強さは誰にも測れない(父)
父は公務員だが保育課のため残業族で、帰宅する頃には私は既に夢の中に落ち着いている。休日も父は寡黙で、ずっとハイデガーやニーチェなんかの小難しい本を読んでいる。
母曰く、父は家族の生活のために大学進学を諦めたらしく、四十代後半になった今でも未練があるらしい。それでも不平を洩らさない父は強い人だと思っていた。
寝ぼけた私が階段を下りると、リビングから光が漏れていた。そこでは父と母が話していた。私はこっそり覗いた。
「どうしたのよ、浮かない顔して」
「高卒、って結構なハンデなんだな。おれは努力してここまで来た。だが、おれより能力もやる気もない大卒は何もせず出世して、その上気軽に辞表を提出してくる!」
父は握り拳を机に打った。
「まあまあ、気にしてたら寿命が縮んじゃうよ」
母が言うと、父は発泡酒をグイっと飲み母に肩を寄せた。
「ごめんよ、こんなおれで」
この時、私は強く見える人も本当は弱いことがあるのだと知った。
(399字)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます