怯える必要ないですよ(祖母)

 最初、祖母は階段から転げ落ちて骨折したため入院した。三週間で退院できると思われていたが、ついでに色々検査してみると大腸ガンが見つかった。自覚症状がほとんどなかったため発見時にはステージIIIまで進行し余命三ヶ月を宣告された。

 寝たきり状態の祖母は運動不足で筋肉を落とし、ふくらはぎは鑢をかけたパイン材の丸棒のようである。確かに祖母の羸痩るいそうは不健康的ではあるが、それが却って入院前よりも彼女をたおやかで妖艶に映した。

 容姿こそひ弱な祖母であるが、元来の陽気さは健在なので病室に入るのは苦ではなかった。余命宣告から一年半経った今では祖母は痛みを感じるたびに楽しそうに「死ぬ!死ぬ!」冗談を言う。そして毎回家族みんなで「死にゃしませんよ」と返し、祖母も含めて全員で笑うのが恒例である。今日も例に漏れずそのやりとりがあった。

 おじいちゃん、写真だけではわからないと思いますが、おばあちゃんはとても元気ですよ。


(396字)

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