グリーン・グリーン
怖いもの見たさで旅行先なんて決めるべきじゃない。
幾多の生殖器が色とりどりに飾られたショーウィンドウ。そんなモノ見たら心は折れる。すぐさま宿泊予約をキャンセルし、当日便で帰った俺は、たぶん人と話して日常に戻った感が欲しかったんだろう。気が付けばタムラを呼び出していた。
「一日で帰って来るとか馬鹿じゃねえの」
「いやオメェさぁ、行ってみろよ。地獄だぞ異文化」
見知った店で見知った顔と対面する事がこんなにも心救われる事だと気付けただけでも旅行に行った意味はあったかもしれない。土産を催促するタムラに買う度胸が無かった旨を伝えると「クソかよ」と揶揄される。しょうがないだろ怖かったんだよ。
「写真なら撮ってきたけど」
「お、見せて見せて」
タムラはデジタルカメラのボタンを押しながら「やべえ」「まじやべえ」「うっわやっべえ」などと言葉にする。半笑いで。写真なら半笑いでいれるんだよ。実際にそのやべえ空間に行くのとは違う。違いましたとも。
「これなに」
「あー、これは生殖器を乾燥させて箱に詰めてるやつ」
「呪術かよ」
「それが向こうでは美しい物として売られてるんだなコレが」
「やべえな。これは?」
「これは生殖器をプレスして紙に貼り付けてるやつ」
「うっわ、悪魔かよ」
「って思うじゃん? 子供が工作で作ったりするんだよコレ」
「信じらんねぇ…」
ひとしきり写真を見終え、タムラは「土産無くて良かった」だの言いながらガツガツと飯を食っている。あんな写真を見た後なのによくそんな食えるもんだと素直に感心する。
「そいやぁさ、ヤマちゃん覚えてる?」
「あー、3組の?」
「そうそう。この前、受粉したってさ」
「お、めでてぇじゃん」
「ワリカンで祝い品でも送る?」
「豚の陰嚢とかでいいかな」
「いや、豚はやめとこ。玉言葉が貪欲とかだった気がする」
「羊ってなんだっけ」
「確か…、ぬくもり? とかだったかな」
「じゃあ羊でいいか」
「羊でいいな」
帰りがけ、駅前の陰嚢ショップに寄る。
幾多の陰嚢が色とりどりに飾られたショーウィンドウ。
文化的で美しく、澄んだ気持ちになる。
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