ゲキド街の日常
調教した冒険者と、そうでない新入りの撃退と捕獲により、ダンジョン・ポイントはドンドン増えた。
しかし、新しいフロアの解放とはならず、地続きの拡張された部屋しか増えない。
ただし、部屋を上下にも拡張出来るようにはなった。
あとはジェル・フェアリーやブック・フェアリー、スライム達で、今までの如く文字通り埋め尽くせばいい。
地下室も床を作れば、その床下に作れる。使い道がなくとも、ジェル・フェアリー達が記憶しておけば、落とし穴やクレーター、爆発痕とかに転用可能となるわ。
家とかのディテールは大雑把だけど、車の動作は凝っている。車のタコメーターとか、ハンドルの中身とかは詳しくは知らないけど、スライム達が擬態したタイヤごと動いたり、スライム達が擬態している地面が動く事で、あたかも走行しているように見えるわ。ホイールも回転させたり、排ガスを出したり、ブレーキ痕を道路に刻んだりするし。
つまり、エンジンは始動してなくて、ただ震えているだけ。タイヤも回転してはおらず、車体ごと地面の上を滑っているようなもの。常時ドリフトしてる感じが一番近いかな。
車内の窓やミラーに幻影を投影し、走っている、または、自分の運転で走らせているという錯覚に陥らせる。
冒険者や外のモンスターとかの、視覚等の五感を騙す事で、非現実的とも言えるほのぼのな日常を、肌で体感してもらっているのよ。
街のどこでも構わないけど、蛇口をひねれば水が出る。でも、実際にはリキッド・スライムが出てくるだけで、上下水道を含めたライフラインなんて無い。そんな施設や設備、当ダンジョンには置いてません。
でも、電気は通っているからか照明はつく。なんて事はない、光魔法の応用で、エフェクト効果と音により、照明がついているように見えるだけよ。
昼の太陽、夜の月明かり、星空、地下の暗闇、全てがエフェクト効果である。
ついでに言うと、銃は火薬を使っていないから、超強力な水鉄砲か、空気銃という認識が正しい。
深海並みの水圧で撃ち出される、ソリッド・スライムやリキッド・スライムは、本来ならば鉄板すらぶち抜くものの、何かに当たる直前に威力を弱めるよう命じてある。
対して、被弾する家屋や電化製品に擬態しているジェル・フェアリー達には、銃弾が当たった時には貫通したように壊れたりと、武器に応じて細かく破壊パターンを変えるように命じている。
射撃音や作動時のメタル・ノイズは、音声ユニット達が開発した音や声による音響魔法。マズル・フラッシュや爆発時の爆光は、光魔法の応用。硝煙はガス・スライムの演出。バック・ブラストは弱めた風魔法と柔らかいソリッド・スライムの感触。反動は銃に擬態している、ジェル・フェアリーが動く事で起こしているの。
冒険者達が持ち込んだ剣とかは、ソリッド・スライムやガス・スライムが張り付き、被膜となる事で威力を激減させる。また、降り下ろされる軌道上に、付近のジェル・フェアリー達が、弱い結界を幾重にも張る事で、ケガの重傷を抑えたり、見えなくしたポーション・スライムが即座に癒やす事で、ほぼ無傷で済ませてしまう。
どうしても誤魔化しが、間に合わない場合は気絶させて、本人が知らない間に治す。なんて事もある。
だが稀に、幾重にも張ってある認識阻害システムを、見破ってしまう冒険者がいる。
そんな奴には記憶消去(物理)と認識妨害魔法(飲酒)を掛け、全てを夢幻として忘れさせ、ダンジョンの外へと追放させておく。
まぁ、その前に例え認識阻害システムを見破ったとしても、誓約書には騒がないよう書いてあるんだけどね?
詐欺だなんだと騒ぎ立てる奴は、こちらが動くよりも、守護者である音声ユニット達から袋にされる方が早い。
そうそう、最近は細かい命令をしなくても、モンスター達が私の意志を把握して、勝手に意を汲んで動いてくれるの。
ちょっと前までは、携帯電話の番号に合わせて、特定の命令をモンスター達へ一斉に伝達させる事もやっていたけど……。
電話を掛けるフリして、あらかじめ仕掛けておいた爆弾を、遠隔操作で起爆させるとか、なんかカッコいいじゃん?
爆発物の爆破もできるけど、ブック・フェアリーの壁を崩し、本の雪崩に冒険者を巻き込ませる事の方が、最近は多かったりする。
ただし、電波や通信とか関係無く、念話で命令を飛ばす程度のもの。冒険者の位置情報を把握している訳でもないので、気紛れのイタズラは失敗する事の方が多い。でも、ブック・フェアリーが自分達で動くので、勝手に壁は直るわ。
司書室と自室は分けているけど、部屋全てがマスター・ルームに認識されるから、毎回減点されちゃうのよね。
司書室は本の貸し出しや注文を主に行う。本は自分で棚へと帰って行くから、整理整頓は基本的にあまりしない。
マスター・ルームでもある自室は、玉座の間っぽくしている。
豪華な椅子に見せ掛けた、マッサージ・チェアで身体を揉みほぐしつつ、リクライニング・モードでシートを倒し、そのまま寝るのがデフォルト。寝てる間に服に擬態しているジェル・フェアリー達が身体を清潔にしてくれるし、口の中も全自動で磨いてくれるのよ。
さらには服自体もついでに洗濯されるから、同じ物を何日着ていても臭わない。
ただ、自室にばかり居るとジェム・マギカによって、仕事場へと連れ出される。
「キョウコ、ポテチ買ってきて。お釣りで駄菓子買っていいから」
「わかった。塩味でいいんだよな?」
「えぇ、シンプルなのが一番いいわ」
休憩時間となったので、キョウコにお使いを頼む。食べ物関係では、お釣りを渡さないと、帰りがけにゆっくりを捕まえて食べてくるの。
ゆっくり達は中身が餡なので、ホイホイ捕まってしまうんだとか。で、キョウコ以外にもたこルカやたぬルカの餌食となっているらしい。
しかし、やられっぱなしの饅頭達ではなく、たこルカに逆襲したり、街にやって来た冒険者に、あることないこと吹き込んだりしているんだって。
商店街では野菜や肉の他に、弾薬と銃も売っているし、ロードローラーとかの重機もある。戦車が通路を走っているのは当たり前、機動戦士に乗ってやって来る奴もいる。
近くには学校もあり、職員は古今東西のヘリコプターや戦闘機に乗って、まるで車感覚で停ていたり、生徒の中にはミサイルに掴まって、登下校するような猛者だっている。
ちょっと離れた場所にはコンサート会場があり、機動戦士や音声ユニットの誰かがいつも踊っているわ。
自動車と戦車、機動戦士が道路にきちんと並んで、渋滞の列を乱さずに、信号待ちしているのはちょっとシュールよ。
よく街中では音楽が流れているけど、場所によってBGMが切り替わる事もあれば、特定の音声ユニットが暴れたりした、影響や雰囲気で激変したりもする。
冒険者にとっては、戦車とかもそうだが、聞き慣れない音楽もストレスの原因らしい。
故に音楽から逃れるべく、外の世界へと帰って行くのだ。
蚊一匹を始末するのに銃を持ち出す事もあれば、ヘリによる絨毯爆撃で、家もろとも吹き飛ばしたりと無茶をする。
追いかけっこでは何処からか取り出したしゃもじを投擲したり、ビール券やお米の割引券で段幕を張ったりもする。
勿論、付近のジェル・フェアリー達が、音声ユニットに協力しているんだけどね。
ゲキド街では、ぷちシリーズと呼ばれる音声ユニットを泣かせると、守護者全員が鉄槌を下しに来る。
私でさえ、ぷちの誰かを泣かせたら、とても悲惨な目に会う。
この街の頂点にいるのは、私ではなく、ぷちシリーズ。とりわけ、ツインテールの幼女がメイコ達のお気に入り。
おっと、外が騒がしいわね。室内の音楽も変わって、外の音楽と同じになったか。
「今回は何?」
「胸囲の格差社会を是正する。と言って、巨乳のコンサートへ貧乳が駆る機動戦士が、カチコミ入れたっぽい」
「あらあら、無い物ねだり?」
「マミ、発言には気をつけて。持たざる者の恨みは重いわよ?」
「野郎オブクラッシャー!」
「ご、ごめんなさい。ホムラさん、マドカさんを宥めて!」
「マドカ、ちょっと来て」
「え、ホムラちゃん何で、盾を装備してるの?」
図書館の奥じゃなくて、トイレに行ってね。
「大変だ! ゆっくりにポッキー取られちまった!」
「手元じゃなくて、箱の方?」
「おうさ! あの腐れ饅頭どもめ!」
「……こらこら、ナチュラルにサヤカを引き抜いて、ゆっくり狩りに行こうとすんな。しょうがないわね、スーパーのお菓子を棚買いして来なさい」
「マジかマスター? 太っ腹!」
「ゆっくりを狩り尽くされると、色々と苦情が来るんだよ。サヤカ置いて、一人で行ってこい」
「棚買い、一度やってみたかったんだよな!」
「うへぇ、テンション高ぇな。キョウコの奴……」
食いしん坊さんの、食べ物の恨みは怖いからね。
「……終わったわ」
「そうか、なら被っているパンツをしまえ」
頭じゃなくて、顔に装着してやがる。
マドカは……一応生きてるか。そっとしておけば、おい、ホムラ。死体蹴りみたいな追い打ちはらめぇ!
「しゅごいよぉ、ホムラちゃんっ」
「はい、そこまで。二人とも、落ち着いてね?」
マミがリボンで二人を拘束した。これで一安心ね。
「仕事に戻ろう。サヤカ、納品書のチェックは?」
「巡音流通のは終わったよ」
しばらくして気がついたんだけど、音楽が元に戻っていた。と言う事は、バカ騒ぎが終わったみたい。
今日もゲキド街の日常はほのぼのしていたわね。
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