ゆっくりS

 智子は仲間の狐を十匹ほど引き連れて来た。

 早速、餌と水を与えつつちょっとアレして、同意を得てからダンジョンのモンスターとする。


『妖狐達が人化の術と変化の術を覚えました。スライムが体表面に張り付き、匂いと抜け毛、その他の汚れを分解するようになりました』


 ジェル・フェアリーが体内に寄生しているから、飲み食い出来ないような状況でも、しぶとく生きられるようにしていく。

 とはいえ、ダンジョン・モンスターの一員となったので、基本的には魔力だけでも生きられるの。

 人の姿に化け、時として武器にも化けられるように教育、というか調教していく。

 狐達はただのペットではない。各地へクローン的な兵士と共に送り込み、諜報活動に勤しんでもらうのよ。

 どの時代でも、情報は大きな武器となるからね。人間と組ませるのは、人の目があるところでは、イチイチ動物まで疑うような奴は少ないから。

 もしくは動物の可愛さを利用して、ガードを下げるという手立てもある。要は、どちらも囮であり、どちらも本命と言うこと。

 それでもダメなら、真っ正面から殴り込むだけってね?


 まぁ、まだまだクローン兵の量産には時間が掛かる。離れていてもそういった組織を、維持する兵器や装置もいるか。また、移動式要塞とかも造らなければ、逆に殴り込まれた場合がヤバい。


「今のところは、顔だけか」


 足の復元が済んでいるモノもあるが、足だけって使い道無いし。武器として足で叩いても、ダメージはどうなんだろうね?

 ……顔だけ。生首? いや、ゆっくりさんだな。

 見た目は顔面。元はスライム、中身はこし餡、の変わりに妖精。その名はゆっくり!


「やっぱりこし餡だよな」

「お前ん家、天井低いな」

「あー、心がピョンピョンするんじゃー」

「気をつけろ、上から来るぞ!」

「饅頭うめぇ」


 う、ウゼー!

 思った通りのウザさ、おぜうさまもびっくりのウザさ!

 首の下を収縮させたりして跳躍、耳や揉み上げ付近、または頬辺りで武器を掴み、剣やナイフを振るい、弓矢を射掛け、銃を撃つ。

 身体の構造は、胃袋がブラックホール並みの、何でも吸い込むキャラのような感じ。

 さらには独特な声。まぁ、元となっているのはボーカ〇イドなんだけどね。

 髪も含めた顔だけのモンスターは、ざっと数えて三十体はいる。

 ブック・フェアリーを己の移動手段としている奴がいれば、ジェム・マギカのスカートの中を覗こうとしている奴もいた。無論、ホムラに銃で撃たれて、キョウコに食われる。


「あー、中身はこし餡か。変わった饅頭だと思えば、一応は食えるぜ?」

「キョウコ、後ろのゆっくりが、顔を真似てるわよ?」

「ほぉ、いい度胸してんじゃねーか……」


 ジェム・マギカの顔を真似るか。それはそれで新たな脅威となりそうね。


「わっちに饅頭をくりゃえ?」

「バレーしようぜ。お前ボールな!」

「ウェヒヒッ!」

「おらに元気を分けてくれー!」


 うーん、カオス。

 見てて飽きないけど、騒がしいのはちょっとねぇ。


「ゆっくり達はクラマ達と遊んでなさい」

「しょうがねぇな」

「動物とじゃれてろってか。オレ達が餌なのか」

「食われる前に逃げるんだ!」


 クラマって言うのは、智子の仲間達の総称。九尾の名から取っているわ。今は銀の毛並みだけど、成長すれば金毛となるらしい。

 調教の一つとして、鍛えた肉体を誇示した集団のグルグル回るダンスとか、千手観音の如く手を拡げたりさせている。


「コン!」

「キューン?」

「コンコン」


 十匹居るうちの、八匹を諜報要員にしていく。属性魔法をそれぞれ伸ばし、智子を中核として戦うように連携も取らせる予定よ。八匹が智子の尻尾へと変化する事で、なんちゃって九尾にするの。

 ナンバリングするので智子シリーズとも呼べる。

 まぁ、属性魔法は冒険者から聞き出した奴なので、もしかしたら人化しておかないと、使えないかもしれないけどね。

 その場合、動物形態の属性魔法は、自分達で編み出させる方がいいかも?


 ふむ、ケンカせずに遊べてるみたい。何よりね。

 そうだ、ゆっくりを尻尾に擬態させておけば、クラマ達が単体で捕縛されたり、罠に掛かった時に、脱出しやすくなるかも。


「クラマ達とゆっくり達は、それぞれペアを決めて。そのコンビで諜報活動に当たってもらうからね」

「コーン!」

「働きたくないでござる」


 ゆっくりの上に乗ったり、尻尾でじゃれたりして、返事をする。……発足したてだし、多目に見るか。


 音声ユニット達も作ろう。

 ネギ振り回しては、ロードローラー運転させたり、アイスや酒を飲み食いさせる。非常時には人間離れした膂力で蹂躙してもらおう。

 服に付いている、キーボードとかの再現は無理だけど、まぁ形だけでも作るか。

 正直言うと、マイクとか無ければ普通の人に見えちゃう。

 主砲や雷装が無いと、ただの女の子も同然に見えてしまうし、有名なら顔だけでも存在感は出る。ゆっくりとかがそう。

 ただ、歌ってバトれるキャラクターは少ない部類だから、それなりに貴重だけどね。


「性別キメラって、結局のところどっちなのかな?」


 見た目は女の子だけど、童顔で三十路超え。しかし、物語では女の子役が多いんだし……女の子でいいか。武器はフランスパンね。

 ネギとツインテールで有名な女の子は、色々とバリエーションが豊富。でもメインとなるのは、パッケージの絵柄にいる女の子でいいだろう。

 他は使用人が妥当かな、兵隊だとあまりにも勿体ないし。

 毎日のように土管を積み上げたステージで、ライブされても困るわ。


「お酒無いのー?」

「携帯電話は?」


 酒乱と工作員はちょっと待ってて!


「コンビニ欲しい」

「町も欲しい」


 ファ〇マなんて無いってば! 町って空色とゲキド、どっちよ?

 まさか、なぎさの方?


「フタエノキワミアッー!」

「サイクロン! ジョーカー!」

「よく狙って、撃て!」

「パーティーの始まりよ」

「我がチカラ、侮るでないぞ!」

「大丈夫だ、一番いいのを頼む」


 ……あ、あの……オールスターは無理ッス。


「なるべく……に、日常的な生活を送ってね? 小物類はジェル・フェアリーを弄って作りなさい」

「わかりました」

「えー、自作しろって?」

「かったるいわねぇ……」


 ぞろぞろと奥へと向かう、音声ユニット達。

 うーん、戦闘力はジェム・マギカ並み、いや、もしかしたらそれ以上はあるかも。

 だって、人数が多いからさ。どうやっても数の暴力だし。


 ……深く考えたら負けよね。

 人数が一気に増えた事だし、部屋を拡張させようっと。

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