健康第一(祖父)

 月に一回、家族で入院中の祖母の見舞いに行く。そのときは一端病院の近くの祖父の家に立ち寄ることにしている。

 祖父はもう八十近くだが、後頭部に僅かに残った白髪は剛毛。筋骨依然として隆々で、視力・聴力も成人男性の平均を若干上回り、喪失歯もない。まさに健康体なのだが、

「お邪魔します」

「わしは元気じゃぞ。味噌汁飲むか」

「飲みません」

 といつも話が噛み合わない。また、「懸垂百回できる」とか「近所のガキに腕相撲で勝った」とかしきりに健康自慢をする。


母が祖父に話しかけた。

「ところで義母かあさんの様子は」

「味噌汁入れたぞ、おっと四杯か。一杯余ってしもうたわい」

「義母は」

「食べる時は『頂きます』だぞ。味噌汁には絶対ワカメを入れなきゃいかん。ワカメこそ、我々の健康維持に必要なものなのだ」

「あの」

「カヨコ(祖母)も、ワカメさえ摂ってればガンになんか……」

 祖父は窓の外の大病院を哀しげに見つめた。私たちは出された味噌汁を啜った。


(400字)

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