眠さの憂鬱(兄)

 私が部活から帰ってくるとソファーで寝転ぶ兄が目に入った。

「今日もおそいな。おかえり」

「ただいま」

 兄は起き抜けなのか半目で、髪に寝癖が付いている。口にはアイスの棒を咥えていた。アイス?もしかして。

「おにい、それ私の?」

「かもな」

「なんなのよ、もうー!」

私はプリプリしながらソファーの前に座った。


 しばらくすると兄は独り言を始めた。

「明後日までに志望校と学部決定しろ、と言われた。来年、受験だからだろう」

「お兄は頭良いから苦労しないじゃない?」

「ははは、そうだな。然しおれにはがないんだ。成績もいいから消去法的な選択もできない。自由なのがかえって不自由なんだ。宙ぶらりんさ」

 兄の表情は暗く、部活終わりの私よりよっぽど疲弊しているように見えた。兄は溜息を吐いた。

「暗いこと考えると疲れるな。寝るわ。あ、これアタリだった」

「やった」

私は兄からアイスの棒を強奪してはしゃぐ。

「いいよな、綾は」

と兄は小さく呟いた。


(400字)

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