第10話魅力
俺にとって桐華はお姫様。
誰に告白されようと桐華以上の人はいない。
桐華が離れてくなんて想像もしてなかった。
あの日。桐華を襲おうとしたのは確信犯だった。
葉坂は桐華のことをただそういう対象としてしか見てなかった。俺が桐華と仲が良いためよく桐華の話を聞いてきたから問いただしたら、付き合う気はないけど寝てはみたいと言っていた。殴ってやろうかと思った。桐華は他の同年代の女より大人っぽくて綺麗な顔立ちをしてた。だから女子には妬まれ、男子には狙われた。
俺は小さい頃からあいつと一緒にいて彼女の魅力は十分わかっていて、それ故にいじめになるかもしれないという勘は昔からあった。
その時は俺が必ず側にいて桐華を守ろう、そう決意していた。
葉坂みたいな奴に騙された桐華に、葉坂を止めることが出来なかった自分に腹が立った。
能天気な顔して俺にそんなことを話す桐華に対して、
衝動でも何でもなく冷たい頭でいっそ襲ってみたらどうだろうと思ったんだ。
途中で桐華は俺に抵抗して逃げていくだろう。それでも桐華は俺のことを幼馴染みではなく一人の男だと気づくはずだ。
桐華を押し倒しキスをすると甘美な味に止まらなくなりそうになる。あくまでも冷静に、これは作戦だ。
俺は何としてでも桐華が欲しかった。
桐華の制服のボタンをはずしはじめてからいっそう抵抗が強くなった。でもそんなのも俺にとっては弱い力で途中で止める気があるからいいものの、これが違う男だったらやばかったかもなと思った。
桐華の足が俺の腹に当たった。これも全くもって痛くなかったけどあえてうずくまるふりをしてあげる。
それから俺を責める桐華に俺は本気の想いをぶつけた。
「幼馴染みでそんなの気持ち悪い」
そう言われた瞬間、俺は心の底から傷付いた。
桐華が出ていった後。俺は何だか今度は本当にベッドの上でうずくまって泣いた。幼馴染みじゃなきゃ良かったのかよ!でも多分そうじゃなきゃ、俺はしょせん葉坂みたいな目でしか、桐華のことを見ないだろう。
その後無視され続けるのも辛かった。大学時代、いつも近くにいたはずのあいつがいないのももっと辛かった。
復讐してやろうかな。
俺の初恋を、馬鹿にしやがって。
社会人一年目でお正月に再会した時普通に話しかけられたから面食らった。
馬鹿な奴、復讐しようとしてるんだぞ、俺は。
桐華を俺に夢中にさせて、それで手酷く振ってやる。
その後引っ越しを桐華の隣の部屋にしようと思ったのは存在が近くにいるほうがあっちもこっちを意識するかなと思ったから。
朝御飯作ってやって、一緒にしゃべってるうちにもう復讐なんかやめようかなと思ったこともある。このままでもいいんじゃないのかと。
でもアンビバレンスな俺はその思いを振り払った。
桐華と二人で飲みに行った時、目の前にいる桐華が弱々しくて、かよわくて何だか壊れてしまいそうだった。手を握られた時もただ純粋に桐華を守らなきゃと思っただけ。キスをしたのも目の前にいる女がとてつもなく魅力的に思えただけ。今度は作戦なんかじゃなくただの衝動だった。その後、桐華からキスしてきたのも驚いた。
一線を越え、桐華から彼氏と別れるという宣言を聞いた時、お前となんか遊びだと言ってやろうかと思った。違う。遊びなんかではない。小さい頃からの本気の大切な思い。今だって我を忘れて楽しんでいた。
それに、思ってもないことを言って桐華を傷つけるのがいやだった。俺はどうかしてたんだ、きっと。
結婚しようみたいなことを言って、いいよみたいなことを言われてまるで小さい時のおままごとを思い出した。
「おままごとじゃないよな?」
「違うわよ」
そう言って笑いあう。
俺はこの女の魅力に負けた。
青空の中の月 ay @ayamiayami
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