強さは誰にも測れない(父)

 父は公務員だが保育課のため残業族で、帰宅する頃には私は既に夢の中に落ち着いている。休日も父は寡黙で、ずっとハイデガーやニーチェなんかの小難しい本を読んでいる。

 母曰く、父は家族の生活のために大学進学を諦めたらしく、四十代後半になった今でも未練があるらしい。それでも不平を洩らさない父は人だと思っていた。


 寝ぼけた私が階段を下りると、リビングから光が漏れていた。そこでは父と母が話していた。私はこっそり覗いた。

「どうしたのよ、浮かない顔して」

「高卒、って結構なハンデなんだな。おれは努力してここまで来た。だが、おれより能力もやる気もない大卒は何もせず出世して、その上気軽に辞表を提出してくる!」

 父は握り拳を机に打った。

「まあまあ、気にしてたら寿命が縮んじゃうよ」

 母が言うと、父は発泡酒をグイっと飲み母に肩を寄せた。

「ごめんよ、こんなおれで」

 この時、私は強く見える人も本当はことがあるのだと知った。


(399字)

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