第4話 『ユウイチ過労死不可避』
「金を連れて来たぞぉぉぉぉぉ!!!」
「言い方最低かよ!」
真千代は金を持っていなかったため、ユウイチたちと共に再びギルドに冒険者登録に来ていた。
「で、ではこちらで手続きをしますのでどうぞ……」
受付の金髪ハーフエルフの女性が、若干目を逸らし、戸惑いながら案内する。
真千代の圧倒的筋肉の威圧に圧倒されているのか、真千代と頑なに目を合わそうとしない。
「手続きか……一体何をするのだッッッ」
「えーと、まずはそこにある水晶に触れて魔法適正の検査をするんだ」
ユウイチがそう言って指を指した方向には、六面体の水晶が浮いていた。
「ほう成る程、よし、では俺の魔法を示せッッッ!!」
気合の入った声で、真千代が水晶に触れる。
この水晶は触れた者の使える魔法の属性に合わせて、6種類に色を変えるのだ。
「火」属性なら赤。「水」属性なら青。「風」属性なら緑。「土」属性なら茶色。「光」属性なら白。「闇」属性なら黒、といった具合だ。
と言っても、闇属性は基本魔族特有のものなので人間での前例は無いらしいが。
さらに、輝きの強さによって、魔力の強さがE〜SSSまでわかる。
ちなみにユウイチの適正は火と水と風、魔力はS+だ。
聞くところによると、世界でも十数人しかいないらしい。
(真千代は………闇かな)
ユウイチが失礼な事を考える。
たとえ本人から人間だと言われても、目の前のモンスターよりモンスターな漢を人間と信じられないのであった。
「ふむ、どれどれどれどれ………ぬッッッ!!!」
「どうだった?」
「白く光ったぞッッッ」
「えぇぇっ!? 光ィィィ!?」
ユウイチが驚きの声を上げる。
「光」の魔法は、回復系統や味方の能力を上げたりなどの、バフ特化の魔法属性である。
真千代のような「筋肉で薙ぎ殺す」ような漢には、似合わないにもほどがあった。
「ま、まさか光だなんて……」
しかし、この光り方は微妙である。……どうやら魔力はEランクらしい。
「どういった魔法が使えるのだッッッ」
「う〜ん……魔力がほとんど無いから、精々目眩しぐらいかなぁ……」
「なん……だと…………」
いたくショックを受けている。
光魔法の中でも、目眩しの魔法、
しかも、至近距離で発動しないと使い物にならないため、光の魔法使いでも覚えている者はあまりいない。……「羅ッッッッッッ!!!」で全部なんとかなりそうなので、問題は無いとは思うが。
「それで次はッッッ!!」
「あ、はい、こちらで書類を書いて終わりです」
「承諾ッッッッッッ」
そう言って真千代がペンを紙に走らせる。
--意外と達筆だった。
「登録完了ォォォォォ!!!!! さて、魔王を潰しに……」
「早い! 気が早いぞ真千代!! まずはクエストを受けて金を貯めるんだ!!」
「くえすとってなんだぁ?」
「ギルドから出されるモンスター討伐や素材採取の依頼をこなすことよ」
「依頼をこなせば礼金を貰えるのですわ」
アイシャとエリザヴェータが代わりに説明した。
ユウイチの体力は既に尽き気味だったので、大変助かった。
「金など貯めても仕方無かろう」
「いい装備を整えないと、魔王討伐なんて夢のまた夢ですわよ!」
「ぬぅぅ……遠回りは苦手なのだが仕方があるまいな……ユウイチ、案内してくれ」
「勘弁してくれよ……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
アンファンス周辺の巨大な草原。
そこには、巨大なツノを生やした真紅の牛が無数に居た。
『クラッシュバッファロー』である。
真千代達は、このクラッシュバッファローの討伐のために草原に来ていた。
クラッシュバッファローは、人を見かけては突進し、数多くの被害を出している害獣だ。
しかし、その身の肉は大変に美味であり、高値で取引されている。
退治かつ採取もできる、高効率のクエストであるため、ユウイチはこれを真千代に薦めたのだ。
「真千代、ここにいる奴らを全員倒せばクエストクリアだ」
「了解したッッッ、ユウイチ、歯を食いしばれッッッ!!!」
「違う違う!! 俺は対象外だ!! そこらにいる牛達のことだよ!!」
「ぬ……? なるほど、それならそうと早く言えッッッ!!!」
全くもって理不尽である。
「「「「 「ブルォォォォォォォ!!!!!」」」」」
「ほらっ! 突進してき……」
「羅ァッッッッッッ!!!」
パパパパパパン。
草原の牛が、一匹残らず消滅した。
「おお……あれならすぐにクエストクリア出来るな」
「ね、ねぇユウイチ……」
「ん?どうしたんだいアイシャ?」
「消滅させちゃったら買い取って貰えないんじゃ……」
「ストォォォォップ!!!! 止まれ真千代ォォォォォォォォォォ!!!」
……そうだった、身の肉を残すように注意していなかった。
ユウイチは己の注意不足を嘆き、真千代に諭した。
「ま、真千代、身の肉を残すように手加減して……」
「あれが俺に出来る最大限の手加減だッッッ」
「えぇ………」
ドン引きである。
もうホントにいっそ魔王を倒しに行った方がいいのではないか。
「……一回アンファンスに戻って、適当な仲間を募集しに行こう……」
「仲間だとぉ!? 俺1人で充分だッッッ」
「充分が過ぎるから探しに行くんだよォォォォォ!!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
冒険者ギルドの、旅の仲間募集コーナー。真千代達はここに、適度な強さを持つ仲間を探すため、再びやって来た。
「達」と言っても、アイシャとエリザヴェータは、「疲れた」と言って先に宿へ行ってしまったので、来ているのはユウイチと真千代だけだ。
--しかし、
「おい真千代」
「なんだ」
「なんだはこっちだよ、なんだあの募集貼り紙」
そう言ってユウイチが指指した、真千代の書いた仲間募集の紙には……
『俺より強い奴を募集中ッッッ!!! 我と共に来いッッッ!!! むしろ魔王が来いッッッ!!!』
「完全にイかれてる人だろアレは!!! お前より弱い奴じゃないと駄目だっつってんだろ!! あとなんだよむしろ魔王が来いって!!!」
「この世界で最強の魔王とやらが味方につけば倒せんやつなど居らんだろうッッッ!!!」
「魔王倒すのに魔王募集してどうすんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
「盲点ッッッ!!!」
そろそろ喉が枯れてもおかしく無いぐらいの力で、ユウイチは力いっぱい叫んだ。
アホだアホだとは思っていたが、ここまでとは予想していなかった。
「ハァ……ハァ……これでホントに来たらそいつも相当のクルクルパーだよ全く……」
脱力しきったユウイチが机に突っ伏す…………
「望み通り来てやったぞ……!」
「!?」
「ぬぉっ!?」
ユウイチと真千代が、驚いてそのクルクルパーの方を振り向く。
--そこにいたのは、1人の少女だった。
身長からして、年齢は14〜16程だろう。光に反射して煌めく紫色の長髪に、大きくつぶらな赤と青のオッドアイ。
これ以上無いほどの、絶世の美少女だった………背中に纏う漆黒のマントと、両頭から生える巨大なツノが無ければ。
「え、あ、あの……キミは……」
「名を聞いているのか人間……良いだろう心して耳にせよ……!!」
そう言うと少女は、大仰にマントを翻し--、
「我は、『魔王』コフィン・デア・ブロス!!天壤万物を統べる、全生命の頂なり!! 我が力を求めたるは、貴様りゃ……」
かんだ。可愛い。
ユウイチは久々に萌えを覚えた。
カァッと、少女--コフィンとやらの顔が赤くなり、その場にうずくまる。
「おいッッッ、小娘どうし……」
「やめろ!!聞かなかったことにしろ記憶から消せやり直させろ…… 」
「お、おうッッッ………」
--十数秒後、立ち上がったかと思うと、再びマントを翻し--
「我は、『魔王』コフィン・デア・ブロス!!天壤万物を統べる、全生命の頂なり!! 我が力を求めたるは貴様らか、人間……!」
何事も無かったかのように、言い直した。
--確実に残念なタイプの奴だ。
日に二回も訪れる不幸に、ユウイチは頭を抱えた。
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