。

 満面の笑みでこちらに手を振っている。私は微笑ましくて少し控えめに手を振り返した。

「ごめんね! 遅くなっちゃったー!」

 両手を顔の前で合わせてごめんねとポーズする彼。

「大丈夫だよー! ありがとう!」

「・・・それじゃあまた明日ねー! おねーさーん!」

 彼は安心したようにニッコリと笑ってもう一度手を振って帰って行った。

 なんて可愛らしい子なのだろう。中学二年生ってこんなに子供っぽかったかな。それとも彼だけ?

 どちらにせよ私の知っている中学二年生の男の子は彼だけなので別に問題はないのだけれど。

 彼が見えなくなったことを確認してから窓を閉める。それから胸に抱いていた紙飛行機を開いた。

 父は仕事で、母はまだ来ていない。それでも誰が傍に居るわけでもないのに、その紙飛行機をそっと私にだけ見えるように開く。中からは男の子とは思えない、とても綺麗な字が綴られていた。

「ふふっ」

 ラブレターでもない、ただ感謝を記した手紙。

『ありがとう』

 丁寧に書かれたその言葉だけで私の胸はホッと温まった。

 充実している、と最近は凄く感じる。毎日毎日が楽しくて面白くて、彼と友達になってから私の世界はさらに笑顔の溢れる世界になった。私も彼も、そしてそんな私たちを見ている母も看護師の人も。きっと神様だって微笑みながら見守っていてくれるに違いない。

 けど、だからこそ、思ってしまう。もっとこの世界が続いてほしい。私が笑顔でいられるこの世界を。

 

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