11話 Wanderlust

「こんにちは、ミーシャの母のみなみと申します。いつもミーシャがお世話になっております」

やはり、鷹を生むのは鷹で、美女を生むのもまた、美女のようだ。ミーシャの年齢から推測するに、40代を過ぎていることは確実。にもかかわらず、彼女の肌には、老化の跡が一切みられない。

「こちらこそ、ミーシャさんにはいつもがんばってもらっています。ところで、ご出身はもしかして」

俺は、自分の直感を信じて、聞いてみた。

「京都です、京言葉を使っていないのに、よくお分かりになりましたね」

とうぜんだ、言葉は一般でも、イントネーションが京都だ。それに、このおしとやかな様子、ミーシャのしつけが行き届いているのもうなずける。周りがひどいから、余計に、だ。

「ミーシャから色々と聞いております。娘たちをプロデュースするために、会社を立ち上げられるとか。お若いのに御立派ですね」

「いえいえ、まだ何もわからないもので、色々お力をお貸しいただけたら、助かります。」

後ろでにやにやしているのは美優とヒナだ。俺だって仕事の時はこういう話し方するんだっての。

それにしても、みなみさんと話していると、それだけで場が和む。若草色の上着と、少し垂れた目。その柔らかい物腰は、人知れず生えて、人々を涼ませる、そんな柔らかい芝生を想起させる。


「それで、会社の名前は、どうされるおつもりですか?」

考えてなかった。

「その前に、私たち、グループの名前は?」

さらに考えてなかった。

「少し待っていただけますか?」

考える時間がほしい。

「ねー、プロデューサー?しっかりー」

ヒナが茶々をいれてくる。大人がいるから怒鳴れないと思ってるな・・あいつは本当に計算高い。

20分ほど辞書やネットを見て考えた。


そして、決めたグループ名

『Wanderlust』

旅への強い欲求、という意味の言葉。初ライブの時の感触が、まさにそんな感じだった。こいつらには、誰も手の届かないような、遠くへ旅していってほしい。

「いいですね!」

ミーシャが言う。こいつの英語力はなかなかみたいだ。

「難しい。でも、いいや」

美優が言う。文句言うなら最初っから任せるなってんだよ・・・

ヒナは、何も言わない。顔には、「わからない」と書いてある。ちゃんと英語勉強しようね?


続いて、会社名

「早乙女の家」

これには、皆、何も言わなかった。

ただ一人、ヒナが

「ロリコン」と言った以外は。


ちっ、こいつ。国語はできるのか・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る