13話 兄として、プロデューサーとして

「お兄ちゃん、遅い!」

うだるような暑さの中、妹たちと遊びに、ではなく、アイドル達の監視をするため。心を踊らせ、ではなく、あくまでしょうがなく、飛ぶように急いできた俺に、飛んできたのは妹のいつも通りの言葉だった。

「今日はしっかり見守ってやるからな、プロデューサーとして!」

「別に、来てくれとは言ってない」

通常運転の美優。彩度の高い青色の水着は、南国の海の輝きを思わせる。見た目に騙され、いわば返り討ちになったナンパ師は、きっとひとりやふたりじゃないはずだ。

ヒナは電池が入った、「可愛いモード」。いつもは寝ていても気づかないような存在感だが、今日は、自分の外半径1メートルまで、お花畑のようなオーラを広げている。

「あれ、ミーシャは?」

「ミーシャ、あっち」

「自販機に行ったみたい」

ひなが指さした方角、距離にして20mほどのところ。一目見て、ミーシャだとわかる人物がいた。

ミーシャの水着姿は言うまでもない。白すぎる肌で、周りの男子の黄色い目線と、女子の紫色の視線を浴びて、そこだけ違う世界が広がっているようだ。

ミーシャはキョロキョロとあたりを見回す。目線が合いそうになった少年らが、スッと目をそらす。それからも、その行動を何度か繰り返し、首をちょこんと曲げる。男子諸君は小さな歓声をあげ、女性諸君は・・・察してほしい。


何度かその行動を繰り返し、一向に戻ってくる様子の無いミーシャ

「もしかして、迷ってる?」

ヒナが言う。

「それは流石にないだろ」

言いながら、それは自分に言い聞かせているだけだと気づく。

「もし、そうだったらどうする・・・」

美優が急に走り出す!慌てて続くヒナ。俺もついていく以外の選択肢はない。美優は走る。目を丸くしたミーシャを攫うようにしてつかみ、人だかりを強行突破する。

男子目線の目線が赤紫に変色し、俺のことを襲う。


入口から遠く離れ、人口密度の少ない、流れるプール沿いの1角に腰を下ろす一同。

「アイドルって、言ってない、のに」

息を切らして、ヒナがいう。

ミーシャは、なぜ走ったのかすらわからない、そんな様子だ。

「こんなふうに遊びにこれるのも、きっと今日が最後、だな」

プロデューサーとして、彼女達の素材の力強さを、改めて体感させられた。

ヒナと遊びに行くのも、難しくなるな


俺は、改めて、みんなに、妹たちに宣言する。

「今日は、思いっきり遊ぼう! 」

兄として、プロデューサーとして。今までで一番遊んだ、楽しい1日を過ごした。

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