15話 声
連日の暑さも少しは和らぎ、今日は絶好のライブ日和となった。朝からいろいろな準備をしたが、親や知り合いの協力もあって、妹の学校の友達を動員せずに済んだ。そもそも、今日、妹の友達はあまり来ることができないらしい。学校で午前中に行われる「必修の」夏期講習があるからだ。
「すごい人の数、です。」
ああ、そうだ。前回のライブの評判が予想以上に高かったこともあり、今日は朝からたくさんの人が集まってくれている。頭の固そうな町内会のお偉いさんたちも含め、だ。お偉いさんたちは最前列に陣取っていて、その空間に謎の壁が形成されているようだ。俺から見ても少し怖いが、妹たちは大丈夫だろうか。
雲の浮いた空に太陽が南中し、正午を伝える。
「よし、行って来い!」
調音調光を親に任せる。今日のライブは、トークからだ。俺もライブを観客席から見守ることにした。
「こんにちは、私たち、Wanderlustです! 今日、初めて見る、ひとのために、自己紹介、します!」
最初にしゃべっていたのはミーシャ。流れるような英語と、たどたどしい日本語のギャップは、見ている人をとてもリラックスさせる。
「わたぁしは、ミーシャ! 日本とルゥシアのハーフ、です! ダンスが、ダイスキ! よろしく、お願い、しまぁす!」
観客から歓声とも取れるような、どよめきが感じられる。お辞儀をした後の笑顔が完璧!
実は、前回のライブで一曲歌うだけだったのは、時間と予算の都合以外に「人前で一人で話すこと」
このハードルがあったからだ。第一関門3分の1突破、まずは一安心だ。
「私は美優。歌うためにきました。よろしくお願いします」
そっけない美少女モードの美優。観客からはさっきとは違った、ため息に似た歓声が聞こえる。正直、美優が一番心配だった。いつ、いつも通りの暴言モードになってしまうものか・・・。こいつだけは、まだ目を離せない。
次はヒナの番だ。美優が一礼して一歩後ろに下がる。ヒナが一歩前へ出る。顔は下を向いたままだ。
「私は、ヒナ」
会場に広がったのは、暴力的な静寂だった。
ヒナが何かを言おうとして、声にならない音を出すと、周りはさらに静まる。太陽が雲に隠れ、あたりは少し暗くなる。
驚き、焦り、不安。たくさんの感情が形にならず、ただ、渦巻く。
ヒナのやつ、かわいいモードはどこへやったんだ。
俺は観客席の左の後ろ端から、ステージへ向けて走り出す。
観客が左右を見まわし、ざわめき始める。
まずい、絶対的にまずい。
どうすればいい。俺の中に、混乱が伝染してくる。
転びそうになりながら、観客の群れの左を走り抜けようとしたその時、
前から、大きな、声が聞こえた。
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