リビング・マイスター

 さて、現在のポイントはブック・フェアリーのボーナスを含めて、800ポイント。

 消費魔力は受肉させ、宿らせ、魔力操作を獲得させたりと、節約出来ている。受肉すれば、漏れ出る魔力が無くなるから、自己完結させて循環も出来る。

 魔力よりモルモットを、餌に選択しているから、スライム達も維持出来る。加えて、戦闘をさせない事で、より低燃費で生存が出来るの。戦闘をすれば、激しく動きまわったりするから、消費する栄養や魔力が増える。つまり、燃費が悪くなるのよ。

 モルモットの餌は、お互いの血や肉。または、スライム達の欠片ね。

 スケルトン・ラットやゾンビ・ラットには、増えた臓物スライムが寄生し、魔力操作を代行して行っている。


 次は衣食住を整えようかな。


 まず、プレート・スライムを簡易ベッドのマットに用いる。ウォーター・ベッド的な感じよ。

 簡易トイレにもリキッド・スライムを入れ、排泄物を溜め込むように命じておこう。

 ちょっとした細菌兵器の保存に、スライムはちょうどいいわ。

 む、椅子がいるか。プレート・スライムを折り畳み、圧縮していこう。


『プレート・スライムがソリッド・スライムに変化しました』


 このソリッド・スライムを椅子にしよう。

 増やして壁にするのもいいかも。よし、そうしよう。

 しばらく地道ながらも、ソリッド・スライムを増やして、部屋全体の壁や天井を更に覆う。また崩落されたら嫌だし。

 スライムのブロックとプレートを組み合わせて、テーブルも作るか。

 部屋の内部も区切りたいけど、区切ったら逆に、ちょっとした移動が手間になるかも。だからドアとかは無い。ちなみに、ダンジョンの出入口にはドアが置けなかった。


 さて、次は戦利品を整頓しますか。


 妖精を擬態させるか、そのまま宿すか。

 それとも、プレート・スライムで型を作り、プレート・スライムを流し入れて形作り、そのなんちゃってな剣に妖精を宿すか?

 迷う時間はあまりない。思い付いた事を試そう。

 てな訳で、妖精を一体召喚し、型どったプレート・スライムに受肉させる。


『ジェル・フェアリー(模造剣)が変化系統に登録されました』


 思ってたのとちょっと違った。ソード・フェアリーとかじゃないのか。

 次は魔法使いのローブ。リキッド・スライムに漬け込んで、召喚した妖精を宿す。


『ジェル・フェアリー(洗濯物)が変化系統に登録されました』


 これ、着れるのかな?

 寒いところだったら凍死する装備よね。

 まぁ、ここはダンジョン内だから、適温が保たれているし、試しに着てみよう。

 うん? 冷たくない。ベタベタと肌に張りついたりはするけど。

 特にパラメーターも変化してないような。

 防御力がほんの少し上昇したかな?

 そうだ、手足の代わりにはなるかしら。元がスライムだし、触手を伸ばす程度は出来ると思う。

 うーん、軽いモノしか持てないのか。レベルが足りないのか、触手の中に何も無いからか?


 次、私の衣服に妖精を宿してみよう。

 いや、待て。まずは替えの用意を作ろうかな。

 ジェル・フェアリー(模造剣)とジェル・フェアリー(洗濯物)に擬態させ、気絶させてから、更に妖精を宿す。

 ……これでよし。不要なモンスターもリサイクル出来るし、着替えも調達出来る。

 元が剣だから、咄嗟の場合も武器となる。ま、ズボンに擬態させていたから、下半身丸出しで戦うのは避けたいけどね?

 この調子で下着も作っておこう。


 次、私の身体を解剖学魔法でスキャンさせる。

 骨やら内臓やら、爪とかも。

 で、スライムのドッペル魔法で影武者を用意し、その中に各臓物スライムを入れ、妖精を個別に宿す。

 これで、高性能な影武者になった。


『人形スライムを登録しました。フェアリー・ゴーレム、ゴーレム・スライム、ゾンビ・スライムを解放、登録しました』


 戦利品の甲冑に妖精を宿し、人形スライムに着せる。

 そして、モルモットを与えて分裂。その後人形スライムを、私に寄生させていく。

 骨や内臓に寄生させる事で、私自身のパラメーターを底上げしていくのだ。

 これで毒を受けてもスライムが分解してくれるし、手足が斬られても楽に止血させたり、再度くっつくだろうね。

 ちなみに、戦闘は行わず補助に徹してもらう。身体に寄生させているから、普通は戦えないけど、マスターの意思が優先されるために戦える。

 でも、寄生しているスライムに経験値は入らない。条件反射で動くのと同じよ。

 もしくは、毒をくらわせた敵を、毒に犯したまま放置して、倒すのと同じ。それは自分で倒したのではなく、毒にやられたというの。


『ダンジョン・マスターの生体情報を、人形スライムがコピーしました。情報を共有した人形スライムが、ホムンクルスに進化します』


 え? ホムンクルスは既にコアに登録されているのに?

 進化前のモンスターだったってこと?

 えー、何それー。


『捕捉。コアに登録されているホムンクルスと、進化したホムンクルスは能力面で違いが出ます』


 あー、そう言えばマスター次第って書いてあったな。


 黒い身体をしたホムンクルスが、私の姿そっくりになる。全裸はアレなので、甲冑でも着せてやろう。


「剣、はちょっと邪魔だから、ナイフの素振りをしてなさい」


 ホムンクルスは頷くと、ナイフを持って和式便所の前に立ち、ナイフを構えて降り下ろし始める。


 そうそう。寄生した人形スライムの中にいる臓物スライムも、私の臓器に寄生して同一化しているので、臓器の代用も可能よ。

 とはいえ、しょせんはスライムだから、性能は頼りない。


『増殖した人形スライムが、オートマトン・スライムに変化しました。……増殖したオートマトン・スライムが、ゴーレム・スライムに変化しました』


 自動人形化と、泥ならぬ水人形か。

 狭くなってきたから、しばらくはプレート・スライムに混ざっててね?


 分裂した人形スライムを仮死状態にまで追い込み、ゾンビ・スライムを生み出す。

 さらに簡易トイレの中身をぶちこみ、歩く細菌兵器にする。

 これで感染機能まで付けば、バイオなハザードも夢じゃない!

 でも、狭いからトイレ内に待機してて。うわっ、容器の中はいっぱいいっぱいじゃない……。次も使えるかな?


 身体を清潔に保つべく、普通は風呂や洗濯をする。

 けど、ここでは妖精が受肉したスライムが、勝手に綺麗にしてくれる。また、武器の汚れも消えるみたいだわ。

 なので省略する。


 むぅ、食糧事情がよろしくないわね。

 臓物スライムを焼く訳にもいかないし、ちょっとした共食いはモルモットだけで十分でしょ。

 人形スライムが寄生しているから、魔力だけでも生きられるけど、せっかくなら旨いモノが食べたいし。

 どうするか。野菜の種はない。干し肉は少ない。水も必要だ。

 2リットルのペットボトルと、カロリーメ〇トモドキの非常食が手元にはある。

 空にしたペットボトルには、リキッド・スライムを入れておいた。

 何の為か?

 冒険者に飲ませる為だ。戦闘の意思が無いモンスターは、簡単には見破れない事が、先ほどの戦闘で既に分かっている。

 永久に続くであろう下痢と腹痛で、捕獲した冒険者を苦しめてやるんだよ。

 要は尋問や拷問用ってね。


 さて、点火する魔法を指先に灯し、戦利品の一つである、簡易焼き肉セットの薪に火を点ける。飯盒

はんごう

の中へ、リキッド・スライムからちょっと分けてもらった液体を入れ、沸騰するまで待つ。

 立ち上る蒸気を、リキッド・スライムが変化した袋で集めていく。


『リキッド・スライムがガス・スライムに変化しました』


 気体となるので、剣や槍の攻撃を受け付けにくくなる。

 さらには空気中に存在しているので、光を屈折させたり、冒険者の肺に侵入したりも出来る。光を屈折させられると言う事は、冒険者の目を欺く事が可能という事でもあるわ。

 そんな訳で、ホムンクルスの周りに漂い、存在感がある姿を消しておいてもらおう。


 あー、そうか。料理しなきゃ旨い物は食べれないわよね。

 でもキッチンは置けない。この焼き肉セットでも手狭となるし。

 そう言えば、人形スライム系統は私自身がモデルだったはず。人間である私の五感を備えている以上、私が食べたいと思うモノは、寄生した際に獲得した念話で、直ぐに伝えられる。

 元が受肉したスライムの集合体だから、食材を体内で料理する事も、たぶん出来ると思うし。

 まず、歯が包丁代わりとなり、刻んだり磨り潰したりする。胃がフライパンや鍋、腸で水分や調味料を加えたり、よくかき混ぜたり、練ったりする。大腸は炊飯器や蒸し器。しかし、そのままだと何もかもが混ざりあったままの暗黒物質、もとい残飯となってしまう。なので、汁物は中で一度吸収し、膀胱から出すようにしておく。

 調理が難しいようなら、食材を追加し、中身を反芻させてやり直す。体内のモノが何度も往復を繰り返そうと、スライムは平気だからね。

 完成品は上下だけではなく、何処からでも取り出せる。スライムは元々不定形なんだし、腹からダバァッとやっても大丈夫。

 盛り付けや調理工程は、ガス・スライムで見えないようにすれば、食欲が失せるなんて事もない。

 勿論、どうやったのかなんて話さない。企業秘密よ。

 これで立体型キッチンは完成。オートマトン・スライムにでも命じておくかな。

 肝心の食材は無いから、料理は出来ない。


 本が増やせるから、非常食も増やせるか試そう。

 まず、ジェル・フェアリーに非常食の味を覚えてもらう。次に内容物や栄養素を解析させる。解剖学魔法やいままで獲得したスキル、ダンジョン・モンスターの全てを総動員させ、ビタミンやたんぱく質を調べ上げてもらう。

 終わったら擬態、気絶、妖精を宿すの作業。

 モルモットを食べる非常食というのは、かなりシュールな光景ね。

 そして、分裂した非常食を食べてみる。

 ……むぅ、味がしない。

 ところで、非常食は吸収されるけど、霊体である妖精二体は下から出てくるのかな? まさか、排泄物に憑依するとか?

 肥料にもならない産業廃棄物の処分は、普通ならダンジョン・ポイントに変換するんだけど、私のダンジョンでは出来ない。

 かといって、ゾンビ・スライムにぶちこむのも限度があるし。

 あ、私の臓器とかに憑依してもらおう。そうしよう。

 今なら寄生してるから、自力での憑依も出来そうだし。ダメなら臓物スライムの末端に憑依して貰えばいいし。


 えーと、水はリキッド・スライムでも代用できるから、まぁいいか。


 服、食糧、水、ベッド、キッチンはあるね。風呂と洗濯機はスライムにお任せするとして、トイレ、テーブル、椅子はある。

 床と壁、天井の補強も終わった。

 武器もある、影武者もいる。あとは、倉庫の類いか。

 タンスとかが無いから、ソリッド・スライムとプレート・スライムで作ろう。


 ふむ、めっちゃ狭くなった気がする。

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