―4月25日2005年

 雨は小康状態を見せ、走ればなんとか帰る事が出来るほどの降りになってきた。

 それでも二人は雨避けから出ようとしなかった。

 ゆずは瞳を閉じて深く息を吸い、一気に吐きだした。

 心の中で掛け声を一つし、目を開いた。

 もう、茶番は終わりだ。

「なんで、お父さんを殺したんですか?」

 ゆずははっきりとそう言った。そして誠一を見る。彼は表情一つ変えずに空を眺めていた。

「先程言ったとおりだ。運が悪かったんだ」

 誠一のその言葉が終わる前に、ゆずは素早く左手をポケットから振り上げた。その手には自動拳銃が握られている。

 ゆずは拳銃を誠一のこめかみに向けて、撃鉄を起こした。カチリ、と乾いた音が辺りに響いた。

 そのまま、しばらく時が止まったように沈黙が続いた。ゆずは冷めた目で誠一を見ている。それに対して誠一は相変わらず無表情で空を眺めていた。未だに、拳銃は彼のこめかみに向いているにも関わらず。

 ゆずは引き金に指を添えた。

「あたしは、本当のことが知りたいんです。教えてもらえませんか? なんで父が殺されたのか」

 ゆっくりと、引き金の指に力を込める。

「君は、お父さんの事をどう思っている?」

 不意に誠一にそう言われ、ゆずは眉をよせた。

「あたしの質問に、答えてください」

「いいから。君は、お父さんの事をどう思っているんだ?」

「……大っ嫌いよ。あんな人。向こうもあたしのこと嫌いだったみたいだし、これもソウシソウアイっていうのかな?」

 ゆずはそう言って乾いた笑いを挙げた。

「……哀しいな。君のお父さんは、君の事を愛していたぞ?」

「ウソ! そんなわけない。あたしにはそうは見えなかった」

「私にはそう見えたが。君の幸せを誰よりも願っていた」

「じゃあ、なんであたしは独りだったの? あたしは、なんでサミシイ思いをしなきゃならなかったの?」

「言った通りだ。運が悪かったんだよ」

 誠一はそう言って、ゆっくりと瞳を閉じた。依然、ゆずの拳銃は彼に向けられているにもかかわらず。

 再び沈黙が流れた。二人は微動だにしなかった。まるでそこだけ時が止まったように、ゆっくりと時が流れた。辺りに雨音が、哀しいくらい響いていた。

 やがて誠一は瞳を開ける。空を眺め、小さく呟いた。

「可哀相に」

「可哀相?」

 その言葉にゆずは目を見開いた。瞳孔が開く。

 あまりの感情の振れに、前頭葉が鈍く痛んだ。顔を歪め、それでも彼女は誠一を睨み。

 やがて引き金を引いた。

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