拡張現実

 ソリッド・スライムやブック・フェアリーを増やしていると、冒険者が二人一組、四人一組、三人一組と、順番にやって来た。

 けれど、地の利がこちらにある分、最早低ランクの冒険者は脅威ではない。

 ちなみに、寄生しているスライム達が寝たり、リラックス状態を保つので、睡眠はあまり必要なくなっていたりする。


 現在のダンジョン・ポイントは2500ポイントほどある。

 やっと四桁か。


 中部屋十室か、小部屋二十五室を買える。

 よし、使い果たすか。


「ポイントを消費し、中部屋を十室分購入する。マスター・ルームを囲むように設置、承認」


 音もなくマスター・ルームが拡張されていく。配置こそ以前のままだから、とても滑稽だわ。

 やれやれ、またスライム達を増やさないと。あ、スライム達を増やす次いでに、ブック・フェアリーを量産していくか。


「ブック・フェアリーに命じる。本を積み上げて、壁となっていけ」


 ある程度量産が出来たら、トイレと風呂を囲むように積み上げさせる。

 背表紙を互い違いにしないと、すぐに倒れるので注意。

 ちなみにこの本達。ダンジョン・ブックと同じく、金属で縁取りされているモノが多い。本の中には、背表紙や表紙、裏表紙も金属板で加工したモノもある。また、別の本は普通のラノベと変わらない。本の厚さや大きさもマチマチだ。

 何故か、それは単純に全部同じ大きさと厚さだったら、めっちゃ怪しいからよ。

 で、背表紙の題名と中身は、妖精のイタズラでバラバラにしてある。

 まぁ、冒険者に読ませる訳じゃないから、あまり意味はないんだけどね。

 本の壁は、一番下と一番上の本だけ二冊に並べ、その真ん中に一冊ずつ積み上げる事で、形作られている。それが二重、三重と連なり、隙間にはリキッド・スライムやソリッド・スライム、プレート・スライムが入り込んでいる。

 左右を壁とすることで、通路となった天井や足元にガス・スライムを、霧やモヤの如く漂わせておく。

 床は出入口付近を玄関とみなすなら、土で固めておこう。その左右に和式便所とローション風呂をセットで固定。

 あぁ、天井と床にも本をズラッと並べておこうかな。その本を挟んで、プレート・スライムをビニールの如く被せておけば、歩くだけで転ばせられる。


 天井からの強襲(本)、床の奇襲(転倒)、霧やモヤ、暗闇と視界が悪い中、飛び回るブック・フェアリーが突撃してくる!

 ただ、ブック・フェアリーは壁の本と入れ替わるために、通路内を飛んでいるだけなんだけどねー。

 攻撃の意志が無いから、余計にビビるはず。

 あと、足元の本が競り上がるだけで、足を引っ掻けたりも出来るし、着けた足のすぐ先が突然段差になったら、大抵の人はびっくりするでしょうね。

 部屋の壁も本で覆うか、全体像を把握出来ないようにしておこう。

 床の本で、段差の間隔が長い階段を作れば、知らず知らずの内に上へと向かわせられる。

 上の方へ向かうと段々と天井が迫ってくるから、狭くなって戦いずらいはず。また、冒険者から見れば、地下にも空間があると思い込むでしょうね。

 半地下と半二階、もしくは半三階。限られた室内を有効活用すると、そんな感じの設計となってくる。

 これは住むんじゃなくて、冒険者の撃退や疲弊が狙いだ。

 本が見えないところで動き回れば、延々と歩かせる事も出来るはずだし、床の本に傾斜がついていても気付かれにくい。

 それに、無限回廊を魔法で破ろうとしても、三重の壁は簡単には崩れない。

 例え爆弾を使おうと、爆発のエネルギーすら、中空装甲的な壁の前には、ほとんど無意味。

 また、本やスライムの数が減っても、元々が低コストだから気にならないし、倒してもレベルが1だから、冒険者は経験値的にもおいしくない。

 更には、このダンジョンのモンスターは、スライムが大元なのでアイテムもカス。妖精もマナ・ポーションくらいでしょうね。

 あー、ホムンクルスは切り札となるまで鍛練させておくか。

 ゾンビ・スライムはまだ使えないし。

 他はモンスターというよりも備品扱い。作るのが地味に大変なのよ。


 おっと、冒険者がまた来たか。今回も低ランク。

 まぁ、フロアというより、巨大な部屋一つしかないから、高ランクの冒険者には、見向きもされないってだけなんだけどね。


「うぉっ! 何だこりゃ!?」


 ん? 妖精が着いている。あぁ、ゴミ捨てに来たのか。

 ていうか、日付替わってる。寝ずにやっていたことになるわね。


「悪いけど、今忙しいの。ゴミは適当に置いてて」

「あ、あぁ。分かった……」


 収納機能や遠隔で見れるディスプレイ機能とかも、制限されてて無いから、わざわざ出向く必要がある。

 とはいえ、モンスターに対しては念話で命令が出来るため、今回は分裂して増えたホムンクルスが対応した。

 声帯とか服とか、私を元にスキャンしたので、まさに影武者だ。

 ブック・フェアリーに注意が逸れているので、妖精達をそれとなく入れ替えさせておく。


 ふぅ、帰ったか。……ふぁ~っ、寝るか。肉体的にも、精神的にも休めているんだけど、ツラいもんはどうしたってツラいのよねー。


 スライムやブック・フェアリー達に、無限回廊の指示を出す。

 ついで、甲冑を着ているホムンクルスに、指揮権を一時的に譲渡。冒険者の捕獲と拘束を一任しておく。


「ゴミはテーブルの上に……。じゃあ、おやすみ……」


 ホムンクルスは頷き、出入口の床から運ばれてきたゴミを、テーブルに置いたみたい……。




 ……ふぁあ、んー。良く寝た。

 どうやら異常はなかったみたいね。

 頭もスッキリしたところで、早速動こう。


 現在のダンジョン・ポイントは、寝てる間にホムンクルス達が、何人か捕獲しては撃退したので、1200ポイントとなっている。流石に攻略率高めというだけあって、低ランクとは言えども、初日だけで冒険者が二十人以上も来るとは、まったく思ってもいなかった。

 生き延びたらダンジョンのランクも上がり、もっと強い冒険者もやって来るし、捕獲や撃退をしなくても次々と入って来るから、ゆくゆくはゆっくりも出来なさそうね。


 まずは、全てのモンスターに、寄生能力でジェル・フェアリーを寄生させ、個体差を均等化させ、能力を出来るだけ統一していく。

 これでモンスターが全滅しても、私の体内に寄生させているスライムと妖精を元手にすることで、素早い復興も可能となった。

 スキルも全てのモンスターが、分裂と魔力操作、擬態化魔法、解剖学魔法を覚え、スライムに受肉した妖精を素体としている。

 妖精が受肉するだけで、単純だが演算能力は二倍となるわ。

 なので、知性を得て思考もするようになった。その結果が、ホムンクルスやオートマトン・スライム達といった、単なる集合体とは一線を斯くすモンスター。

 さらにブック・フェアリー一体につき、妖精を十体憑依させる事で、形状の変化は多様化する。


 本一冊をバラすと紙切れの束が出来上がり、その紙を折り曲げたりして、ペーパー・クラフトを行う。

 角を合わせてギザギザに連結し、楕円を描くように回転させると、角と角で削るノコギリ状の刃となり、なんちゃってチェーンソーだ。

 更に、回転や対象物との接触の際に振動が発生するので、その振動を操作して剣に変形させると、バイブレーション・ソード。


 ふむ。ちょっと遊ぶか。

 オートマトン・スライムの股間に、ジェル・フェアリーが擬態したナイフをつけよう。まさにアームストロング砲だわ。


 リキッド・スライムの液体を解剖学魔法でスキャンし、化学式や分子の構造を理解すれば、単分子程の厚さを持つ刃が出来上がり、圧縮した水を解放すれば、勢い良く飛び出すので、ウォーター・カッターとなる。


 単分子の刃はとても鋭利、タングステン・カーバイトで出来た、物体すら斬れるぜぇ。ワイルドだろぉ?


 圧縮を重ねていき、筒状にソリッド・スライムを変形させてから、深海並みの圧力で水を発射すれば、鉄板すら撃ち抜く。

 火薬を使わないので、マズル・フラッシュはしないものの、圧縮に時間が掛かるため、連射は利かない。


 狙撃は一撃必殺というより、一撃必中でなければならない。

 だって当たったら動けなくなるんだから、必殺は二発目でもいいのよ。


 ガス・スライムの気体密度を調整し、光を屈折させれば、レーザーとなるので、冒険者の目を眩ませたり、網膜を焼き切ったりも可能だ。また、光魔法を使えば、霧に立体映像を浮かび上がらせる事だって出来るだろう。

 圧縮する力、屈折や反射の角度等、そういったベクトルを操れれば、立体映像の動きに合わせて、攻撃や防御を繰り出せるかもしれない。

 また、圧力そのものを操れれば、気圧や水圧、温度、風を自在に扱える事となり、台風や地震といった災害をも引き起こせる。もしくは、冒険者の血圧を操作して、気絶させたりも出来そうだ。


 しかしながら、このダンジョン内では地震が多発する。

 左右の本の壁が、崩れて来たりもするから、冒険者からしたら悲惨よね。


 そうそう、力の向きは簡単に操れないにしても、分散させる事は難しくない。

 例えば火事の際、高所から落ちた人を受け止める場合は、落下地点で布を斜め四十五度に張れば、縦と横に衝撃が分散するので、比較的軽傷で済む。

 少し違うが、高所より海へと落ちると、高さ次第では水面がコンクリ並みの強度となる。

 また、ガス爆発等の熱量と衝撃は上へと逃げやすいため、地下が最も安全だ。


 空気を使えば見えない防壁として、バリアっぽくも出来る。

 そんでもって、空中戦で敵に掴まれて、気流に高速で叩きつけられたら、大気はコンクリ並みの硬さとなるらしい。


 つまり、角度をつけた空気の壁は、思ったよりも頑丈となるので、ファイヤー・ボールとかも弾くの。

 もう一つ言うと、台風とかの強風で、雨粒が横殴りに襲い掛かるのと同じようなものよ。

 あと、空気ってわりと何処にでもあるから、とても利用しやすいわ。


 さて、以上を踏まえて、人形スライムを五体用意する。

 五体の顔は、それぞれ私が思い描く通りに整え、髪型や髪の色も変えていく。

 服も私の予備を流用させて、想像通りに作り替え、武器も個別に持たせてっと。

 総括する核を個別に用意し、安直だけど、コア・ジェムとでも呼ぶかな。


 私の手駒であるジェム・マギカの完成よ。

 本に次ぐ戦闘力を持たせてある。

 あとは武器の扱いを練習させ、実戦を積ませていくのみ。


 とあるMS《魔法少女》達がモデルだけど、この世界でそれを知る人って、たぶん居ないでしょうね。


 もう少し戦力を追加させておこう。備えあれば憂いなしよ。


 とある機動戦士を人間大にまでスケールダウンさせたり、脚を無限軌道に変えておこう。腕には深海並みの水圧で、リキッド・スライムを射ち出す、腕部一体型の巨大な銃を二挺持たせる。

 そう言えば、スライムは基本的に飛べない。……ブック・フェアリーやジェル・フェアリーを推進力の代用品としよう。

 翼に変形させたり、空中を飛び回る砲身にしたり……。

 あ、コアとなる戦闘機モドキも用意させなくっちゃ。上半身と下半身を分離させておいて、質量兵器として突撃させる戦法は、かなり使えるわ。

 ついでに、可変型の戦闘機モドキも造ろう。流線型のフォルムから人型に変形したりするヤツよ。


 うーん、戦闘機モドキの水鉄砲は、中身をソリッド・スライムにするか。限界まで圧縮されたソリッド・スライムを弾丸として撃ち出すの。

 威力は弱い。だって、元が固体のスライムだから、圧縮してもたかが知れてるし。クソ硬いゴム弾ってところね。

 弾丸役のソリッド・スライムには、電気を帯びておいてもらおう。かすっただけで痺れさせるくらいの、電流と電圧をね。


 ちなみに、ソリッド・スライムはただ飛んでいくだけで、攻撃の意志が無い。

 バイブレーション・ソードやウォーター・カッターも、ただ振動しているだけ。リキッド・スライムも同じ。

 徹底的に細かく命じているが故に、殺気がないのよ。


 むむ、そうだ。乗り物を作ろう。これから広くなるであろうダンジョン内部を、イチイチ徒歩で見て回るとか、クソ面倒だってーの。


 構造には疎いけど、内部はスライムに受肉した妖精。それらが他のスライム達と同化して、進化や変形によって派生が増えた、モンスターとスキル各種がある。

 ギアやら歯車やら、複雑なのは省略可能。

 ただし、最低限の形状やそれを連想出来る想像力が必要となる。

 まぁ、その想像力は私の知識次第とはいえど、本から得た情報があるので、それらは揃っている。


 ジェル・フェアリー達が、フレームやタイヤ、シート、ハンドルを形作り、ネジで連結していく。

 完成品の見た目は、ミニバイクよ。

 エンジンではなくスライムがチェーンやらピストンを動かすので、スライム駆動と呼べる。燃料もガソリンじゃなくて、魔力や食べ物。

 排ガスなんて出ないから、自転車と変わらない。速度は時速六十キロくらい、いや、それ以上も出せるか。

 予備で車も造っておこう。装甲車、戦車、軽トラ、大型トラックも。

 水上用に船も造ろう。ゆくゆくは戦艦、駆逐艦、空母とかも。勿論、爆撃機や偵察機も。

 今はミニバイクだけでいいけど。


 そう言えば私って、筋力とかほとんどないや。

 強化服を造ろう。人工筋肉、もといジェル・フェアリー筋肉、長いからスライム筋肉でいいか。

 スライム筋肉で腕力、握力、脚力、跳躍力、瞬発力の補助を行わせる。

 いわゆるマッスル・スーツってヤツ。

 ロープを細かくバラして、可能な限り糸状に擬態させて、大量に分裂。その後、服として編み上げさせ、鉄板を要所に仕込む。

 防刃、防矢、防弾よ。魔法は無理だけど……。

 ちなみに、鉄板はジェル・フェアリー(甲冑)を分裂させ、細かい部品に妖精を宿し、分解した後で、マッスル・スーツ(仮)の補助による打撃を用いて、叩いて凹ませ、板状にしたヤツを使っている。

 全身用と個別用とを用意しておこう。

 ウイング・ユニットや腰パーツも、いずれは造る予定よ。

 本が飛べるなら、人間も飛ばせるはずなんだからね。


 ジェル・フェアリー達に念話は出来るけど、視覚情報の共有は出来ない。代わりに、念話で送った言葉を、伝える事は出来た。が、ブック・フェアリーとか、金属とかの音が鳴るモンスターか、声帯を持っているモンスターでなければいけない。

 普通のスライムは喋れなかったり、妖精だと言語が違ったりするの。マスターは別として、冒険者は理解出来ないからねー。


 あー、鍛冶仕事や日曜大工ってしんどい。

 そうだ、ジェル・フェアリー達に造らせよう。情報源はブック・フェアリーに載ってるし、連携していけば自然と知識や想像力は高まるはず。

 人間の考え方も、何となく分かってくれるでしょう。

 結論、本は素晴らしい。

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