クソくらえっ!

 ポイントを消費して、獲得したスキルを恨みがましく詳しくみつつ、簡易トイレにしゃがんでいたその時。


『警告、冒険者が侵入しました』

「ちっ、うっさいなぁ。今度から頭の中に直接言って。一々聞くのも面倒だし、耳障りだから」

『了解』


 入って来たのは四人の冒険者。

 最初の男は、スライムが転ばせて和式便器へ、没シュート。続く男は呆れながら近寄り、同じくコカされ男の上に倒れ込む。

 三番目の男もため息をついて、二人の足を踏まないように飛び越え、餌食となり二人の上へ。

 残念、1メートルほどはスライムがプレート状になっているから、初見ではちょいとかわせないのよ。

 勿論、四人目の女魔法使いも男達の上に飛び込む。

 まるで喜劇ね!

 でも女魔法使いは、肉の壁がクッションとなったみたいで、割りと直ぐに立ち上がる。

 私はズボンや下着を上げず脱ぎ捨て、急いで女魔法使いに近付くべく駆ける。


 自分の命が最優先よ! 羞恥心や怒りは、このアマにぶちこんだらぁ!


 ギョッとしている女魔法使いだったけど、次の瞬間には杖を前に掲げて呪文を早口で唱え、魔法を放とうとしていた。


「ファイヤー・ボー--」

「--おせぇっ!」


 手には本。

 女魔法使いの杖を払い、放たれる魔法の軌道を大きく逸らす。

 返す刃の如く顎をカチ上げ、反動で戻る中を捻り、胸に角を突き立てる。

 が、ローブの下に皮の冑でも着込んでいるっぽく、感触が思ったよりも硬い。

 まぁ、後衛だからって防具をケチってる訳も無いか。

 踏み込み、顔面に空いた手のグーパンを入れる。


「そのげんそうを打ち砕く!」


 と言っても、左なんだけどさ。


 三番目の男は速い段階で起き上がったけど、モルモット二体が素早く顔まで駆け上がり、ヘルムの隙間へ口を入れ、容赦なく噛みついていた。

 痛みとモルモットを振り払おうとして、たたらを踏む。足場が動いて、再度転倒しかけるも踏ん張る。

 グズグズと女魔法使いの相手をしていると、モルモット二体が遂に捕まり、あわや握り潰されようとしていたが、何とか助かった。


「もう大丈夫。なぜなら、私が来た!」


 首筋に本の角を降り下ろす。足元のプレートが動き、和式便器とは反対側へと倒れ、両手が開く。拘束が解けたモルモット二体が逃げ出し、そこに入れ替わるように、スケルトン・ラット二体が向かっていく。

 スケルトン系は筋肉がないため、基本的に動きが鈍重なので、死角や物陰に隠れさせ、ここぞという時に攻撃を仕掛けさせる。

 骨なので攻撃動作も遅いが、突然現れたらビビるものよ。更にはまだ伏兵がいるかもと、ちょっとした心理面での攻撃も期待できる。

 スケルトン・ラットの一体が首へ張り付き、もう一体が冑の隙間へと入り込む。

 私はスケルトン・ラットが顎紐を噛みきった事を悟り、膝を着いてのマウントを取って、ヘルムを強制脱衣。

 でもって本を開き、背表紙を持って鋭く尖らせた表紙を、男の鼻目掛け、突き入れていく。

 中身はともかく、表紙、背表紙、裏表紙は硬いからね。めっさ痛いぞ?


「牙突! 牙突!」


 腰を捻って速度が乗る距離を伸ばし、時間を縮めて最速の突きを、表紙の角でぶちこむ!

 そしてスケルトン・ラットが耳や腹をかじる。


 二人目の男はゾンビ・ラットとモルモット二体が波状攻撃し、動くたびにプレートで転けさせては、近寄ったり離れたりと翻弄していた。

 分かってるじゃない。伊達や酔狂で、ダンジョン・モンスターに、登録されている訳じゃないってことか。

 こちらに気づいてナイフを振るって来たけど、プレートなスライムが足場ごと回転したため、明後日の方向へと空を切る。

 後頭部に向かって、背表紙を神スイング。

 たぶんフォームはキレイなはず!


 最初の男は、ゾンビ・ラットの中にいたスライムが便器内に潜んでいたようで、転けて便器に顔を突っ込まれた瞬間、口から侵入し、胃腸を刺激して排泄を促していたみたい。

 男はそれに抗うのに必死で、戦い処ではなかったみたい。

 青い顔してお腹を押さえ、内股になりつつ脚が震えていた。


「……無様ね」


 くらえ! まかチョップ!

 無慈悲な背表紙を、脳天に落とす。

 これで四人一組のパーティー、全員を気絶させたわ。


 トイレ中にやってくるなんて、マジ勘弁してよねっ!


『お知らせ。冒険者四人の捕獲に成功しました。しかし減点され、400ポイントとなります。現時点での合計は422ポイントです』


 頑張っても400ポイントか……。

 辛いなぁ。


『スライムがプレート・スライムに進化しました』


 あれって進化っていうか、変形じゃないの!?

 まさか進化とかにまで制限があって、バグってるとか?

 ひでぇなそれ……。


『ラット内にいたスライムがパラサイト・スライムに進化。更に冒険者の胃液を吸収し、溶解液がパワーアップしました。また、冒険者の体内で分裂したパラサイト・スライムが、遺伝子情報を吸収し、臓物スライムへ進化しました。なお、寄生能力は引き継がれます。臓物スライムが魔力操作を獲得しました。……臓物スライムが他のスライム達と情報を共有したので、解剖学魔法(初級)をスライム達が獲得しました』


 うん、よくわかんねーけど、フレッシュ・ミートを手に入れた事は理解した。

 ただし半透明だから、趣味の悪いオブジェにしか見えねぇけどさ?

 解剖学魔法って、医療関係の魔法か何か?

 もしくは解剖して調べる事を、魔法で再現するのかな?


『解剖学魔法とは、対象を解剖し、内部がどのようになっているのかを、実際に見ていき、切開や縫合等を行える魔法です。生物の生死に関わらず、魔法を受けた対象はその指定範囲内を解剖され、身体の中から擬似的に抜き出されてしまいます。解剖中も対象は動けますが、無理をすれば解剖している部分が、本当に身体と分離してしまい、最悪の場合は死に至ります』


 魔法って怖い!

 生きたままバラされるとか、普通は出来ない事をやってのける。足の小指を左右入れ換えても気付かれない。そこに衝撃を受ける、恐怖するー!


『パラサイト・スライムがダンジョン・マスターの遺伝子情報を吸収し、ドッペルゲンガーの魔法(初級)を獲得しました。ドッペルゲンガーの魔法とは、一時的に護衛対象の姿へ真似る魔法です』


 影武者ってことか。でも、ゼリー体だと意味無いけど。


『プレート・スライムが流体制御を獲得しました。更に体面積を広げる事が可能となります。また、互い違いに体表面を動かす事が可能となりました』


 1メートルから3メートルくらい広がり、より複雑に足場が動くから、冒険者は180度開脚出来ない限り、ほぼ転倒してしまうでしょうね。


『ネズミ系モンスター達が、クイック・ムーヴを獲得しました。効果は防具破損や撹乱等の成功率上昇、素早さや回避能力の上昇となります』


 素早く動けるなんて器用なスケルトン・ラット。なんか矛盾してそうだけど。


 そうそう、パラサイト・スライムの寄生能力は、モンスターによって寄生方法が違うらしい。冒険者だと胃腸に巣くうけどね。


 で、そういったモンスターはダンジョン・ブックに登録や更新がされ、ブックからしか召喚したいモンスターを選べず、コアからの召喚は最低限のモンスターのみしか行えないの。

 本が破損したままだから、登録はされても更新がされないため、一々最初からとなる。

 つまり、ゾンビ・ラットとかは召喚するのではなく、生み出していくの。

 チマチマでニューゲームな状態よ。これも制限の一つね。

 はぁ、面倒臭過ぎ……。


 ま、そんな愚痴はともかくも、お知らせを確認しつつ、冒険者達の四肢を縛って拘束する。

 ま、こんなものかな。食糧がある方向に押して、並べておこう。

 アイテムや武器は最低限を残して、没収よ。

 人様の家にズカズカと勝手に上がり込み、トイレ中という個人のプライバシーを侵害し、魔法やナイフを振り回して狼藉を働く。あまつさえ、交渉すらろくにせず、私やモンスターの命を狙う。

 ここはダンジョンだから、何しても許されるって?

 命を狙う以上、自分の命も失なう覚悟はあるんでしょうね?

 または、仲間の命と自分の命、天秤に掛けられても正気でいられるかな?

 侵略してくるから、こちらは迎え撃つ。これは当然よね!


 妖精を二十体召喚し、各自の拘束しているロープに擬態させ、捕虜の一人である女魔法使いを叩き起こす。


「ひっ! や、止めて! 顔は殴らないで!」

「そのお願いを聞くかどうかは、私が決めるんだけどさ」


 女魔法使いの頬を二回ほど張る。

 痛みに呻くと、今度は泣き出した。


「良く聞きなさい。この状況を理解しているなら、私の機嫌一つで貴女は死ぬのよ?」

「あ……う……。何をするつもりなの? ひぎぃっ!?」


 質問を質問で返すから、妖精が拘束を強める。


「ここでのマナーは私が決める。分かったかな?」

「……はい」

「魔法や魔力について、知りうる限りを話せ。なるべく詳細に、分かりやすくね。喋るのを勝手に止めると、手足が砕けるから」

「わ、わかりました……」


 女魔法使いは死から逃れるべく、魔法や魔力の事を話し始める。

 その間に、私は三人の男から一人を選び、叩き起こす。

 あぁ、魔法とかは妖精やスライムとかに理解して貰うためよ。私には適性が無いかもしれないし、他にも捕虜がいるので、その相手をする必要があるの。

 女魔法使いには、良しと言うまで喋り続けて貰うだけ。


 さて、選んだ男の冒険者は、排泄衝動に苦しんでいた男よ。

 騎士っぽい格好をしているから、剣術に詳しそうっていう、なんとなくな理由で起きてもらった。


「冒険者について、知っている事を話せ。何でもいい。自分の経歴でも構わない」

「……嫌だと言ったら?」

「スライムを丸呑みさせる」

「いやー、お姉さん強いね! モンスターをあんな風に使ってくるなんて、俺は予想すらしてなかったよ!」


 まぁ、一番の理由は、心を折りやすいからなんだけどねー。

 自分の尻からスライムがこんにちは、なんてしたらトラウマにもなるってもんだし。

 男が話している間、他の野郎二人が気が付いたけど、まだお前等の番じゃないから、再度気絶させておこう。


「……なるほど、パーティーは基本四人一組。ダンジョンのランクや規模によって、攻略する人数が変化する。救援要請が無い限り、低ランクのダンジョンには、一つのパーティーのみしか入ってはいけないという、暗黙の了解がある」


 そりゃ、ランクが低いダンジョンに、わんさかと冒険者が詰め掛けたって、収穫は無いからねぇ。

 また、ダンジョンの規模が広範囲だと、低ランクでもかなりの冒険者が攻略しにやって来るらしい。

 パーティーは何人とでも組めるが、意志疎通を重視した場合、四人から六人ほどが理想的となる。従って、四人一組のパーティーが最も多い。

 外の世界には人間の他にも、エルフやドワーフ等の亜人族が国を作っている。

 冒険者はギルドに登録している。

 ここのダンジョンは街の外れにあり、近々貴族が下見にやって来るらしい。

 ダンジョンはダンジョン・マスターが作るものと、自然発生するもの、二通りが存在するらしい。原因は不明。

 ダンジョン・マスターは地域によって、好き嫌いがハッキリしている。ダンジョンは悪の権化の如く扱われる事が多いものの、同時に富をもたらす事も事実なので、規模が大きくなりすぎないよう、定期的にモンスターを間引く事がギルドの仕事なんだとか。

 大抵の貴族は、ダンジョンから出てきたモンスターを、兵士を使って退治し、領民や領地を守っている。ギルドと連携して報酬を用意したり、報酬を工面するために、税金を上げたり下げたりしているらしい。

 で、ここら辺を治める貴族は、自然発生のダンジョンを二つ攻略して、ダンジョン・マスターを三体ほど討伐した実績を持つ。

 しかし、ダンジョン・マスターそのものが嫌いなのではなく、単にダンジョン・マスターの性格が、気に入らなかっただけで倒したという噂があるとか。


「情報提供ありがとう。黙ってていいわよ」


 女魔法使いもネタ切れらしいので、黙らせておく。


 次に、ナイフを使っていた男を起こす。


「今まで戦った事があるモンスターや、ダンジョンに設置されていた罠を、色々と教えて?」

「あ、あぁ。別に構わないが。ダンジョン・マスターであるそちらの方が詳しいんじゃ?」

「そりゃそうなんだけど。良く言うでしょう? 技は見て覚えるんじゃなく、盗めって」

「参考までにという事か……」


 制限が色々とあるから、工夫しなくちゃならんのだよ。まぁ、そんな事は言えないんだけど。


 ダンジョン内の罠は、吊り天井、落とし穴、丸太の振り子、崩落する床とバリエーションが豊富にある。

 かと思えば、モンスターが主体なダンジョンもあるそうだ。


 粗方聞き終えたので、男を黙らせる。


 最後に、重そうな鎧兜を着込んでいた男を起こした。


「冒険者の戦闘スタイルを教えて?」

「素直に情報を与える訳ないだろっ」

「それなら、痛めつけるだけよ」


 妖精達が擬態したロープに合図し、手首と足首を締め付ける。

 しかし、苦悶の表情を浮かべて、苦しそうな声を出すも、男は喋ろうとしない。


 ふむ、尋問方法を変えるか。


 男の腹を床につけ、指先の逆剥けをむしりとる。また、脛や肘の根元を軽く叩く。


「ぐおぉっ! 地味に痛ぇっ! でも喋らん!」

「わかった。なら、仕方ない。息子とお別れしましょうか」


 再度起こし、片足を上げる。


「は……? っ! ま、待て、息子は関係ないだろ!」

「喋るんなら、情状酌量の余地があるけど?」

「う、いやそれは……わ、わかった! 喋る、喋るからその脚を降ろしてくれ!」

「わかった」

「っ--がぁぁぁああああっ!?」


 いや、降ろせっていったから、股間に足を降ろして、軽く踏みつけただけよ?

 潰されなかっただけ、ありがたいと思いなさい。


「て、てめぇっ! 話すって言っただろうが!」

「ほぉー。お前等、良い度胸してるわね。そんな口を聞ける立場かな?」


 睨むと、三人は押し黙る。

 痛みがひいた男に視線を向けると、憎々しげに見てきた。


「臓物スライムに命じる。解剖学魔法をこの男に行使せよ」


 胃袋に擬態している臓物スライムを呼ぶ。

 ところで、それってどっちが下なのかな? という疑問はさておき、臓物スライムは解剖学魔法で、男の右鎖骨を引き抜き、見えるように動かす。


「な、なんだそれは?」

「アンタの鎖骨よ。あと10センチくらい身体から離れると、鎖骨が丸っと身体から消え失せ、この臓物スライムの元に転がるわ」

「……はぁっ?!」


 返答次第では、人体模型がリアルに出来上がるかもね。


「私は優しくも、甘くもない。利用価値のない捕虜は、このダンジョンの礎となってもらうだけよ」

「……せ、戦闘スタイルには、防御重視や身軽さ重視とかがある。楯を持っていても、ガードナーではなかったりするから注意した方がいい。剣を持って戦う魔法使いがいたり、魔法剣士がいたりもする。両者の違いは魔力量や使える魔法の他に、剣技とかにも現れてくる」


 剣の突きで、槍系の技を繰り出したりもするし、魔法使いなのに鈍器で戦う奴がいるって事か。

 状態異常や回復が出来ない僧侶、でも格闘戦は強い。

 レベルを上げて、物理で殴打していくから。

 または、弓使いが双剣持って、棍棒使いを足止めしたりと、そんなのがざらにあるってか。冒険者も必死ね……。


 聞き出した情報を元にして、質疑応答を繰り出し行う。

 この世界の事なんて何も知らないからね。

 知らないまま動くと、痛い目を見る。現に一度死んでるっぽいし。

 よそのダンジョンや冒険者達の情報を入手し、どういうスタンスを取ると、より長く生き延びられるか。または、どちらに与するのがいいのか。

 そんな感じだけど、行動目的はあった方がいいわよね。

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