ゲキド・オブ・地下室
今日はアイス野郎が所持する、研究所へと殴り込み。
お供は蛇、たこルカ、鏡音姉弟。
ジェム・マギカは司書室で通常業務だ。
アイス野郎は研究費を街から騙し取っていたの。だから、ゲキド街の自治体命令で、私が鉄砲玉として赴いている。
なんで私が巻き込まれてるんだろうね? 一応、ダンジョン・マスターなんだけど? そこそこ忙しいんですよ?
なんて愚痴は、自治体には通用しない。
しかも、親衛隊は出動不可ときてる。私のファンが勝手に立ち上げた組織だけど、ダンジョン関係以外での運用は認められていないの。
理由は簡単で、ゲキド街の守護者が私のサポートに入るから。雑魚による数の暴力は邪魔らしいのよ。
ゲキド街の守護者は、メイコとアイス野郎の他にも、蛇、たこルカ等が居る。
今回の騒ぎは、アイス野郎を締め上げるのが目的。
蛇は道路脇の歩道にて、段ボール・ハウスを築き、キノコ栽培しつつ、傭兵をしている。
カチコミや防衛戦によく参加しているので、自治体からの恩給がたんまりあるはずなので、もっといい暮らしとか出来ると思うんだけどね。
たこルカは万能キャラ、戦車を持ち上げたり、ビルを揺らしたり、上空を飛んだり、色々出来る。
巡音流通のマスコットで、バリエーションも多い。巡音に変身したりもする。
鏡音姉弟は主に操縦士をやってる。たまに、荷台に積んでいるガトリングガンや、ブラウニングM2マシンガンを撃ちまくって、こちらの援護を手伝ってくれるわ。
更には、脱出する時にも駆けつけてくれるから、本当に助かってる。
ゲキド街でよくあることは、自治体絡みが多い。参加者全員に恩給が支払われ、勝ち組にはボーナスも出る。
モブキャラとして歩いていても、日常に巻き込まれたなら、サラリーマンや女子高生にも、ゲキド街で使える通貨や紙幣が、自治体より支払われるのよ。
アイス野郎の研究所はビルの地下にある。
玄関口を戦車やデフォ子が警備しており、侵入は容易ではない。
「鏡音はロードローラーで突撃! たこルカは戦車ひっくり返して、蛇はデフォ子を押さえて!」
「了解だ」
「よーし、いっくよー!」
私の姿を確認すると、デフォ子が撃って来るので、本の角で叩き弾く。
蛇のアサルト・ライフルが火を吹き、デフォ子の足元や戦車の装甲に当たる。
デフォ子が危険を察して戦車の後方へと下がると、戦車二輌が同軸銃やハッチにマウントされている機関銃を撃ってきた。
ロードローラーの前部に被弾するも、鏡音姉は怯まない。
そこへ、たこルカが宙に浮いて、戦車の側面から回り込む。でもって巨大化すると、髪の毛っぽい触腕で戦車を持ち上げ、二輌とも横倒しにしてしまう。
デフォ子の反撃を蛇が中断させ、その隙に玄関口へと車体を突っ込ませる。
黒服達が待ち構えていたので、鏡音弟がガトリングガンを乱射して牽制。
が、手榴弾を投げ込んで来やがった。
一個をすかさず弾き返すも、二個目は時間差的に無理なので、さっさと退避するべく車体から降りる。
「RPGは?」
「車の中に置いてきた」
仕方ないので、ロードローラーの車体を楯にしつつ、ロードローラーを持ち上げて室伏スイング。回転しながら進むので、ビル内の壁やドアもろとも黒服達を突き飛ばしていく。
「目が、目がー!」
「回るんだよね?」
「もちつけ、もちつけ」
ヤッベ、エレベーターは大丈夫かな?
「……上下するだけで、壁もドアも無いだと?」
天井を支える支柱と床のみの簡素なエレベーター。あの野郎、エレベーターもケチってやがったのか。
「ほい、回転式拳銃」
「自動拳銃は?」
「マスターのフレンドリー・ファイアでイカれた」
おおう、マジかよ。
「手榴弾取ってきたよー」
「はいはい、退路確保よろしく」
エレベーターに乗るの、マスターの私のみか。
これ、絶対左右か前後を、黒服達から撃たれるだろ。
……やっぱりか! 左右で待ち伏せとかふざけんな!
被弾しないように回避しつつ、近そうな黒服を手始めに撃つ。
弾切れしたら、スピード・ローダーでリロード。
リロード中も身を捻って銃弾を避ける。
床が薄く、階層の間隔も短めなので、階下が見えたら隙間より、黒服を狙い撃つ。
ビル自体の設計もケチってたのか。
確か、野郎の部屋にはセキュリティが掛かっていたはず。また、何処かにカードキーがあると思う。
……カードキー探すの面倒ね。殴ってこじ開けるか。
エレベーターを乗り換えようと、ある階層で降りるも、次のエレベーターが上がって来て、デフォ子登場。
先回りとはちょこざいな!
対物ライフルをぶっぱなすデフォ子。角で叩き弾くも、流石にちょっと無理だったのか、弾いた反動で腕が強く上に飛んだ。
冷静に、二発目をぶっぱなしてくる。
今度は体勢的に弾けないので、本の表紙で弾を受ける。
吹き飛んで、突き当たりの壁を貫通してしまい、空中を舞う私。
しかし、たこルカがその身体で受け止めてくれたので、すぐに跳ね返された。その際、弾速とほぼ同等の速さで戻されたので、デフォ子へと突っ込む形となる。
「あべしっ!」
「へぶっ!」
まったく、マッスル・スーツを着ていたから何とか無事だけど、着てなかったら気絶していたわよ、これ。
デフォ子は気絶してるか。拘束は面倒だし放置しとこ。
衝突の際に手持ちの銃が壊れたので、階下の黒服達から銃や弾薬を奪いつつ、アイス野郎のいる部屋までようやく辿り着いた。
「……よく来た。しかしここまでだ!」
部屋の中は黒服達でぎっしり。
それって必然的に、前の奴しか攻撃出来ないんだけど、誰も疑問に思わなかったのかな?
それとも、減っても数がいるから大丈夫だと?
甘いわよ!
「お前らがな!」
ドリルを装備した、ロードローラーが、アイス野郎の横から壁を突き破って現れる。
あ、黒服が何人か轢かれた…… 。
「お次はこれだ!」
ガトリングガンの掃射が、荷台より行われ、黒服達のほとんどが倒れる。
「くっ! まだだ! おい、出番だぞ!」
アイス野郎の号令を聞きつけたのか、ドリルロールの女の子が、天井から降ってきた。
「重音、お前も敵に回るか」
「全力で暴れられると聞いて」
鏡音弟が撃ち漏らした黒服を、蛇が相手する間に、重音が殴り掛かって来る。
左側へと回り込みつつ拳を避け、本を降り下ろすも読んでいたのか、右足を後ろに蹴り上げて止められてしまう。
身を捻って追撃のワン・ツーを繰り出してくる重音に対し、私は床の黒服を踏みながら後退し、反撃の拳を振るう。
アイス野郎はデスクの後ろに隠していたエレベーターを使い、更に地下へと降りていく。
「野郎、逃がすか!」
重音の蹴りを捌いて、腹部に渾身の拳をぶちこむ。吹き飛んで離れた瞬間に、エレベーターのワイヤーを伝って下へ。
重音はすぐに立ち直り、パンツ丸出しのスカートを戻して、私を追って来たみたい。
三十路のパンツ丸出しは、ちょっとキツかったのかも……。
「ふはははっ! ちょろまかした研究費で完成させた、この装置でこいつらを合成して、メーちゃんを倒す!」
合成の魔法陣が描かれた広間に出た。
アイス野郎の近くには合成装置と弱音、ヤンヨ、たこルカを乗せた台がある。
ちっ、守護者を二人も使うのか。面倒な敵が増えるわね。
重音の飛び膝蹴りを本で防ぎ、ロー・キックを繰り出すも捌かれる。
そして腹に良いのをもらったっ……。
ヤバい、ちょっと重音の体術が、私を本気にさせる程度はある。しかしながら、本気になったからといって、短時間で終わらせられるという訳じゃないから、時間的に余裕が無い。
合成が始まり、弱音の頭部にヤンヨの顔、たこルカのような髪の毛っぽい触腕で形成された、たこルカならぬ、たこハクが誕生しようとしている。
アイス野郎は装置の前から動かないところを見るに、合成が終了するまでは動けないのだろう。
となると、やるべきなのは装置を吹き飛ばすか、アイス野郎をぶっ飛ばして装置から離すか。
だが、素直に向かっていっても重音が邪魔するはず。
ベターなのは重音に殴られた際に、オーバー・リアクション気味で装置へ突っ込む、という選択肢だ。
「ほぉ。そんなたこルカモドキで、私を倒すだと?」
あ、これはアカンです。
とか思っている間に、良い感じの蹴りを食らう。
めっちゃ痛いッス。三十路の蹴りに合わせて、スカートが翻り、うずくまった際に、特に見たくもないパンチラを見てしまった。
コイツ、白に熊だったとは、絵柄派か。
「……ば、バカなっ! メーちゃんが何故ここに!? 魔王や魔界とかの焼酎を、送っておいたのが届いていたはず。今日は真っ昼間から酒盛りしてると、部下から聞いていたのにっ!」
「あー、あれアンタからのプレゼントだったのね。美味かったわよ! でもね、酒呑み仲間を呼ばない訳ないじゃない。独り占めは肝臓に響くのよ。確かに、二日酔いからの向かい酒もオツだけどさぁ? 呑み仲間からの恨みを買うくらいなら、思いきってパーティーするってぇの!」
だいぶ酔ってますね。今は喋り上戸か。
「ともかく、お酒に免じて。手加減して、あ・げ・る♪」
アイス野郎はメイコの拳を横っ飛びでかわすも、合成装置が吹き飛んでしまい、たこハクモドキの額に命中した。
ほぼ同時に、合成が中止され、合成元に再度変換し直される。
「重音! 時間稼ぎを頼む!」
「君は実にバカだな。やってられるか。サヨナラー」
「なっ!? ま、待て!」
メイコとやり合って無事で済む方が稀なので、同じ守護者ですら逃げ出すのよ。
「覚悟は決まったかな?」
「くそったれ!」
煙玉を床に投げつけ、煙幕に乗じて、背中に仕込んでいたジェット装置を使って、脱出するアイス野郎。
「逃がさないってーの!」
装置の破片を宙に放り、殴って飛ばすと簡易レールガンとなり、亜高速でアイス野郎の尻に当てるメイコ。
一方、破片が結野アナに直撃したアイス野郎は、刺さったままの格好で地上へと這い出るも、力尽きて昇天してしまったらしい。白目を剥いていたが、それはそれは幸せそうな顔だったとか。
「……よし、帰って呑み直そう。アイス野郎の引き渡し、よろしく」
「へーい。協力に感謝するよ」
鏡音姉にデフォ子の回収を任せ、鏡音弟にアイス野郎の拘束を頼む。
はぁ、バカ騒ぎがようやく終息しそうね。
自分で作った金を、半強制的とはいえ自分で増やすって、なんだかなぁ。
「そんじゃ、私は帰るわ」
「お疲れ様でしたー」
「お勤め御苦労様です」
ちなみに引き渡すのは警察ではなく、自治体の本部よ。警察に引き渡しても、アイス野郎は腐っても守護者なので、自力で留置所を出てくるからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます