第5話双橋

「周恩来という人は実に偉い人です」

「そうですね」

「日本の京都に嵐山というところがあります」


「ええ、私の故郷ふるさとです」

「そうですか!そこの亀山公園というところに周恩来

の碑があります。一度訪ねてみたいと思っています」


「亀山公園は私の実家のすぐ近くです。確かに周総理

の碑というのがあります、雨中嵐山とかいう。

子どもの頃によく遊びました」


「よくご存知ですね。まさしく雨中嵐山。周総理が

21歳の時に書いた詩です。雨の中に一筋の光がさして


緑と点在する桜の木が冴え渡る。暗雲の中一筋の光明を

見出したようだ、と周恩来は歌っています」


二人は双橋の北詰に着いた。

「ここでもし、二人が別れたとしても」


と言って静江を右に、孔明は左の橋げたを

歩き始めた。孔明は話し続ける。


「人生にはいろんなことがあるでしょう。

それぞれの荒波を受けながらも、なかなか

会うことができません」


孔明はゆっくりと歩きながら語り続ける。

「でも愛があれば。信頼があれば。誠の愛があれば。

・・・・・・・・・・・こうして二人は又会える」


双橋の南詰めで孔明は両手で静江の手を取った。

「あ、ごめんなさい」

なるほど、そういう意味があったのか。


逢源双橋。沈む夕陽に見とれながら

静江は一人で感心していた。


「綺麗な夕陽でしょう。世界一です」

「世界一。・・・・孔明さん、ご結婚は?」

「私はまだ結婚していません」


そう言って孔明は公園と舟泊りの2つの橋を渡る。

静江が滑りかけて孔明が又静江の手を掴んだ。


「来年アメリカに行きます。二年前に私がその希望を

話した時、私の付き合っていた人は私の前から去って

行きました。それきりです。私は去年、

アメリカでの就職を確定しました」


「私は・・・・」

「あなたの事は手帳に書いてありました。

おじいさんも中国へ行かれたあなたの心を察して

この使命を依頼されたと思います」


「使命?」

「そう、使命です。祖母とおじいさんの最悪の

出会いを、孫達の最高の出会いにできれば

いいと思います」


「えっ?」

孔明は静江の。いぶかしげな顔をやさしい

温かい笑顔で包んだ。


「元気を出して、静江さん」

静江もつられて笑顔になった。


「一度しかない人生、もっとダイナミックに楽しみ

ましょう。いろんなことがあったほうが味がある。

僕はそう思います。全てのことに意味があると」


「全てのことに意味がある?」

「そうです」

「一度しかない人生?」


そうです、そうですと言いながら孔明は先を行く。

土産品店で藍染の帽子を手にしながら、


「来年の春、最終の企業研修で東京に行きます。

一日だけ休みがありますので、京都に行こうと

思いますが。嵐山を案内してもらえませんか?」


「ほんとですか?」

「ほんとです。詳しい日程は年明けてから、

1月中にお知らせします」


「是非お越しください。母と一緒に喜んで

御案内させていただきます」


「ありがとうございます。今回は母もおばさんも

ほんとに驚いて喜び感謝していました。孫の僕

からも、孫のあなたに心からお礼を言います。

本当にありがとうございました」


孔明は深々と頭を下げた。

「そんなに頭を下げないでください。ほら、

皆が見て笑ってるじゃない」


孔明は頭を上げて笑った。

静江もつられて笑った。

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