Chapter 5 ミッドナイト
「……で、そのまま帰ってきたのね……」
私が家に戻ったのは、昼過ぎのことだった。
「うん……」
「スマホも持たずに飛び出して行くなんて……よほどのことがあったのね」
「そうみたい……でも、スマホを勝手に見るわけにもいかないし」
「まぁね……プライバシーもあるし」
スマホの内容は、見ていない。勝手に見るのは気が引けた。並々ならぬ状況でも、相手が耀太だということが、むしろ耀太の秘密を守る側に働いたのかもしれない。
「とりあえず、お昼にする? 豚汁、ちょっと作りすぎちゃって。ほらほら」
母は、このことを忘れさせようとしてくれていた。ただただ忘れ物を返すようにスマホを返したら、それでおしまい。そういうスタンスにさせようとしてくれている。その気遣いが、哀しかった。
そのまま、沈んだ気持ちで夜を迎えた。
「はぁ……」
ため息が出た、深夜2時。眠れない。身体は疲れているはずなのに、脳は悶々と活動し続けていた。
身体を起こしてみる。二段ベッドの下には、未月が寝ている。起こさないようにそっと、ベッドを降りた。そして、ベランダに出た。
今日の夜風は少し冷たくて、熱帯夜が続いたこの頃には心地よかった。その冷たさは低気圧のせいなのだろうか、星は分厚さの分からない雲で覆われていた。
何の目的もなく、ただ何かを視界に入れる。ぼんやりとする。私にとって、その感覚は何年かぶりだった。星のない夜空を眺めるなんて、そんな心でないとできることではない。そのまま朝を、月曜日を迎えてしまいそうな気もしていた。
「お姉ちゃん……?」
眠そうな未月の声で、我に返った。
「未月……ゴメン、起こしちゃった?」
「何してるの?」
帰ってきた時に話は聞いているはずだったので、特に隠す必要もなかった。昼前に話したものに補足を加えて、私は全てを話した。
「私、何か悪いことしたのかな……?」
「そういうことじゃないと思うけど……『何か違う』って思ったとか?」
「どういうこと……?」
「ほら、よく言うじゃん、『やってみて分かったことだけど』って。いつもは仲良くできてるけど、今日デートしてみたら何か違うなーって思った……的な?」
私にも、何となくそんな気はしていた。でもそれを否定してもらいたい気持ちがどこかにはあった。だから未月に全部話したのだ。……でも、恋愛の先輩である未月にそんなことを言われたら、どうしようもない。夜の僅かな光に輝く私の涙が、唯一の星だった。
「まぁでも、スマホ見てみないと何とも言えないしさ」
「見ろっていうの?」
「えっ、逆に何で見ないの?」
「だって……」
そもそも覗き見なんてするもんじゃない。でも、今見ていないのはそういう理由じゃなかった。
「……耀太は、多分見せたくないんだと思う。教えていい理由なら、聞いたら教えてくれるはずでしょ? でも、耀太は教えてくれなかったから……多分、私は知っちゃいけない」
「お姉ちゃんは間違ってる」
未月が言った。
「秘密を抱えてる恋人なんてさ、うまくいくはずない。ドラマとかでもよくあるじゃん、そういうの。パッと見仲良さそうに見えるけど、実は秘密を隠してて……みたいな。今のお姉ちゃん達の状況って、こういうことなんだよ」
「だからってどうしろって言うのよ? まだ子供のくせにそんなこと言わないでよ」
「未月だって!」
「あっ……」
言ってから、後悔した。
「未月だって、まだ誰かと付き合った訳じゃないよ。でも多少は……お姉ちゃんよりは分かってるつもりだよ!」
「……」
「……」
「……だからさ、お姉ちゃん」
「えっ……?」
「見ちゃうの、アリだよ」
「うん……ありがと」
「んじゃ、二度寝するね〜おやすみ〜」
未月がベッドに戻っていく。その姿を見て、私にもようやく眠気が戻ってきた。それをこらえて、スマホをつけた。そして、画面に目を通した。
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