ゲキド街

 糞供を排除してからというもの、冒険者達の侵入率が劇的に跳ね上がった。

 ただし、四人一組が五つ、バラバラの時間帯で。一個小隊がまとめて侵入したりはしてない。

 なので、まだ対処が出来る範囲よ。

 十人、二十人と雪崩れ込んで来たら、流石に怪しいけど。

 冒険者のランクも上がっているが、犬達の情報提供によると、ダンジョンのランクはギルドの調査員が、公平に調べたので、低ランクらしい。


 不正なんてなかったわよ?

 調査員の心をへし折っただろうって?

 心外ね! ちょっと考えればすぐに出られる罠だっての!

 歩くから無限回廊に囚われる。なら、歩かずにいればいいのよ。

 十分くらいしたら、私の執務室兼司書室に、自動で案内する手筈となっているんだから。

 衰弱せずに運んで来られた冒険者は、私の護衛でもあるジェム・マギカと戦うか、ルールを守る旨を書いた誓約書に、サインしてもらうか、その二択を選んで頂く。


 三番目の選択肢として、ダンジョンから出て行きたいのであれば、それはそれで構わない。けど、大抵の冒険者は手ぶらで帰る事を嫌うので、四番目の選択肢として、私と戦う事を選ぶ。

 そうなったらアベマシンに掘られるなり、ジェム・マギカや音声ユニット達と一緒に、ヒャッハー! するだけ。

 ちなみに、ガス・スライムで冒険者の周りにある空気を屈折させて、幻影を見せる事により、最凶兵器は異性を同性と誤認してしまい、女冒険者であろうと興味を示す。

 諸刃の剣だから、私やジェム・マギカは全速力で退避しなければ、下手すると巻き込まれてアッー! されてしまうのよ!

 防弾製のカウンターを遮蔽物として、よく訓練された兵士の如く隠れても、青いツナギからは逃れられない。

 いい男を生け贄にしなければ、マスターといえども貞操の危機となる。

 だから、なすびや裸マフラーを肉壁にしてでも、私達は対人ミサイルのロックオンから逃れてやるの。


 二選択のうち、ジェム・マギカと戦ってもらうのは、相手のレベルを知る為であり、そのレベルに応じた火器を渡し、街のルールを記した誓約書にサインさせる。

 また、ジェム・マギカを全員倒して、冒険者が調子に乗ったとしても、私には勝てない。

 何故なら、戦闘中にホムンクルスと入れ替わるから。

 そして、入れ替わったホムンクルスがアベマシンに変身し、ホモい弾幕でクソミソにしてやるのよ。


 司書室から出ると、最初にゲキド街の商店通りへ。

 街の外にも町が出来る予定だけど、ゲキド街から出るのが難儀するため、とりあえずは街に馴染めるように頑張ってもらう。

 誓約書のルールを守り、手渡された火器を使いこなせて、ようやく街の住人と見なされるわ。

 レベルに応じた火器は様々、使える弾もちょっとだけ違う。

 ただ、レベルに合わない火器は、基本的に扱えないというルールはある。

 絶対に火器を使わなければならない、という訳ではないけど、銃も満足に使えないと、ゲキド街の日常から弾かれてしまうわ。

 街を歩く一人一人は一見普通だけど、武装しているのが当たり前となっている。

 ルールを守っているなら、被弾しようが、爆発に巻き込まれようが、気絶程度で全て済んでしまう。

 しかし、ルールを守らないと、ケガが酷くなるだけでなく、街の守護者達から制裁を受ける。

 特にヤバいのがメイコと呼ばれる酒乱。ゲキド街の破壊神と呼び声高い女傑だ。

 酔っている時に怒らせると、街の一区画が瓦礫の山と化す。

 まぁ、街の至るところにジェル・フェアリーがいるし、家や電柱、車や道路といった構成物もジェル・フェアリーなので、割りと直ぐに元通りとなるから、何も心配はいらない。

 どれだけ壊れても、または壊しても、損害賠償は発生しないの。

 銃火器から撃ち出されるのは、ソリッド・スライムを圧縮したゴム弾。もしくは魔法のエフェクトが発生するジェル・フェアリー弾。

 故に人は誰も死なないし、ジェル・フェアリーが干渉するので、誰も殺せない。

 食べ物も飲み物もあるし、車や電車もある。武器も戦闘もあるけど、誰も死なない。

 普段から怠けていても、ルールを守っているなら、働かなくても何とかなる。

 ただ、日常についていくのが厳しいってだけの、夢のような街。

 その中でも激戦区に数えられる、商店街の近くに建つ図書館の主が私であり、ダンジョン・マスターでもある。


 金で雇われただけの冒険者には、確かに強い奴もいるが、それでもゲキド街の日常には唖然とするわ。

 そして一時間と経たずに、自分からダンジョンの外へ出たいと言い出す。

 私も鬼じゃないから、他言無用の誓約書にサインさせて、有益な情報をゲロッたら解放してやるけどね。

 誰だってバイブレーション・ナイフを内蔵する、オートマトン・スライムと、プロレスごっこはしたくないでしょうし。

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