第19話

 俺はフェアを肩に乗せ町の中を案内していた、そしてギルドの前に来ている


 受付嬢さんは綺麗だ、お近づきになりたい。


 ギルドの中に入るが誰もおらず俺と受付嬢とフェアだけだ


「こんにちわ、今この子に町を案内してるんです」


 フェアを指さしながら挨拶した


「こんにちわなの~」


「あ、クス様、こんにちわ」


 受付嬢さんはなぜか顔が少し赤い、丁寧にお辞儀を返してくれる。受付嬢さんの前に移動した


 本当に天使のような笑顔で癒される、こんな人と冒険できたらよかったのに、あと少し若ければな。


「最近妖精の国に行きまして――」


 俺は未だにフェアを指さしながら紹介していた、フェアはフヨフヨと飛んで受付嬢さんの後ろにあるタンスを漁っている


 ……え? こいつなにしてんの?


「エッチな下着があったの!」


「あわわわわ、やめ、やめてください!」


 フェアは受付嬢さんに捕まった


「離してなの! 勇者のパーティーはなにしてもいいはずなの!」


「いやいや勇者だけど! 勇者だけどタンス漁るとかダメだから! 裸で王様に会いにいくやつもいるんだろうけど、ここはダメだから」


「裸で王様に会うとか失礼すぎると思うの!」


「お前も十分失礼なことしてるからな!」


 受付嬢さんがもじもじしながらフェアを差し出してくる


「あの……下着見ましたか? 恥ずかしいのですが」


 これはちょっと意地悪したくなるよなぁ


「いやいや見てませんよ! ……それにしてもエッチな下着ですか、受付嬢さんもいい年してるん――」


「あ?」


「……え?」


 なんだ今のドスの効いた低い声は、誰かいるのか?


「お前いまなんつった?」


「……え?」


 受付嬢さんが言ったのか? いやいやそんなわけ――


「え? じゃねぇんだよ! なんつったかって言ってんだよ! 返事しろゴラァ」


「は、はい!」


 反射的に直立になって返事をしてしまった


 フェアが握りつぶされ『ぐぇ』っと言っているが今はそんなこと気にしてられない


「てめぇなめてんのか? あ? おい、年齢の? 年のこと言ってんのか? あはははははははははははは」


「……あ、あはは」


「何笑ってんだゴラァ! てめぇなめてっとマジブッ殺すぞ。おい目見て話せや、知ってるぞてめぇハーレムなんだってな? 家でにゃんにゃんしてんのか? ははは若い奴はいいよなぁいつも楽しそうでよぉ!」


 フェアが受付嬢さんの手から逃れ、出口に逃げ出した、俺も慌てて後を追った


「いつまでも幸せが続くと思ってんじゃねぇぞゴラァ!」


 声が後ろから聞こえた


 俺はベットに逃げ込み、フェアと震えながら眠った




 次の日


「ご主人、手紙がきてるにゃ」


 ヒマワリから手紙が渡された、まだ早朝なのに起こさないで欲しい


 差出人は書いていない、この世界に差出人の名前を書くかどうかは知らない、手紙なんてはじめてもらった、少し重い


 手紙をつまんで取り出し広げてみる


「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」


「ぎぃやぁあああああああああ、助けてなの、嫌なの嫌なの~」


 フェアが一目見て部屋から出ていった、俺は封筒を落とした、封筒からゴトっと音がし拾ってソッと開けてみると、……バイアグラが入っていた


 俺が怖くなりベットに潜り込むと窓から音がする、石が窓に当たるかのような音だ


 窓の外を見ると……家が一望できる距離くらいに受付嬢さんがニタァとした笑いを浮かべて壁から顔だけ覗かせている


 俺は怖くなりトイレ以外部屋から出ず一日を過ごした




 次の日


 プルルルルル、プルルルルル


 朝からずっと電話が鳴っている


「ご主人、電話が鳴ってるにゃ、『クス様を出してください』、しか言わないにゃ。ご主人の体調が悪いようにゃから言ってるのにずっとかかってくるにゃ」


「ひぃ、俺は疲れてるんだ! 電話線抜いとけ!」


 ヒマワリがまだ部屋にいる


「それと、ご主人宛に荷物が届いてるにゃ、置いとくにゃ」


 ヒマワリが出て行ったあとにゆっくりとベットから起き、荷物をあける、果実の甘い香りがする…………グチャグチャになった苺がいっぱい入っていた



 

 次の日


 起きても特に変わったことはない、いつもの手紙が届いたくらいだ


 窓から気配がする、見ると、カーテンにうつる黒い影が人の形をしていた


 俺はエルの部屋に逃げ込んだ


 サンが部屋に来いと言っているがサンは確か怖がりだ、無理だ、俺はエルの部屋で一日を過ごす、エルは夜中まで起きていて俺のことを心配していた




 次の日


 起きるとまず窓に目をやった、カーテンの隙間から覗いている目と目があった


 俺は全力で逃げ、ルナの部屋に逃げ込んだ


 サンが何か言っていた




 次の日


 俺は眠れなかった、ルナが爆睡している


 朝方に窓からガラスを傷つけるような音がする、鍵の付いているあたりからからだ。影の手が鍵のあたりを行ったり来たりしている


 ルナを揺すっても起きない


 俺はヒマワリをたたき起こし、一緒にサンの部屋へ連れて行った、そして震えた




 次の日


 なにも起きない、手紙もこない、でも眠れない




 次の日


 なにも起きない、手紙も来ない 


 俺は部屋に戻った、今日はぐっすり眠れた




 次の日


 冒険者達が家に押し寄せてきた、リビングに通す


 話を聞くと受付嬢さんがオークにさらわれたらしい


「助けに行くわよ!」


 サンが元気よく言っているが、助けたらまたあの日々が繰り返されるのか?


 そこへフェアがフヨフヨと飛んで来た


「謝ることって大切だと思うの! きっと許してくれると思うの! 恩をうるの!」


 …………確かにそうだ! 謝っていなかった! 手紙にも好きって書いてあった、受付嬢さんは俺のことが好きなんだ! いつもの受付嬢さんに戻って欲しい、そうしたら受付嬢も入れてハッピーハッピーハーレムじゃないか! みんなウィンウィンだ!


「それでいこう! オークだったか? まかせろ、俺の瞬足ブーツですぐに助け出す! だが隠密行動だ、俺ひとりで行く!」


 仲間に恥ずかしいところは見られたくない、勇者なんだから、震えてたけど勇者なんだから!


「そうね、気づかれずに助け出したほうが危険が少ないかもしれないわね」


「みゃーは行くにゃ! みゃーなら匂いも辿れるにゃ、それに受付嬢さんにはご主人と引き合わせてもらった恩があるにゃ」


 ヒマワリでも恩とか感じるんだ、しかしヒマワリになら格好悪い所を見られてもどーも感じんな


 ヒマワリと一緒に受付嬢さんの後を追った




 ヒマワリの鼻は優秀だった、森の奥にひっそりと佇む洞窟をすぐに見つけ出した


「みゃーが囮になってオークをおびき出すにゃ、ご主人はここで隠れて一気に行くにゃ、決してみゃーが合図を出すまで来たら行けないのにゃ」


 洞窟から少し離れた茂みに潜み、ヒマワリが作戦を提案してきた


 ヒマワリにしてはいい作戦かも知れない


「危険じゃないか?」


「みゃーの足なら余裕にゃ!」


 ふむ、確かに、行けそうだな


「頼んだ」


「みゃ、合図はそうだにゃ、叫ぶにゃ!」


 お前いつも叫んでるな


 ヒマワリが洞窟の方に歩いて行った、姿が見えなくり少したった頃、パンパンという音が聞こえる


 銃か!? まさかこの世界に銃があるとは!


 俺は急いでヒマワリの安全を確認しに行った。そこにはヒマワリが………………ケツドラムをしていた


 ケツを洞窟に向け、体をくの字に曲げて洞窟の方を必死に見ながらケツを丸出しにして叩いていた


 これが猫の恩返しか、見なかったことにしよう


 俺は息子を少し膨らませて元の場所に戻った。ちょっと悔しい


 しばらくして猫が戻ってきた


「……オーク、来なかったにゃ……」


「…………そうか」


 俺たちは隠密行動で洞窟の中に潜入することにした


 洞窟の中は薄暗くひんやりしていた、寒気がするというか、中にボスでもいるのかもしれない


 俺たちは慎重に音を殺し、洞窟の中を進んでいった


「ぷぅ~」


 猫のケツのあたりから音がする


「…………お前、今なにした?」


「オナラくらい誰だってするにゃ!」


「状況を考えろ!」


 てめぇがケツ丸出しにしてたからだろ!? まぁいい、進もう。


 洞窟の最新部までたどり着いた、オークの姿は見当たらない


「やっと……来てくれましたか」


 受付嬢さん平然と石の上に座っている


「すいませんでした~!」


 俺はすぐに土下座した、ついでに猫の顔面も地面に擦り付ける


「にゃぶ!?」


 受付嬢さんがこちらに近づいてくる足音が聞こえる


「もういいですよ、さ、帰りましょう」


「あの、オークは?」


「もう倒しましたよ」


 受付嬢さんは強いらしい。ニコッと笑うとスタスタと先に帰ってしまった


 女の人の気持ちはわからなかった、でも許されはしただろう


 洞窟を抜けたが、森の中の出口、平原との境目で猫が急に足を止めた


「みゃーはもうダメにゃ、先に行くにゃご主人……」


 まさか、洞窟の中で怪我でもしたのか!?


 洞窟は薄暗かった、罠があったのかもしれない


「どうした大丈夫か!? パルプンテで治せるかも知れない!」


「パルプンテ……では無理にゃ、ご主人、いいから先に行くのにゃ」


 そんなの、できるわけないだろ! お前を、お前を見捨てるなんてことは絶対にしない!


「お前を置いていけるわないだろ!」


「もう、ダメにゃ……」


 ヒマワリが座り込んでしまう


「おいあきらめるな!絶対に俺が助けてやるから!」


「みゃーは…………みゃーは幸せだった……みゃ」


 そんな、そんなことって………………


「ヒマ、ヒマワリィイイイイイイイイイイイイイ」


「にゃあああああああああああああああああああああ!」


 ヒマワリが………………漏らした


 俺は放尿シーンで興奮する変態ではない


 猫は恍惚の表情を浮かべている


 …………みんな集めて目の前で恥ずかしながら漏らすのも興奮しそうだな……


「お前なにやってんの? ケガは? つかお前さぁ、一人になるとかさぁ」


「! 考えつかなかったにゃ! 魔物いたら襲われるかもしれないにゃ、でも仕方なかったのにゃ! あの洞窟寒かったのにゃ」


 こいつほんと馬鹿なの?


「そりゃケツ出してたら冷えるわ」


「! ご、ご主人見たのにゃ!? 決して見るなって言ったにゃ!?」


 口が滑った! 


 俺はパルプンテで猫を水浸しにしたあと家に帰った


 みんなは『どうせお前がセクハラしたんだろう』と言ってきた、助けたのに!

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