2話 家で。
「わたしは、アイドルになるの」
それまで彼女たちの間でどんな話があったのかはわからない。ただひとつわかるのは、妹が彼女を家に招待し、今、俺の前にいるってことだ。
正直、彼女をみたとき、俺は驚いた。艶のある黒のロングへアーに細長い手足。読書が似合う、高嶺の花的超美少女だ。こんな女の子が素晴らしい歌を歌うとなれば、アイドルになる、だなんて朝飯前どころか、引く手あまたで朝飯を食べる時間もないほどじゃないか。
しかし、彼女は今までオーディションに合格したことがないらしい。毎回面接で落とされるんだそうだ。それも、今日会ってかなり納得がいった。
「ねえ、ヒナちゃん、ジュースない?」
「ある、待ってて」
早口の美優とゆっくりなヒナ
「ねえ、この部屋すごく暑くない? エアコンないの?」
「ある、温度、下げる?」
「下げる、早くして! 」
なるほど、はじめてあった他人の家でこの調子なら、面接会場でもこんな調子だったんだろう。扱いがとてつもなく難しそうだ。
一通り注文に答えると、ふたりは、急に俺の前に体を向けた。
「私たち、アイドルになる」
「それはさっき聞いた、だから何だっての」
「だから、お兄ちゃん、私たちをプロデュースして」
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