12話 慧眼の妹

「暑い」

ヒナがボソっとつぶやく。

「あつい、です」

ミーシャも同意する。

「・・・。」

美優は何も言わない。額から垂れる汗が、言葉のすべてを代弁している。

今日は7月20日。夏休みが始まって、1週間が経とうとしているところだ。今日も練習をするために、家の近くの公園に来たのだが・・・ご覧のありさまだ。


「ねえ、プロデューサー。涼しい練習場所とか、ないわけ?」

美優の不満そうな声。美優の声は、抑揚が少なく、いつも冷静、に聞こえる。その声がいつも俺に与えるプレッシャーは、半端ない。

「涼しくて、トレーニングになる場所、ねぇ・・・」

ライブまで残り一か月を切っている。無駄にできる時間は少ない。


「プール、プール行こう!」

ヒナの声はまさに鶴の一声だった。美優の目は輝き、ミーシャはすでに走り出していた。

「おいおい、お前ら。プール行ったところで真面目にトレーニングなんて・・」

「いいんじゃないですか? プール。心肺機能も大事ですし」

どこからともなくやってきた、みなみさんが擁護する。

「やったー!」

その3秒後には、1分前までグダっていたはずの三人は全回復し、どこかへ走り去ってしまった。仕方なく、俺はみなみさんに目線を戻す。

「みなみさん、その抱えた書類の束はもしかして」

「ええ、いまから郵便局へ行くところですよ」

さすがみなみさん、仕事が早すぎる。少し前に、正式にお願いをしたばかりだというのに、もうこんなにたくさんの資料を。やはりみなみさん、K大卒説濃厚か・・・。


「それで、あなたはどうするんです?」

「プール、ですか」

「本当はいきたいんとちゃいますか?」

急に京言葉を入れてくるみなみさん。正直言って、反則だ。

「俺は、行きますよ。うちのアイドルがへまやらかさないように、見る責任がありますから。」

なんて、こんなセリフを吐けるのも、プロデューサーの特権だ。妹はともかく、あの二人の美女と一緒にプールに行けるなんて、めったにない好機だ!


「あら、ご立派なこと。せいぜい楽しんでくるといいですよ~」

絵に描いたようにきれいにおちょくられた後、みなみさんとは別れた。

しかし、俺は見逃さなかった。みなみさんが歩いて行った方角を。郵便局ではなく、最寄駅のほうに歩いて行ったということを!


妹にラインする

「どこで何時に集合?」

妹からの返信

「誰が狙い?」


これだから妹って生き物は・・・

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