第5話 『この魔王、残念につき』

 (使い古されたキャラだなオイ……)


 ユウイチが心の中で、コフィンと名乗った少女に対する率直な意見を述べる。

 元の世界ではクソオタニートだったユウイチは、数多のラノベを読み尽くしていた。

 ……これ系統のキャラは、腐るほど見てきたのだ。


 「クックック……そこの筋肉魔人!! 貴様が我を呼び寄せた命知らずの人間か?」


 「ぬ、ぬぅ。そうだッッッ………って何ィィィ!? 貴様、俺が恐くないのかッッッ!?」


 明らかに人間サイドが吐かないセリフを吐きながら、真千代が驚きの声をあげる。


 「フフフ、我が恐れるだと?たわけが!! 貴様程度の怪物、我が生まれ故郷に跋扈する魑魅魍魎共に比べればなんら対したことは無いわ!!」


 「ぉぉ……なんと……なんという……」


 真千代が漢涙をダバダバ流す。意外と涙もろい漢である。

 真千代はガシッ、と強くコフィンの手を握り、


 「ありがとうッッッ!!! 俺を恐れなかった奴はお前が初めてだッッッ!!! 感謝……圧倒的感謝……!!!」


「あ、お、おう……どうも……」


 圧倒的な筋肉に戸惑いながら、コフィンも手を握り返す。


 「ユウイチ!! この娘、魔王だッッッ!!俺を恐れぬなど魔王以外ありえんッッッ!!!」


 「ああそうだ!! そこについてツッコむの忘れてた!!」


 ツッコミ所が多すぎて完全に失念していたが、この少女、先程『魔王』と名乗った。

 肝心なツッコミ所を忘れてしまった事に、半ばツッコミ役が定着してきたユウイチが気を落とす。

 しかしすぐに気を取り直し、


 「ね、ねぇキミ、さっき魔王って言ってたけど……」


 「フッ、それがどうした弱細」


 「イラっ……この世界の魔王の名前は『アルバー』なんだけど、それについては……」


 アルバー。

 この世界でその名は、すでに一般大衆に魔王の名として知られている。数年前、ユウイチがクロウリアに来る前に、世界に向けて侵略宣告をしたらしい。

 よって、この世界の人間なら、魔王と聞けば誰もが『魔王アルバー』を思い浮かべるのだ。


 「フッフッフ、そんなことは知っておる、しかし我はこのような低い次元の魔王ではない故な」


 「えっ……?」


 「-そう、この世界の人間、なら。


 「『ネクロレイブ』……我はその世界で魔王をしておったのだ。 ……憎き勇者に殺され、この世界に堕ちてしまっただけだ」


 「なっ、それって……!」


 この娘も、転生者。

 信じられない、まだいたなんて。というか今まで会ったことが無いのに今日だけで2人も出会うなんて。

 レアカードが一回出てしまえば、何枚も不必要にでるあの現象みたいな感覚を、ユウイチは体験していた。


 「おおおおおおおお!!! つまりお前は別世界の魔王ということかッッッッッッ!!!!」


 「ハッハッハッハ!!! そういうことだ人間よ!! さぁ震えろー!震えるがいいー!」


 「承知したッッッッッッ!!!! ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 「ちょっ! 真千代やめろ、やめろぉぉぉぉぉ!!!!!」


 ケータイのバイブ音の如く、真千代の体が震えだした。

 それと同時に、ギルドがグラグラ、グラグラと大きく揺れる。多分震度4、5そこらぐらいだ。


 「気にいった!! 気にいったぞコフィンッッッッッッ!!! 早速だがクエストがクリア出来んのだ!! 協力してくれ!!」


 「フハハ任せろ!! この魔王の力見せてくれるわー!!」


 真千代とコフィンが並んで走っていく。

 これから先のことに頭を痛ませながら、ユウイチもそれについて行った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 場所は変わって再びアンファンス周辺の草原。

 その中央には、武器である杖を右手に構えたコフィンが仁王立ちしている。


 「クックック、なるほどここが標的の出る草原か……」


 「うむッッッ!!! どうやら俺にはとても無理な敵らしいッッッ!!!」


 「ある意味でな……」


 しかし、ユウイチはコフィンでも心配であった。

 コフィンは別の世界で魔王をやっていたと言っていた。勇者に倒されたとはいえ、相当の力を持っているであろうことは確かだ。


 (こいつも消滅させられるレベルだったらもう諦めて魔王討伐に向かわせようかな……)


 ユウイチの気怠さゲージは既に限界を超え、遥か天空を突き抜けていた。

 と、その時--


 「……! 来たぞ!!」


 草原の向こうから、無数の動物の大群が走ってきた。

 クラッシュバッファローだ。


 「ぬぅッッッ……俺では攻略できん牛……忌々しいッッッッッッ」


 「向こうさんの方がお前に恨みマシマシだろうがな」


 ユウイチには、心なしかクラッシュバッファロー達の動きがいつもより機敏に見えた。

 同族が消滅させられたから、当然怒ってるのであろう。


 「コフィン!! くるぞッッッッッッ!!!」


 「まぁ案ずるな、すぐ終わらせる……」


 そう言ってコフィンが、杖を前に構える。--すると、


 「……っ!?」


 ゴウッ、と、コフィンから超濃密な魔力が溢れ出す。

 これにはユウイチも戦慄した。


 (こ、こんな強大な魔力は……初めてだ……ッ!!)


最高ランクであるS+の魔力値を誇るユウイチでさえ、足元にも及ばないほどの魔力量。間違いなくSSS級だ。



 「煉獄にて並び立つもの無き無双の炎龍よ--汝の息吹を我が手に宿せ--紅々こうごうと燃ゆる灼燗の炎よ--天に座する我に歯向いし愚鈍なる下郎共を----抗えぬ苦痛を以て焼き尽くせ--!!」


 魔力の渦が、コフィンの周りで激しく渦巻く。

 コフィンの詠唱に応え、その魔力が杖に編み込まれてゆく。


 「これはまさか……! 神々にしか使えないと言われる無限大灼熱魔法エドン・モザエガルか……!?」


 「ぬぉッッッ!? なんだその威圧溢れる名前はッッッ!!!」


 通常、炎系統の魔法は『灼熱魔法モザル』、『大灼熱魔法モザエル』、『最大灼熱魔法モザエガル』の3種類だけだ。

 しかし、S+の適正を持つユウイチでさえ使えない、伝説級魔法という部類が存在する。


 「食らうがいい!! これが魔王の一撃! 遍く全てを蹂躙する、絶対的な力--!」


 「この目で、伝説の大魔法を見られる--!

 ユウイチと真千代は心躍らせ、瞬き一つせずにコフィンを見て--




 「灼熱魔法モザル!!」




 --激しくガッカリした。

 コフィンの放った下級炎魔法は、クラッシュバッファロー1匹を焼き尽くしはしたものの、後ろの無数に控えているクラッシュバッファローには当然届いていない。



 「おいコフィンッッッッッッ!!! なんでもっと範囲の広い魔法を使わなかったッッッ!!!」


 「……これが限界なのだ」


 「「えっ」」


 コフィンは目を瞑って、フッと笑いながら--


 「私は魔力量こそ高いが、知能がその、あまりよろしくないのでな……文句あるか?時代を担うものには欠点が付き物なのだ、ハハ」


 悪びれもせず、腕を組んで笑っている。


 「つまりコフィンはアホなのかッッッ」


 「お前だけは言っちゃいけないと思うな俺は」


 と、そんなやり取りをしている間に……



 「ブルルルル…………」


 「ブルルル……」


 「コフィンの周りを、大量のクラッシュバッファローが囲っていた。


 「おい! もう低級でいいから連発しろよ!」


 「煉獄にて--」


 「それもういいだろ!! それなくても使えるだろぉぉぉ!!!」


 「しかしこっちのがカッコいいじゃないか!」


 「格好良さ求めてねぇよぉぉぉぉぉ!!!!!」


 最初のほうは頑張って爽やかを装っていたユウイチも、徐々にメッキが剥がれて来た。

 あまりのツッコミ疲れに、そんな余裕はすっかり無くなっていた。


 「ちょっ…あぁっ!! 痛いっ!角でつくな牛どもっ! ちょ、いた、あの、やめ……た、助けろぉぉぉぉ」


 案の定、コフィンはクラッシュバッファローの大群に呑み込まれてしまった。

 なんていうかもう、アホである。


 「今助けるぞコフィンッッッ!!! 羅ッッッッッッッッッ!!!」


 パパパパパパン、と牛の大群が弾け飛んだ。

 貴重な報酬元はまたも虚しく消滅してしまう羽目になった。


 「うっ、ぐす……あ、ありがとう、ございます……」


 コフィンの服はボロボロになり、あと少しで見えちゃいけない所も見えかけるほどになっていた。


 「キミ……よくこれで魔王務まったね……ホントに魔王だったの?」


 「ホントも何も……私達の故郷ではそれが普通なのだ」


 「……えっ?普通?」


 普通、という単語が気にかかり、ユウイチがオウム返しをする。

 魔王が普通とは、どういうことだろうか。


 「……わ、私のいた世界『ネクロレイブ』は人口2000万人中、半分が魔王で半分が勇者……勇者と魔王しか、いない世界だったのだ…」


 「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 何その偏った世界ィィィィィィ!?」


 バーゲンセールも真っ青だ。

 1年中「フハハハハハハハハ!!!」の声で埋め尽くされている世界なんて、地獄もいいところである。


 「その中でも私は最弱……クレイドル……勇者に惨敗し見事に死んでこの世界に転生……フフフ、お前らハズレくじを引いたな……」


 「コフィンッッッ」


 コフィンの痛ましい自虐を聞いた後に、真千代が膝をついて目線を合わせる。

 そして--


 「案ずるなッッッ、たとえハズレくじでどうしようもない弱細でノーマッスルでも、この俺さえ居ればなんとかなるッッッ」


 正に鬼畜である。

 --この後、更に落ち込んだコフィンがその場から1時間動かなくなったのは別の話。

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極・異常な高校生の筋肉無双烈伝 喪服.com @mohukudottocom

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