Chapter 3 ディナータイム
カードショップに来てから約2時間。そろそろ帰らないと心配されるので、私達はまた電車に乗っていた。
「今日はゴメンね、耀太」
「何が?」
「結局、私と全然できなかったじゃん?」
「いいよ。気にしないで。僕も色んな人達と対戦できて楽しかったしさ」
それならよかった、といつ安堵と、やっぱり少し遠い耀太への残念感は、一つのため息となって地下鉄の冷房に溶け込んだ。
「あっ、ちょっと待って、ライン来てる」
電車に乗るタイミングで連絡したので、きっとその返信だ。私の母は心配性かつ親バカで、すぐに既読がつかなくなるとスタンプを連打、その後は電話をかけてくる。早めに見ておかないと、電車で大迷惑をかけることになりかねない。
「了解! 今日は瑠奈のお祝いよー。どうせなら耀太くんも誘っちゃう?」
母のその文面に、私の呼吸は少し止まった。母は耀太と私の仲がいいということは知っており、早くくっつけようと色々と手を考えているらしい。ありがたいことではあるのだが、急に言われると戸惑ってしまうのもまた事実だ。
「……耀太」
「ん?」
「その……この後さ、予定ある?」
「特にないよ」
「じゃあ、ウチ来る?」
ダメもとで、冗談半分で誘ってみた。断られても、正直な話ノーダメージ。無料で宝くじを引くようなものだった。
「いいの? じゃあ行こうかな。僕の親には連絡入れとくし」
「ふぇ?」
確率が低い方の返答を、それもあっさりと言われたものだから、思わず間抜けな声が出てしまった。
「何回かお邪魔させてもらってるしね。それに横井さんのお母さん、料理上手だし」
「私と違ってねー」
冗談を挟まないと、どうかしてしまいそうだった。私が誘ってみたことは何度かあったが、母からなんて一度もなかった。
「ただいまー」
「お邪魔します」
家のドアを開け、2人は別々の挨拶をする。夏の夜の暑さが、冷房に吹き飛ばされる。
「おかえりー……あらいらっしゃい、耀太くん」
キッチンの方から出てきた母が、慣れた様子で耀太を迎えた。
「ご飯、お祝いってことでたくさん作ったから。いっぱい食べてって」
「はい、ありがとうございます」
母は上機嫌に、元いた場所へ戻っていった。
「それじゃ……いただきまーす」
「いただきまーす」
「いただきまーす!」
「いただきます」
母、私、妹の
「そういえば、お父さんは?」
「今日はかなり遅くなるって。帰ってくるのは寝た後になるんじゃない?」
父は家庭より仕事を優先するタイプの人で、仕事を頼まれると断らずにこなしている。本当は断れないだけなのかもしれないと思っているが、そんなことを聞けるはずもなかった。
「それにしても、まさか瑠奈が世界一になるなんて思ってもみなかったわ〜。この調子で勉強とか女の子磨きとか、そういうの色々頑張ってくれたらいいんだけど……」
「ちょっと、も〜」
「アハハ……」
耀太の乾いた笑い。
「……でも、そんなに磨かないとヤバいって訳でもないと思いますけどね」
「えっ?」
「女子力の話ですよ」
「あらあら〜? もしかして、瑠奈が魅力的だって言ってくれるの?」
「まあ、そういうことですね」
「えーっ? お姉ちゃん、耀太くんと付き合ってるのー?」
「ちょっ、違うって! そういうのは未月には早いから。まだ小学生なんだし」
お分かりの通り、私の家族は少しおかしい。私はここで育ってきたのでそう気にしているわけでもないが、他人が来るとなると勇気がいる。基本的にそれを断ってきたのも事実だ。だが、耀太なら呼べる、いやむしろ呼びたい。一緒にいたい。それもまた事実だった。そして、耀太が、ノリや流れであるとしても、私のことを魅力的だと言ってくれた。それが何より嬉しかった。
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